十九、暗路

「仕方ありませんわね。地下都市を通って行きましょうよ」


 朝食の席で通行止めの報せを二人に伝えると、フレアがパンを一口大にちぎりながらあっけからんと提案した。イリスが戸惑いの色を見せる。


「えっでも、地下都市は危ないから通っちゃダメって……」


「ここで待っていたとして、いつ復旧するかもわかりませんわ。だからといって、砂漠を歩いて横断するのは私も無謀とわかります。なら消去法で地下都市を通るしかありませんわね」


 フレアの言い分は一理ある。山道が復旧するまでの一ヶ月、ここでのうのうと待ちぼうけるだけの資金は無い。依頼を受けて報酬で食いつなぐ手も考えたが、この地域を管轄するギルドはその地下都市にあるらしい。厳しい道のりにはなるかもしれないが、僕としても地下都市を経由したいところだ。


「僕も地下都市を通る案に賛成。資金も少なくなって来たし、なるべく早くジェーナにつきたいところです」


 僕の言葉にイリスがますます不安げな表情になったが、話を先に進める。


「地下都市は砂漠の真ん中辺りに位置するようですね。野宿は危険そうなので今日中に地下都市の宿にたどり着きましょう」


 こうして僕らは危険とされる地下道を通って地下都市クレーブスへ向かうこととなった。地下道へは、山道に入る手前から山に少し分け入ったところにある洞窟から降りられる。

 足場が悪いと文句を垂れるフレアに大人しく手を貸しながら、何とか岩路を降りてなだらかな地面に足をつけた。

 洞窟を降りた先は横穴になっていて、今まで幾人もの人が通ったのだろう、横穴は削れすり減って広く平らな空間が暗闇へと続いていた。これが地下通路と呼ばれている道なのだろう。


「通路は思っていたより足場が悪くないですわね」


 フレアが踵の高いヒールを踏み鳴らし呟く。


「今日中にクレーブスにつかなければ行けないから、進みましょうか。イリス、明かりを頼める?」


「はい!」


 彼女が目を閉じ杖を掲げる。すると杖の先端の珠がLEDライトのように明るく光りだした。それを見ていたフレアが関心する。


「何度見ても不思議ですわね。詠唱も陣も必要なく色力も感じられない……」


 僕がこの世界に来てしまったことも謎だけど、彼女の事も謎だらけだ。僕がこの世界の人間でないことも平然と受け入れていたし、彼女と僕の事情は何か繋がりがあるのかもしれない。


「灯いたよ、行きましょう!今日中にクレーブスに着くんでしょ?」


 数歩先からまばゆい杖を振るイリスに誘われるまま、先へと歩き出す。


「そうだね、悠長にしている暇はない……けどイリス、君この道乗り気じゃないように見えたけど?」


 疑問をそのまま口にしてみると、イリスは少し眉を寄せて僕をにらんだ。


「危険って言われる道を行くのは怖いから、早く抜けたいのですっ!」


「えぇ……?」


 賊のアジトには躊躇ためらわずついてきたじゃないか。奥へフレアを助けに行きたいと言い出したのは誰だったか。


「今までも十分危険な道のりだったと思いますけれど……?」


 フレアも同じことを思ったらしい。二人してイリスの恐怖の尺度が理解わからないまま、ずんずんと進んでいく光を追った。

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