1-2 陽光差す、事件の朝
陽の光が教室に差し込んでくる朝、俺──日立 勇気(ひだち ゆうき)は机に突っ伏してホームルームが始まるのを待っていた。
周囲では生徒たちがいつも通りの日常を送っている。友人同士で話したり、フザけあったりと普段の光景だ。
そして俺も一人静かに優雅な朝を過ごしているということだ。気持ちのいい日差しにウトウトしてしまいそうに──。
「おっす、勇気!なんだ?寝るのには早すぎることないか?」
──っと、せっかく静かに過ごせると思っていたのに、その声を聞いてドっと疲れが出てくるのが分かった。俺はゆっくりと顔を上げ、声の主の方へと視線を向ける。
そこには珍しい水色をしたショート髪の男子生徒が立っていた。うん、俺にとっては毎度おなじみの顔である。
こいつの名前は坂城 匠(さかき たくみ)。中学のときからの腐れ縁で、学校では誰もが認めるトラブルメーカーだ。そのぶん有名ということもあり、とにかく友達が多い典型的なリア充というやつだ。
一度、騒ぎが起これば中心に匠がいるのが定石になっており、教師陣からも目をつけられている。当然ながら俺も巻き込まれているので、いつの間にか生徒たちからは学校の名物扱いをされている始末だ。
「はぁ、静かな時間が・・・・・・」
「なんだよ、その反応は──」
匠は半目になりながら、俺を見やるとボソッと一言呟いた。
「無理もないだろ・・・・・・普段あんなにいろいろと巻き込まれてたら、当然の反応だと思うぞ」
匠の後ろから別の声が聞こえ、俺たちはそちらに顔を向けた。
そこには黒い短髪に黒縁のメガネをを掛けた男子生徒が苦笑いをしながら立っている。
堀峰 純一郎(ほりみね じゅんいちろう)。匠と同じく中学の時からの付き合いだ。他の生徒たちからは純と呼ばれている。あまり表情を表に出さない性格のため、たまに怖がられたりするが匠と同じく周囲からは人気があり、下級生からも親しまれていたりする。所属する陸上部でもエース候補ということらしい。
「おいおい、俺はお前たちに青春を謳歌してもらおうと──」
「頼むから普通の学園生活を送らせてください・・・・・・」
俺は嘆息しながらしみじみと希望を口にするが、多分聞き流されているんだろうな。
「そうだ、お前ら!今、学園内で持ちきりになっている噂だけど知ってるか?」
匠が思い出したように、そんなことを口にした。
言われてみれば学校に来てから、そこかしこで生徒たちが何やら噂話をしてるのをよく見かける。内容は分からないが、確か隣町でのことについてだったような気がするな。
「ああ、隣町で起こった惨殺事件のことだろ?確かニュースでもやってたよな」
「惨殺事件?」
朝からそんな不穏なワードを耳にするとは・・・・・・世の中も物騒になったな。
普通の殺人事件のニュースなんかは時折流れるが“惨殺”という言葉はそうそう耳にするものでもないだろう。
しかもそれが隣町で起こったと聞けば話題になるのも仕方ないのかもしれない。
「そうそう!学園内だけじゃなくて、そこかしこでその話題ばかりだよ。机の上に引き抜かれた頭が置かれていたっていう事件」
「引き抜かれたって・・・・・・ホントなのか?」
もしそれが本当だとしたら、人間業とは到底思えない。
「でも男なら抵抗とかしてるはずだろ?何か証拠とか残してると思うが──」
「それがな、どうも争った形跡が無いんだってよ。何も抵抗できないまま殺されたみたいだって話らしい。拘束された痕なんかも無かったらしいしな」
本当に何も出来ないまま頭を引き抜かれたってことか?
そんな殺し方をしてるんなら、返り血なんかを浴びていてもおかしくないはずなんだが──って、何でこいつはそこまで知ってるんだ・・・・・・。
「お前、何でそんなに事件のこと知ってんだ?ニュースではそこまで流れてなかったんじゃないのか?」
俺はカバンを置いて戻ってきた純に視線を向ける。ニュースでそこまで深く事件のことが流れることは無いはずだ。
なのにそこまで情報を知ってるとなると──。
「さてはお前が犯人か」
「アホかよ、そんなわけないだろうが・・・・・・」
違ったか。
おかしいな、そこまで事件の情報を知ってて犯人じゃないとすれば、警察かマスコミ関係ということに・・・・・・。
ん?待てよ、マスコミ──あっ。
俺はふと思い出す。この学園にはその手の情報に目敏いやつらがいることを。
「新聞部か写真部かどっちだ?そら、吐け」
「へ?何のことやら、さっぱり──」
素知らぬフリをしてはいるが、視線があさっての方向を向いてる時点で自白しているようなものである。
俺がじっと見据えると、匠は溜息をつきながらボソボソと話し始める。
「だぁ、もう分かったよ!新聞部だ、新聞部。放課後にファミレスで奢るのを条件に教えてもらったんだよ。とはいえ俺からじゃないからな!?向こうから誘ってきたんだからな!?」
「それは情報だけじゃないな?他にもあるよな?」
「探偵かよ、お前は!!そうだよ!付き合わされるよ!隣町に!」
やはり他にも何かあるなとは思ったが、どうやら間違いなかったようだ。
隣町まで連れていかれるとは・・・・・・変なことに巻き込まれなきゃいいけどな。
「行くのはいいけど面倒なことには巻き込まれるなよ」
「ああ、それなら大丈夫だ!お前と純も行くと伝えておいた!」
「そうかそうか、なら安心──ん?」
今、耳を疑うようなことをしれっと言われたような気がするのだが・・・・・・俺の聞き間違いだろうか?
純は額に手をやり、諦めたような表情をしている。
「お前、俺たちも巻き込んだのか?」
「ハハハ、たりめぇよ!平常運転だ!新聞部の連中、大喜びしていたぞ!」
匠は爽やかな笑みを浮かべて、グッと親指を立てた。
「ふっっっっざけんなーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
またもや俺の大切な時間が奪われた瞬間──今日も厄日である。
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