十八、立ち往生

フォルトスを旅立って早1週間。アマラントを経由しいくつかの農村を経て、時には護衛を対価として馬車に乗せて貰ったりしながら、ようやく旅路の中間地点と言ったところだ。


ダナエ村の先は件のイーオス砂漠に続く道と迂回する山道に別れる。主に利用されるのは山道の方で、山道にも獣や盗賊が出没し安全ではないけれど、過酷な砂漠を突っ切る道やならず者の巣窟である地下道に比べればマシと言う話のようだ。

宿の外から雨風が屋根を叩く音が聞こえる。日が傾いてきたあたりから雲行きが怪しくなり、雨が降ってきたために僕らはこの宿に駆け込んだ。村に到着していたのが幸いして、大して濡れずに済んだのは良かった。だがこの悪天候のままでは、明日はこの街に駐留するしかなさそうだ。僕の心配を他所に、イリスが机に地図を広げ、ここからジェーナまでを指で辿る。


「この砂漠を過ぎればジェーナはすぐだね」

「過ぎれば、と言ってもここまでの道程と同じくらいあるではありませんの!数日歩き詰めで私疲れましたわ……」

「でも途中でのんびりしてると旅費と物資が尽きそうだからなぁ。嵐が収まったら直ぐに立ちたい」


故郷で貧乏暮らしをしていた時に培ったスキルでストイックに遣り繰りしている筈だけど、それでも金銭にあまり余裕は無い。しかしジェーナに着いてから幾日で目的を達成できるかわからないから、できるだけ余裕は残しておきたい。

晴れたら明日の午前中に立とうと決めると、フレアがため息をついた。


「はぁ、鳥獣が使えたらジェーナまでひとっ飛びですのに……」

「ちょうじゅう?」

「大型飛行生物ですわ。使役できれば乗り物にできるのですけれど、希少なうえ青の民にしか懐かないとの噂ですわね」

「人を乗せて空を飛ぶ生き物がいるのか」

「貴方の世界にはいませんの?」

「いないと思うよ。人を乗せて空を飛ぶ鉄の鳥ならあるけど」

「鉄の鳥!?面妖ですわね……」


人を乗せられる空飛ぶ獣、ペガサスみたいな生物だろうか。とってもファンタジーっぽい。機会があれば一度乗せて貰いたいものだ。

そんな駄弁も程々に、明日に備えて早めに就寝する事にした。ここから先は山道だ。おそらく今まで以上に消耗するだろうから。


翌朝、窓から差し込む朝日で目が覚めた。二人の部屋を訪ねるとイリスが出て、フレアはまだ寝ていると言う。今まで長距離を歩くこともなかったのだろうから、余程疲れたのだろう。物資の買い出しは僕1人で行くことにした。


「そういやお客さん、東から来たのかい?」


朝市の出店にて、購入した食料を貰いながら店主に話を振られた。


「はい。山道を通ってジェーナまで行く予定です」

「おっとそれじゃ、まだ聞いてないんだな」

「何をですか?」

「いやそれが、昨日の嵐で山道の中腹が崩れちまって、とても通れない状況らしいぞ。復旧にはひと月かかるって話だ」

「え、本当ですか?参ったな……」


これは非常に困った。金銭的にも僕の心理的にも、ひと月も立ち往生している場合ではない。2人に相談して経路を見直さなければ。

まぁ元気だしな、と店主がおまけしてくれたパンをかじりながら急ぎ宿へと足を向けた。

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