1-3 電車に揺られて

いつも通りの授業が終了し、普段の放課後であれば商店街や駅前などで過ごしている時間だ。

しかし今日はいつもと違い遠出するときじゃないと乗ることのない電車に揺られていた。

理由は隣町への強制連行である。俺の横には同じく巻き込まれた純とその原因である匠が新聞部の連中と話していた。


「まさか日立たちも一緒に来てくれるとは嬉しい限りだ!賑やかな調査になりそうだな!」


「二人にまで迷惑をかけるなんて、本当に仕方がないですね・・・・・・あと声のボリューム落としてください」


「そうですよ。ただでさえ気が進まないのに、賑やかな調査とか不謹慎ですよ?」


この三人が現在の新聞部のメンバーである。

声がデカくやたらと騒がしい人が新聞部の部長で高等部3年の東 光一(あずま こういち)先輩。

そして新聞部の紅一点であり、俺たちと同じ高等部2年の四条 みさき(しじょう みさき)。

さらに二人に並んで小さく溜息をついているのが高等部1年の三上 颯太(みかみ そうた)だ。

部というほどの部員数ではないが、学園新聞やイベントの取材など学園内外問わず活動をしているという。他にも事件の話題などが出た時には東先輩の部長権限とかいう訳の分からない権利で調査に赴いたりするらしい。

四条と三上はそれに付き合わされているらしいので、俺たちと同じ境遇といった感じだ。


「はぁ~、新学期のことについても記事にしなきゃいけないのにこんなことをしてていいんでしょうか・・・・・・」


「こんなこととは何だ、こんなこととは!これも立派な活動の一環だぞ?」


「今日は中等部の方にも行かなきゃいけなかったのにな~」


やはり新聞部もそれなりに忙しそうだ。まあ入学式や始業式が終わって一週間ほどしか経ってないのだから、どの部活も忙しいのが当然か。勧誘で部員を集めなきゃいけないんだもんな。

俺たちが通っている神月学園は神月市内にある小中高一貫校である。中には高等部内だけではなく情報交換などをするために中等部などにも足をのばさなければいけなかったりするらしい。新聞部もそんな部活のうちの一つということだ。


「まあまあ二人ともそっちの方は俺も手伝うからよ!」


匠は三上の肩を叩きながら、そんなことを口にする。

何かその手伝いにも巻き込まれそうで、嫌な予感しかしないのだが・・・・・・。


『次は双海、双海。お降りになるお客様は──』


「さて、そろそろ着くぞ」


そうこう言ってるうちに目的地である双海市に着いたようだ。電車は双海駅に到着し停止する。

ドアが開くのを待ち、俺たちは電車のホームへと降り立った。





◇◆◇◆◇◆◇





駅の改札口から外へと出ると、多くの人が行きかっていた。

今回の事件が起こった双海市は神月市の隣にある町で、規模としては神月市よりも大きい町だ。

なので他の町から来た生徒たちが遊んでいるのを目にしたりする。当然、神月学園の生徒も例外ではない。


「やっぱ何度来ても都会だよな~、この辺は。遊ぶとこも多いし、色んな学校の生徒がいるのも頷けるぜ。それでまずは事件の起こった学校に直接向かうんでしたっけ?」


「ああ、その通りだ。ここからそれほど遠くない場所らしいから、すぐに着くだろう。さて行くとしようか!」


匠の質問にそう答えた先輩が目的の学校へと向けて歩き始めた時だった──。


「あれ?勇くん?」


俺たちの耳に可愛らしい女の子の声が届く。その声に足を止め、そちらの方を向くと三人の女の子が並んで立っていた。


「ちょ、マジか・・・・・・」


何でこんなところにいるんだ──って、そりゃ遊びに来てるに決まってるわな。

でもまさかこんなところで会うとは思ってなかったから、何て言おうか迷うな・・・・・・。


「おお、瑞穂ちゃんじゃん!それに茜に汐里ちゃんも一緒か!」


俺たちの前に現れたのは馴染みのある三人であった。

茶色のロングヘアーにカチューシャを付けているのが姫川 瑞穂(ひめかわ みずほ)で、俺の幼なじみである。いまだに昔のクセが抜けてないらしく、俺のことを勇ちゃんと呼んでくる。高校生にもなってちゃん付けで呼ぶのはやめろと言っているのだが、頑なに変えようとしない。

瑞穂の隣にいるのが沢見 茜(さわみ あかね)。名前の通り茜色の髪をポニーテールにし、その立ち姿はモデルのようである。純と同じ陸上部のエースで男女ともに人気があるが、特に女子の間でファンが多い。匠とはよく喧嘩している仲である。

そして三人目が水科 汐里(みずしな しおり)。三つ編みにした翡翠色の髪にフチなしの眼鏡を掛けている、典型的な眼鏡っ子といった感じだ。二人に比べたら地味な雰囲気だが、そのお約束な見た目と性格で密かに想いを寄せている男子も少なくない。

三人の仲の良さは定評で、いつも一緒に行動している。本人たちは気づいていないが瑞穂と茜はファンクラブがあり、汐里には親衛隊が出来ていたりするから驚きだ。


「東先輩たちと一緒にいるんだね。みんなで遊びに来てるの?」


「ああ──そ、そうなんだ!今からみんなでファミレスに行こうって話しててな!」


「その前に調査だけどな!」


「わぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!」


「調査?」


せっかく話題を反らせて、突っ込まれないようにしたのに匠が速攻でバラしにかかる。瑞穂のことだ、また面倒なことに巻き込まれてると知ったら何を言われるか分かったもんじゃない。


「なになに?あんた達、また何かしようとしてるんじゃないでしょうね?」


茜が意地悪そうな顔をして痛いところをつついてくると、汐里が思い立ったかのように言葉をつづけた。


「新聞部の皆さんも一緒にいるということは、もしかしてこちらの学校で起こった事件のことですか?」


流石は汐里・・・・・・毎度、異様に鋭いところが末恐ろしい。文学少女って、みんなこうなのか?


「え、それってニュースでやってた惨殺事件のこと?」


次第に瑞穂の表情が曇っていき、俺の方へと視線を向けると一気に距離を詰めてくる。その表情には不安と怒りが入り混じっているように感じられた。


「勇くん、事件の調べに行くって本当?また危ないことをしようとしてんじゃないでしょうね!?」


「い、いや、だからこれはだな!?」


「あらら、また瑞穂の心配スイッチが入っちゃったわね~。日立のことになったら、毎回こうなんだから──」


瑞穂の様子に茜はやれやれといった感じだ。その横で汐里も小さく笑っている。


「こんなに心配してくれる子がいるというのに勇気ときたら、まったく──」


「あ!てめぇ、匠このやろう!全部、お前のせいだろうが!」


「ちゃんと話してもらうからね、勇くん!」


ちくしょう・・・・・・本当に厄日じゃねぇか。

次々と起こるハプニングに、俺はガックリと項垂れることしか出来ないのであった──。

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