1-7 掲示板
学園を後にした俺は駅前近くの喫茶店へとやってきていた。
理由はメールの件を白鐘に伝えるためだ。さすがに双海まで行く時間はなかったので、白鐘にはこちらに来てもらうことになっている。
丁度、神月に用事があったらしく近くにいるからと、駅前で落ち合うことになった。
しかし待ち合わせの時間はとっくに過ぎている。
「おっかしいな。近くにいるって言ってたんだけど、何かあったのかね」
コーヒーを飲みながら、スマホに映し出された時間を確認する。まあ何かあれば連絡してくるはずだし、もう少し待ってみよう。
そう思っていた時、遠くからサイレンの音が響いてくるのが聞き取れた。
しかもどんどんこちらに近づいてきているのが分かる。しばらくして喫茶店が面している道路を一台の救急車が横切っていった。
「事故でもあったか?最近多いからな。俺も注意を──」
そんなことを言っていると今度はパトカーが二台、目の前を横切っていくと、そう遠くない場所でサイレンが鳴り止んだのが分かった。
「なんか大事っぽいが・・・・・・見に行ってみるか」
野次馬になるつもりは毛頭ないが、白鐘が事故にあってても困るからと、喫茶店を出てパトカーが向かった方角へと歩き出す。
店を出て一分ほど歩いたところに先ほどの車両が止まっていた。
辺りはサイレンの明かりに照らされて、騒然としている。とあるビルの前に立ち入り禁止の黄色いテープが張られていた。
見る感じ普通のオフィスビルのようだが、建物内に数人の警察官が入って行ってるのが見える。
「すごい野次馬の数だな・・・・・・。強盗とかでもなさそうだけど、何があったんだ?」
誰かに聞ければいいが、何があったのか知ってる人なんていないだろうしな。
そう考えつつ人ごみを見渡すと、少し離れたところに白鐘の顔を確認する。一応、近くまでは来てたみたいだ。
本人の姿を確認し安心した半面、周囲の明かりのせいだろうか──白鐘の表情に陰りが見えたような気がする。
──っと、俺の視線に気づいたのか、白鐘はこちらを見やると、人ごみをかき分けてやってくる。
「遅れてしまって、すまない。途中で知り合いに会ってね。話していたら、こんな時間になってしまっててさ・・・・・・。それで急いで向かってたら、こんなことになっていたんだ。一体、何があったんだろう・・・・・・」
白鐘と話していると、ビルの中から担架が出てくるのが見えた。階段に差し掛かったところで、一瞬ではあるが布の隙間から腕が垂れるのが視界に入る。
俺はその光景に言いようのない恐怖を抱き、自然と目を反らしてしまった。
「今の・・・・・・見たかい?」
白鐘も見えたのだろうか、苦い表情をしながら救急車のほうを向いている。
あれは間違いない、被害者の遺体だろう・・・・・・。
ビル自体もしばらくは封鎖されるだろうし、調べることは到底できそうにない。
「あれって、まさか──」
「うん、そうだと思う・・・・・・僕たちが調べていることに関係あれば危険だ」
白鐘の心配も、もっともだ。もしメールに関連する事件ならば手を引いた方がいいだろう。
しかも今回は隣町とかではなく、自分の住んでいる町で起こったことだ。
「危険なのは承知だよ。だから折を見て、いつもの生活に戻ればいい。元々、東先輩の好奇心で始めたことだったしな。先輩も深くは関わらないはずだから、もう少ししたら手を引くはずだ。とりあえずメールの内容だけ知らせておくよ」
「うん、すまない。もう一度、どこか店に入ろうか。遅れた分、今度は僕に奢らせてくれ」
気づくと騒々しかったのが嘘のように人もまばらになっていた。サイレンのランプはいまだに辺りを赤く染め上げている。
俺はビルの方を再度一瞥して、その場を離れるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
『それでは続報です。先月に起こった──』
次の日の朝、白鐘と情報の共有をした旨をみんなに伝えた俺は朝食をとりつつニュースを流していた。
やはり昨日のビルで起こったのは殺人事件だったようだ。
内容は監視員が勤務中に体を真っ二つにされていたという。四方に内臓が飛び散り、とんでもない惨状になっていたみたいである。
ということはあの時、俺が見たのは──考えるのはやめておこう。
外野とはいえ、まさか殺人現場に居合わせることになるとは思ってもみなかったのだから。
「そろそろ出るか・・・・・・」
あの光景が頭について離れない。
早く忘れられればいいのだが・・・・・・。
◇◆◇◆◇◆◇
学校へとつき、いつも通りの騒がしい朝を迎えた後、俺たちは先輩に呼ばれ新聞部の部室へと来ていた。
昨日起こった事件についての話かと思ったのだが、それとはまた別のことらしい。
「それで俺たちを呼んだのはどういう?」
「うむ!それについては三上から話してもらうおう!」
顔の前で手を組みながら、相変わらずのデカい声で先輩が口にする。
部室内のホワイトボードには昨日、学園内でインタビューしたのであろう、様々な部活の記事内容が記してある。
またその他には少しばかりではあるが、事件の内容なども書かれていた。
当然、ビルで起こったことも記されている。
「はい、それではこれを見てください。先日、とある掲示板で見つけたんですけど・・・・・・」
三上は手に持ったタブレットを机の真ん中に差し出した。
そこにはある掲示板のスレッドが表示されている。
「このサイトがどうしたって・・・・・・ん?これって」
「はい、そこに例のメールに似た内容の書き込みがあったんです」
書き込まれていたのはメリーという者から、変なメールが届いたという内容であった。
その文面からは何か怯えのようなものを感じとれる。
書き込んだ本人は自分が中学生だということ、このメールが誰から送られてきたのか分からなく、急に送られてきたということが書かれていた。
それに対しての反応にはふざけた内容の書き込みだったり、釣りなんじゃないか──などのよく見かけることばかりだ。
当然、ただの悪戯だろう、などの返信も見受けられる。
「確かに所々違ったりするけど、ウチの生徒に送られてきていた内容に似てるな」
「まあ中身が地味に違ったりするのがチェーンメールだからな。こっちでは血濡れのメリーじゃないみたいだし」
「それでこのメールを受け取った生徒は、どうなったんだ?」
「それが・・・・・・」
俺が問いかけると、三上は少し間を置くと四条のほうへと視線を向ける。
それに小さくうなずくと彼女は、静かに口を開いた。
「その学生の子なんだけど・・・・・・すでに亡くなってるわ」
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