1-4 チェーンメール
駅から少し離れた住宅街の中を俺たちは並んで歩いていた。
「ところでさ・・・・・・なんで3人も一緒にいるんだ?」
先ほど駅前でバッタリ会った瑞穂たちが後ろをついてきている。この後、クレープを食べに行くと言っていたのに、これから事件のあった学校に向かうと話すとついてくると言い始めたのである。
「監視のためです!また何か騒ぎを起こして、他の人に迷惑をかけてもいけないでしょ。だからついていくんです!」
「誰かさんのことが心配なんだよな~?口を開けばいつも──」
「もう茜!変なこと言うと、その口縫い合わせるわよ!」
「お~、こわっ」
瑞穂と茜は学園で過ごしてる時と同じように仲良くじゃれあっている。汐里はスマホを手に、今回の事件のことを調べているようであった。
匠と純は東先輩と今わかっている範囲内での情報整理を行っているみたいだ。まあ整理とはいってもニュースで流れてる程度のことなので、それほどの量はないと思うが──。
「明日はどうしますか?まずは校内の部活を回ってみて、目標などを聞いていこうと思っているんですが」
「そうだね。今日の分も取り返さなきゃいけないから忙しくなりそうだね」
そして四条と三上は事件のことではなく、明日の新聞部の活動について話しているようだ。何ともまぁ、まとまりのないグループである。
これから惨殺事件の調査だっていうのに、こんなに緊張感が無くていいのだろうか・・・・・・。
そんなことを考えていると道すがら、学生と思しきグループとすれ違うようになってきた。どうやら学校が近くなってきたようだ。進むにつれて学生の量も多くなっていく。
「あれが例の学校か──だいぶ静かにはなってるみたいだな。それにしてもあんな事件があったのに、普通に授業やってたのか?」
「それは無いんじゃないか?俺だったら休むわ・・・・・・」
確かに純の言いたいことも分からなくはないな。死人が出た日に休学にならないとは──。
「ハッハッハッ、その辺りのことも込みで調べに来たんじゃないか!さて警官の姿も無いみたいだし、どんどん聞き込みをしていこうじゃないか!」
東先輩は大声で笑いながら、学校へとズンズン進んでいく。
傍から見たら怪しい人にしか見えんな・・・・・・。
俺は溜息を吐きながら先輩の後を追いかけていくと、みんなも同じように歩き始めるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
惨殺事件が起こった学校の校門前で俺たちは各々、声をかけることにした。
中に入って直接というのは無理なので、外に出てきた生徒に話を聞くことしかできないが、少しでも新しい情報が手に入ればいいのだが・・・・・・。
とりあえず俺は匠と純と一緒に話を聞いてみることにした。
丁度、匠が2人組の女子生徒に話しかけてたみたいなので後ろについて会話の内容に耳をすませる。
「なるほどね~。そんな事件があったのに今日は授業してたの?」
「ううん、授業はなかったよ。朝からお昼までは警察の捜査とかで入れなかったんだけど、職員室のある校舎に立ち入らなかったら部活はしてもいいってことだったから別校舎とか部室棟とかに部室があるところは、少しの時間ではあるけど登校した生徒もいたみたい。文化部のみってこともあって、そんなに遅くまでいることもないしね」
ああ、そういうことか。確かにもう陽も暮れはじめる時間帯だからな。帰りはじめるのも当然か。
「ほう!じゃあ今帰りってことだよね?よかったらどっかに遊びにいかない?」
「おい、匠」
「冗談だって・・・・・・ところで最近、学校で何か変わったことはなかった?なんか流行ってるものがあるとか、いろいろ──」
純に突っ込まれて、匠はバツが悪そうな表情で本題へと移る。絶対、冗談じゃないな・・・・・・匠の女の子好きにも困ったもんだ。
匠の質問に女の子たちは顔を見合わせ、首をかしげながら口を開く。
「う~ん、別にこれといってはないと思うよ?あんな事件が起こるなんて驚いたぐらいだし・・・・・・」
やはりそう簡単に新しい情報なんて手に入るもんじゃないよな~。見る感じ普通の高校みたいだし、珍しいことが起こる方が稀だろう。
そもそも一生徒が何か知ってるほうが驚き──。
「あ、でも──」
そんなことを考えていると生徒の一人が思い出したかのように口を開いた。
「最近、いたずらメールが流行ってるって聞いたことあるな~。私はまだきたことないけど」
「ああ!あの悪趣味なチェーンメールでしょ?私もまだ届いてないけど、友達のところには届いたって言ってたな~。いまどきまだそんなことを考える人がいるなんてさ」
「チェーンメール?」
まだそんなものが回ってくるのか。ガラケーの時には俺もよく見たが、そんなものを考えて楽しむ輩がまだいるとは、それもまた驚きである。
言葉もそんなに聞かなくなってるぞ?
「そうそう!ここ2カ月くらいで一気に増えたんだって。他の学校の子たちのところにも届いてるみたいだし、君たちの学校の子たちにも届いてる人いるんじゃないかな?」
「チェーンメールか。内容が気になるけど、この子たちには届いてないみたいだし、見ることは出来なさそうだな。ネットで調べたら出てくるかもしれないが──」
「そうだな~。うん、ありがとう!教えてくれて!ごめんね、時間使わせちゃって」
「ううん、それじゃあね~」
他の生徒たちにも話を聞くため、女の子たちを解放し、俺たちはまた校門のところへ戻るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「よし、全員集まったな!何か新しい情報はあったかな?」
東先輩はみんなを集めると、眼鏡の位置を直しながら収穫を求めてくる。やっぱやる人いるんだ・・・・・・あの眼鏡をクイッとするやつ。
「私たちの方はこれといって無かったよ?ニュースで流れてることぐらいかな?」
「あと美味しいクレープ屋さんの場所を教えてもらったわ!かなり重要なことだと思うんだけど!?」
「茜ちゃん、それはまた別の話だよ~!」
「のんびり屋さんか!」
茜と汐里のやりとりに匠は突っ込まずにはいられなかったようだ・・・・・・。
茜は男でも気楽に絡めるサバサバとした性格をしているのだが、甘いものと可愛いものには目がないのである。
まあそのギャップが人気の一つでもあるんだけどね。
「僕たちの方も知ってるようなことばかりでした。東先輩が暴走したりして、生徒さんを怖がらせたりするので、そちらの方が大変でしたけど・・・・・」
三上は疲れ切った顔をしている。先輩を止めるのに苦労したようだ。それに対して四条は平気そうな顔をしているので、情報収集の大半は彼女がしていたのだろう。
とはいえこちらも目ぼしいことは無かったみたいだが。
「やっぱりどの生徒さんも知ってることは、ほとんど一緒だったね。そりゃそうか、そんなこと先生や警察が口外するわけないし・・・・・・」
「新しい情報が入るかと思ったんだがな~。こうなったらあの方法を使って──」
これは何か良からぬことを考えている目だな・・・・・・。
東先輩は何らかの情報源があるようだ。普通なら知らされていないであろう情報も引っ張ってきたりする。
今朝の事件のこともそうだ。ニュースでは殺人事件があったとしか放送されていないのに、被害者の状態や殺され方などを匠の耳にいれたのも新聞部だといっていた。
つまりは東先輩が学校内部の状況を仕入れたということになる。そんなことただの一学生が出来るはずもない。
何らかのパイプのようなものを持っていないと知りえないことなんじゃないだろうか。
もちろんそれについては何も教えてくれないし、聞いてもはぐらかされてしまう。
そもそもが謎の多い人で本人のことや家柄なんかも一切が分からない。四条や三上もそのことについては何も知らないらしく、3年生の先輩方に聞いても分からないということだ。
何度か匠や純と東先輩の後をつけていったことがあるのだが、角を曲がったり、人ごみの中に入ったりしたところで毎度姿を見失ってしまうのである。
俺の中では何よりも東先輩の存在が謎だ・・・・・・。
「さて!勇気くんたちの方は何かあったかな?」
「事件については当然ながら何もなかったですよ。だけど最近、変わったことがあるというのは聞いてきましたぜ!」
「ほう、それは一体?」
匠はフッと鼻で笑うと例のことを話し始めた。
「どうやら最近になって学生の間でチェーンメールがまた流行り始めたみたいです。最初に教えてくれた女子生徒二人組の後にも何人かの生徒たちに聞きましたけど、みんな同じことを言っていました。中には実際に送られてきたって生徒もいたんですけど、イタズラだというのも分かってたみたいなんですぐに消しちゃったって」
「チェーンメールか・・・・・・それは他の学校でも流行ってるのかい?」
「はい、この学校だけじゃなくて別の学校でも流行ってるみたいです。中には面白がって、内容を少し改変して送ったりとかする遊びもやってるって言ってました」
俺は他にも聞いたことを、その場のみんなと共有する。チェーンメールと惨殺事件の関わりはないと思うが、知っておいて損は無いんじゃなかろうか。
「ということはウチの学園でも、そのメールを受け取ってる生徒がいるかもしれないね~。よし!明日はそちらで聞き込みをしてみようじゃないか!」
「ちょ!?先輩!明日は学園新聞の一面記事の取材をしなきゃいけないんですよ!?」
「その取材と並行でやればいいじゃないか。二人とも、明日は忙しくなるぞ~!」
「えぇ!?そんな・・・・・・勘弁してくださいよ・・・・・・」
東先輩の言葉に四条と三上は戸惑いを隠せないでいる。並行での聞き込みか・・・・・・ご愁傷さまです。
「では続きはファミレスで話そうじゃないか。瑞穂くんたちも行くかい?匠くんの奢りだよ!」
「え、ほんとに!?さすが坂城じゃん!ごちそうさま~」
「ちょ!先輩、それは酷くないですか!?俺の小遣いが・・・・・・」
匠は嘆息しながら肩を落とす。まあ元はといえば自分が言い出したことなので、自業自得というところだろうな。
「ハッハッハッ、それじゃ向かおうじゃないか!」
「おーーーーーーーーー!!」
茜は奢りと聞いてノリノリである。瑞穂と汐里も『ごめんね』と言いつつ笑顔を浮かべていた。
とりあえず話の続きなどは後にして、俺たちは駅前のファミレスへと歩を進めるのであった。
俺たちを陰から見てくる存在には気づかないまま──。
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