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十七、西へ
魔術は習得できなかったけど、資金も大分貯まり、剣の扱いも慣れたところでジェーナに旅立つことにした。当日、出立の準備を終えクラウトに立つ旨を伝えると、彼は島全域の大地図をくれた。
「いいかい、途中の砂漠は通らずこの道から迂回して行くんだ。砂漠は地下道もあるが、上を通るも下を通るも君たちには危険すぎる」
広げた地図の上をクラウトの指がなぞる。
「クラウトさんは一緒に来てくれないんですか?」
治癒に暗示、彼が居てくれたら道中かなり心強いのだけど。しかし彼は首を振った。
「悪いが、今は此処を離れる訳にはいかないんだ。君達だけで行ってもらうしかない」
「安心なさいな!私が居るんですもの」
「君が居るからより一層心配なんだが」
クラウトの苦言もどこ吹く風で口を挟むフレアは、僕らの旅についてくるらしい。あどけなさを残す少女でも一流の赤の魔術師のようだし、戦力が増えるのは大歓迎だ。でも彼女がパーティに加わっても一番大きな懸念は解消しない。
「フレアは西の地域、行ったことある?」
「ありませんわよ?
所詮は箱入り娘が増えただけ、依然としてはじめてのおつかいの体たらくを抜け出せていないのだった。
能天気なフレアと対称的にクラウトが物憂げなため息をつく。
「西側はここ東側よりも黒色の目撃情報が多いから気をつけてくれ。フレア、イリス。万が一遭遇したら魔術でなるべく触れずに倒すんだ。黒色は接触した物を汚染するからね」
「はい……!」
黒色。その言葉を聞いてイリスの表情が引き締まる。
イリスは僕が黒色に対する何らかの特攻性を持っていると考えている。それに対する答えも、多分これからの旅路、黒色との交戦で分かるだろう。
「それからフレア。君も行くんだったらジェーナのレビンという学士を尋ねてくれ。鳥報より迅速な手段が欲しい。それから”黄色”に――」
「『総除』……まだ早いのではないですの?」
「被害状況からしてそう遠い話でも無いだろう。算段は立てておくべきだ」
「もう10年になりますのね……」
「あの……『総除』ってなんですか?」
置いてけぼりの会話に堪らず口を挟んだ。
「先代達の行った10年前の大規模な黒色討伐作戦のことだよ。これのお陰で島を塗り潰さんとしていた黒色の勢力は一時的にかなり弱まった」
「現状の通り、結局殲滅はできませんのでしたけれど」
犠牲が大き過ぎるとフレアが目を伏せ、それでも、それが僕らの務めだとクラウトが呟いたのを僕は聞き逃さなかった。
「カナメくん、もしかして二人の両親はもう……」
「……そうかもしれない。あまり触れていいものでもなさそうだ」
先代という事は彼らの親世代なのだろう。フレアの漏らした”犠牲”。数日この屋敷にいて彼の親に一度も会わないのは、こんな僕らと変わらない年の少女が魔術師筆頭とも言われる守護者の現任なのは……。
「さて!あまり話し込んでいては日が暮れてしまいますわ。用件が以上ならもう旅立ちましょ?」
「ああ、引き留めてすまなかった。行ってくれ」
フレアが強引に話を打ち切ったところを見ると、やはりあまり話したくない事なのだろう。ここは無理に追求せず、流れに身を任せることにした。
「そうですね、では行ってまいります」
こうして新たにフレアを加えた僕らはジェーナに向けフォルトスを後にした。
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