1-5 謎の人物

次々と運ばれてくる料理を見た匠は真っ白になっていた。傍目からしたら魂も抜けているんじゃないかと思われてもおかしくないだろう。

まあ後々、三人増えてしまったのだから仕方がないか・・・・・・。


「ははは・・・・・・俺の小遣い・・・・・・」


「よし!それでは明日の放課後についてだが──」


「明日は学園新聞の記事についての取材をしなきゃいけないので、そちらを優先してもらいます!」


東先輩がピザを片手に今後のことについて話そうとすると、四条が割って入ってきた。三上もうんうんと頷きながら、美味しそうにパスタを頬張っている。


「いや、しかしだな・・・・・・」


「しかしもおかしもないです!ちゃんと取材をやってもらいます!」


「むぅ・・・・・・仕方ない、四条くんの言うとおりにしておこう」


さすがの先輩も四条の勢いに押されたのだろう、今回は言うことを聞くようだ。いや、まあ普段から聞いてあげてよって話しでもあるが・・・・・・。


「じゃあ俺たちはメールのこと聞いて回ってみるか!」


「あ、復活した」


匠はフライドポテトをつまみながら、明日の放課後について俺と純の顔を交互に見やる。予想はしていたが、やはりそうきたか。

俺としてもチェーンメールについては気になるところだが、どうしたもんかな。


「ねぇ君たち、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


メールのことについて話していると、一人の男子生徒が声をかけてきた。制服を見るに事件のあった学校の生徒なのが見てとれる。

澄んだ青色の髪に、端整な顔立ちをした如何にも美形という言葉がよく似合う男子生徒だ。

とにかくイケメンすぎて、少し腹が立つがそれは置いておこう。雰囲気もいいところのお坊ちゃんという感じがする。


「えぇと、君は?」


「あ、ごめんね。僕の名前は白鐘 伊吹(しろがね いぶき)。ちょっと気になったことを話してたから、声をかけさせてもらったんだ」


伊吹と名乗る生徒は申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、全員に頭を下げる。そんな大したことは話してなかったと思うけどな。


「白鐘だっけ?何だ、聞きたいことって!立ったままなのもアレだし、そこ座ったらどうだ?」


初対面にも関わらず遠慮なく声をかけるのは匠の得意分野の一つだ。

そして少しすると仲良くなってたりするのだから、そこのところは見習いたいものである。


「すまないね、失礼するよ」


白鐘は純の横へと座って、全員の顔を見渡した後、質問の方へと移る。


「それじゃ聞きたいことなんだけど・・・・・・君たち、さっきまでウチの学校の前でいろんな生徒たちに声をかけてたよね?もしかして事件のことを調べてたのかい?」


おっと、見てたのか。まあ他の学校の生徒が門の前でうろついてたら気になるよな。


「うむ、その通りだ!この手の事件に関しては首を突っ込みたくなってしまってね~!我ながら困ったものだよ、ハッハッハッ!」


いや、ホントだよ・・・・・・こんな大変なことに首を突っ込みたくなるとか、いずれ消されるんじゃないか、この人。

というか、ついやっちゃうとかいう理由で俺たちは巻き込まれてるのか?

何だろう、何故か悲しくなってきた──。


「ん?白鐘ってあの学校の生徒なんだよな?それじゃあ惨殺事件のことについて、ニュースでやってること以外に何か知ってることとかあるか?」


純は白鐘の制服を見て、先ほどの生徒たちと同様に事件のことを口にする。俺たちの会話について聞いてきたということは、本人も興味を持ってるということだ。

もしかすると他の生徒たちに比べて、詳しい情報を持っているんじゃないかと踏んだのだろう。


「ニュースでやってること以外か・・・・・・チェーンメールのことについては聞いたかい?」


「ん?ああ、最近どの学校でも流行ってるって聞いたな。だからウチの学校でもメールが届いた生徒がいるんじゃないかと話してたところだ」


「もしかしてチェーンメールと今回の事件には何か関係があるのか?」


白鐘の口振りから察するに、そう考えるのが自然だ。とはいえこの二つのワードに関連があるとは到底思えないのだが・・・・・・。


「いや、詳しいことまでは分からないよ?先生たちが話してることが偶然耳に入ってきたんだけど、メールがどうとかいってたな。そのあと多くの生徒に話を聞いてたみたいだけど、それ以外はこれといって変わったことはなかったかな」


「こりゃますますメールの内容を知らなくちゃいけなくなったな。白鐘には届いて――るわけないよな。友達とかで送られてきた人とかはいるのか?」


白鐘は申し訳なさそうに首を横に振る。そのかわりにポケットからスマホを取り出し、電話番号を表示する。


「かわりといっては何だけど、何か分かったことがあれば連絡するよ。あと、そちらでも何か分かったことがあれば教えてもらいたいんだけどいいかな?今回の事件には僕も個人的に興味があってね。君たちのように友人と一緒にいろいろと調べているから、協力させてもらおうと思っているんだ」


「それはありがたい!協力者が増えることは大歓迎だ!俺の方も少しアテがあるから、いい情報が集まるかもしれんな!これで写真部にも一泡吹かせられるかもしれん!」


先輩は両腕を組みながら、大笑いする。それのせいで他のお客さんたちから注がれる視線が痛い・・・・・・。

この人、嬉しくなったらやたらと声がデカくなるから、いつも注目されるんだよな・・・・・・。


「それじゃ連絡先を交換しとくか!連絡たのむぜ?」


「ああ、こちらこそよろしく頼むよ!じゃあ僕はそろそろ失礼させてもらうね!」


そう言って白鐘は立ち上がり、座っていた席に置いていたカバンを手にするとファミレスを後にした。

その姿を見送ったあと、瑞穂と汐里は店内の時計へ目をやった。時間はもうすぐ20時をさそうとしている。


「あ、門限に送れちゃう!もう帰らないとお母さんから電話かかってきちゃう!」


「私もお父様に叱られてしまいます・・・・・・」


二人は残っていたドリンクを一気に飲み、急いで立ち上がった。


「俺たちも帰るか!茜、仕方ないから送って行ってやる」


「別に気にしなくてもいいわよ。一人でも平気だし――」


「いいから行くぞ!」


匠は茜に声をかけて、会計へと向かった。いつも喧嘩してるが、なんだかんだいって仲がいいんだよな、この二人・・・・・・素直じゃないところもそっくりだ。


「それじゃ帰りましょうか。明日のことですが僕たち新聞部は別件があるので、事件のことについては皆さんにお任せします。あ、無理にやらなくてもいいですよ?それぞれ自由に過ごしてもらったんでいいですから。おおもとの元凶は先輩ですから──」


「元凶とはなんだ元凶とは!」


ああだこうだ言いながら、ファミレスを後にし、俺たちは駅の方へと歩いて行った。





◇◆◇◆◇◆◇





「もしもし?ああ、こちらは問題ない。協力はとりつけたから、おのずと情報をくれるだろう。うん、僕たちは僕たちで調査を続けよう。もしかすると怪異が近々、動き出すかもしれない。注意だけはしておいてくれ」


白鐘は電話を切ると、真剣な面持ちで空に浮かぶ月を見上げた。


「これ以上の犠牲者を出すわけにはいかない。何としても見つけ出す──」


そう言うと拳を強く握りしめ、暗い道を進んでいくのであった。





◇◆◇◆◇◆◇





次の日──。


放課後になり俺と匠は学園内を歩いていた。これから例のチェーンメールについての聞き込みをするためである。

純もついてくる予定だったのだが、急遽部活に出なければいけなくなってしまい、俺たち二人となってしまった。

新聞部は昨日言っていた通り、学園新聞の記事のために高等部のみならず中等部にも足をのばすということで、学園内を奔走しているようだ。

瑞穂は吹奏楽部で練習中だろう。音楽室から楽器の音色が響いている。

茜は純と同じ陸上部であるため、二人して部活に専念しているころだろう。

汐里は図書委員のため、この時間帯は大図書館にいるはずだ。小中校一貫のため、蔵書量なんかも半端じゃない。それを貸し出し、返却など全てにおいて対応しなきゃいけないのだから捌く量も大変だろうな。

一応、匠も弓道部に入っているのだが今日は参加しないということだ。それにしても匠が弓道とか違和感しかないような気がするな・・・・・・実際見たことないから分からんけども・・・・・・。


「よっしゃ!それじゃ二人しかいないが適当に聞き込みしようぜ。とりあえず同じ部活のみんなにも聞いてみたけど、こっちは届いた奴はいなかったわ。クラスの連中にも聞いたけど収穫はなしだな~。本当に流行ってんのかね・・・・・・」


「まあウチの学園なら生徒も多いし、一人ぐらいはつかまるだろ。まずはみんなが所属している部活の方に顔を出してみよう。だいたい知り合いばっかだから、聞き込みしやすいしな」


「そうだな。じゃあ陸上部から行くか~。中等部はどうする?一応、妹にメール受け取ってるやつがいないか聞くことも出来るぞ?」


「強制とはいえ、仮にも調査だしな・・・・・・。ちゃんと聞いとかないと後々、先輩に何を言われるか分からないし──」


一通り、ルートを決めた俺たちは、まず純や茜がいる陸上部に顔を出すため、グラウンドへと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る