1-6 メールの内容

「こ、ここが文芸部か・・・・・・」


俺と匠はゼーハーいいながら文芸部の部室の前で膝に手をついていた。

あのあと陸上部や吹奏楽部、はたまた中等部まで学園内を歩き回ったのである。当然ながらそれまでにメールが届いてるものを探しはしたが届いてなかったり、はたまた届きはしたけどイタズラだということで、すぐに消してしまったという言葉ばかりであった。

まさかこんなに情報が集まらないものだとは思っていなかった・・・・・・。

あまりにも収穫がなかったので、人が集まるところということで大図書館へと向かったのである。

図書館内の何人かに話は聞いたが、届きはしたがこちらもすぐに消してしまっただの、友人が受け取ったらしいが気にしていなかっただの、まあ当然の如く何も話を聞くことが出来なかった。

もう諦めようかと思ったときに受付で委員の仕事をしていた汐里に声をかけたのが正解だったようだ。

どうも聞いた話では文芸部の生徒が、例のチェーンメールを受け取ったという。

そしてこれを受け取ったことにより、何かを閃いて創作意欲が湧いたといって書き物をしているらしい。

それならワンチャン、メールが残っているのではないかと思い、急いで走ってきたということだ。

途中、走っているところを先生に見つかってしまい追いかけられて、少しばかり時間をロスしてしまったが──。


「よし、入るぞ」


匠が部室のドアをノックすると、中から女の子の声が聞こえてきた。しばらくしてドアが開かれると、黒髪ロングの如何にも本が好きそうな女子生徒が姿を見せた。


「どうも~。ちょっと聞きたいことがあって来たんですけど──って園田さんじゃん?あ、そういえば文芸部だっけ?」


「あれ、坂城くんじゃない。それに日立くんも。どうかしたの?もしかして入部希望?」


──といいながら目の前の女子生徒が微笑んだ。彼女は同じクラスの園田 未沙(そのだ みさ)さんだ。いつも物静かで読書をしている女の子である。大人しく目立たない子ではあるが、友達はそれなりに多い方だと思う。

確かに読書をしていることが多いが、昼休みともなれば友達が呼びにきてるところをよく見るので付き合いやすい子ではあるのだろう。


「残念だけど、そうじゃないね~。最近、流行っているチェーンメールを受け取った生徒がいるって聞いてきたんだけど」


「ああ、うん。中にいるよ、どうぞ」


園田はすぐに部室の中へと通してくれた。そこには数人の生徒たちが書き物をしたり、本を読んでいたりと、各々の好きなように活動している。


「あの子がそのメールを受け取ったって子よ。下級生だから怖がらせないでね?うふふ」


「いやいや、そんなことせんて・・・・・・」


園田ってこんな冗談をいう子だったんだな。やっぱ人って関わってみないと分からないものである。


「ねぇ、君。ちょっといいかな?」


匠は黙々と文面を書いている少女に声をかける。すると彼女はゆっくりと顔を上げ、俺たちを交互に見やると、恐る恐る口を開いた。


「あ、あれ・・・・・・確か日立先輩と坂城先輩──ですよね?」


「ん?俺たちのこと知ってるの?」


「はい、有名なので・・・・・・」


どういった意味で有名なのか察しはつくが、出来れば考えたくないものである・・・・・・。

まさか下級生にまで知られているとは・・・・・・しばらく大人しくした方がいいかな~。

俺は半目になりながら、乾いた笑いを漏らした。


「おお!それなら話が早い!ちょっと聞きたいことがあってさ?」


「はい、何でしょう?」


匠はうんうんと頷きながら、満足げな表情になった。

嬉しそうなのはけっこうだが、これのせいで今後も何かしでかすのは目に見えてるな。

『のんびり』という言葉は俺の学校生活には、これからもなさそうである・・・・・・。


「聞いた話なんだけど、君のところに今流行りのチェーンメールが届いたというのを知ってね。他にも何人かの生徒には届いていたんだけど、みんな消しちゃっててさ~。それでその内容について調べてるんだけど、よかったら見せてくれないかなと思ってね」


「メールですか?何かあったので?」


「いやいや、ちょっとした好奇心というか──昔よく出回ってたから、懐かしさみたいなものもあってね~!」


匠は濁しつつも簡単にかいつまんで説明する。惨殺事件について関係しているかもしれないなんて言えるわけないし、もしそれを言ったとしてそのことが広まってしまっても面倒なことになるのは明白だ。

怖がるものや、さらに面白がって変なことに首を突っ込まれでもしたら動きにくくなるし・・・・・・。

まあ首を突っ込んでるのは俺たちにも言えることなんだけども・・・・・・。


「なるほど、夜に消そうとしてたので大丈夫ですよ。ちょっと待ってくださいね」


そう一言口にすると、生徒はスマホを取り出してメールを探し始めた。

しばらくして目的のものを見つけたのか、スマホを俺たちへと差し出してくる。そこには一通のメールの文面が表示されていた。


「これです。どうぞ」


「ありがとね、ちょっと失礼」


俺と匠はスマホを受け取り、そこに映し出されている内容へと視線を走らせる。


『メールが届いたあなたにはこの後、不幸が襲い掛かるでしょう。避けたければこのメールを3人に回してください。もしそれをしなかった場合、あなたは死ぬことになるかもしれません』


実際の本文とは違うが、メールの内容を簡単に要約するとこんな感じだ。まあ一昔前の文面ではよくあった内容といったところか。

そして最後にこんなことが書かれていた。



──血濡れのメリー、と。





◇◆◇◆◇◆◇





その頃、某所──。


「それじゃ休憩いってくるから」


「おう、行ってこい」


休憩へと向かう同僚を見送り、男は待機所内の机に腰を下ろし、目の前の監視モニターへと目を向ける。

これといって何も問題が起こってないのを確認すると、横に置いてあった雑誌を手に取りパラパラとめくり始める。

その時、持っていたスマホの着信音が部屋の中に鳴り響く。


「ん?なんだメールか。何々・・・・・・ああ、これか。最近、やたらと流れてくるチェーンメールってやつは。まったく──こんなものを作って送るとか、どれだけ暇なんだよ。まぁ俺も人のことは言えないか」


男はふっと鼻で笑い、スマホを机の上に投げ置くと、また雑誌の方へと視線を落とす。


「メリーね。『私、メリー』ってか?ハハハ、ないない!」


男は一人、ブツブツ言いながら椅子に深くもたれ掛かる。

監視モニターの一つに異常が起こってることにも気づかず──。





◇◆◇◆◇◆◇





俺は学園内のベンチに腰掛けながら、コーヒー牛乳を飲みつつ見せてもらったメールの内容を頭に思い浮かべていた。


「血濡れのメリー・・・・・・か」


こういった怪談じみたチェーンメールは過去にもいろいろあったけど、こんな直球なやつもなかなかに珍しい。

流行っているメールが全てこの内容とは思わないけど、これが惨殺事件に関係しているとは到底思えないよな。

誰がどう見ても明らかに悪戯だということが分かる。もしこれが関わってるとしたら犠牲者は計り知れないだろう。


「白鐘にも伝えておくかな」


匠は生徒に送ってもらったメールを手に、東先輩たち新聞部の面々を探しに走っていった。

あんだけ歩き回ったのに元気なやつだよ、まったく・・・・・・。

とりあえず純や瑞穂たちには明日にでも報告するとして、俺は白鐘に接触することにしよう。

そう考えて自分のスマホを取り出すと、丁度いいタイミングで着信が入る。

画面には白鐘の名前が表示されていた。


「ドンピシャに電話してくるとかエスパーかよ・・・・・・」


俺は乾いた笑いを漏らしながら、かかってきた電話へとでる。


「もしもし?監視でもしてんのか、お前は?」


『おや、何のことだい?』


「いや、いい・・・・・・。この後、時間あるか?」


白鐘の返答に溜息を吐きながら、今後のことについて話をするのであった。

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