二十一、オーカー
横を見ればそこはちょうど服の上からでも逞しいと伺える胸が目に入り、そのまま視線を持ち上げねば顔を拝めぬ若い大男がそこにいた。
「それと、コイツらは俺のツレだ。迷ってた所を拾ってくれた見てぇだな?ありがとよ」
突然現れた見知らぬ男は僕らを指しさも見知った仲のように話す。もちろん僕は、彼のことは微塵も知らない。
「なんだ、オメェの客かよ。こんな見るからに日なたのひよっ子だけでこんなとこ歩かせちゃァたちまち餓狼共に食われちまうぜ?気をつけろよ」
どういうわけか彼は僕らを庇ってくれているようだ。ここは大人しく従っておこう。そういえば、突然の登場で気づくのが遅れたけど彼は鮮やかな橙の髪を持っていた。ということは。
***
「お前、フェアブレンネンの人間だな?成金のお嬢サマがここに何の用だ」
随分端まで歩いてきた気がする。
大男に連れられるまま宿屋を後にして数十分、こちらも見ず徐ろに彼が口を開く。
「なっ……!次そんな口を利きましたら燃やしますわよ!?」
フレアを宥めつつ先程抱いた推測をぶつけてみる。
「そういう貴方はもしかして
「ああ。着いたぞ。入りな」
橙色の男が扉を開き顎で入れと示す。彼の家なのか、横穴の壁に扉が着いた外観は、見渡すと二階の窓と思われる格子が幾つか確認できるだけで、内部にどれ程の広がりがあるのか伺い知れない。
「お邪魔しまーす」
中に入るとそこはダイニングのようで、土壁で囲われた部屋にコート掛けや食器棚、そして真ん中に木製のテーブルと椅子が置かれていた。
決して太陽の差し込まない室内を照らす照明は天井のランプ一つのみで少し心許ない。
橙色は六人席の一つにドカッと腰掛けると対面に座れと指し示した。
「もう一度聞くが、赤色がこんな無法の街に何の用だ?」
「ふん、こんな品の無い町に用などありませんことよ」
彼女に任せていては話が進みそうに無い。仕方なく横から口を挟む。
「僕らジェーナに向かう途中なんです。本当は山道を使うつもりだったんですが、落石で通れなくなってしまって止むを得ずこっちへ……」
目の前の大男が僕の話を聞き片眉を上げる。
「あー、ここ数日、
日向者。この街に来て度々聞いたが、表社会の人間ということだろうか。
「そういうことですのでここに用はありませんのよ」
「ま、まあまあ」
ぷりぷりとまだ怒っている赤い少女をイリスがなだめている。僕らは無視して話を続けた。
「この街を訪れたのはあくまで中継地だからです。でもこの街に着いたら宿で一泊する予定だったんだけど、上手く交渉できなくて」
「そらお前らみたいな見るからに軟弱な奴が現れたらソッコーで狙われるだろうよ。しゃーねーな、お代はいいから今夜はウチに泊まってけ」
「いいんですか!?」
「アイツら街の連中は守護者なんざ何とも思っちゃいねぇだろうが、同じ立場としてはおめぇの身に何かあっちゃ困るんでな」
そう言ってため息をつきながら、橙の瞳がフレアを見る。思わぬ親切にフレアは尊大な態度を続けられず口ごもった。
「……それはご親切にどうも」
これは願ったり叶ったりの提案だ。先程会ったばかりの人物とはいえ、少なくともそこらの宿屋や野宿よりは安全そうだ。僕らは素直にその言葉に甘えることにした。
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