十六、深紅と常磐の魔術指南2
「まず、初級魔術に陣はありませんわ。力を活性化させるだけですもの。より難易度の高い術を練習する時や、大きな術を使う時は陣を描いて補助に使った方が安全ですけれどね」
「じゃあこの陣は?」
僕とフレアは先程クラウトの描いた魔法陣の中にいる。円の中に見慣れぬ文字や図形が描かれた、テンプレのような魔法陣だ。
「これは力の流れを遮断する”色力障壁”……一種の結界ですわ。魔術で使用する色力が外へ流れ出るのを防ぐ為のものですわよ」
「余程強い力の暴走でない限りは魔術が陣の外まで及ぶことはないよ。こんな所で炎を暴発されたら家も森も焼けてしまう」
フォルトスは山林に囲まれた街。並ぶ家々も木造で、成程よく燃えそうだ。
「進めますわよ。魔術は基本的に声による組成を伴いますわ。所謂”詠唱”ですわね。赤色初級魔術『灯火』の詠唱句は……」
一瞬静寂が流れた。フレアから後の言葉が出てこない。どうしたのだろう?
「フレア?」
「……まさか君、句を忘れて」
「『 我が
取り繕うフレアにクラウトはやれやれと首を振った。彼女の表情が苦虫を噛み潰したように歪む。
「そういう貴方は緑色初級の句覚えていますの!?」
「『満ちて
「ぐっ……!まぁ宜しいですわ。Mr.カナメ、剣の先に集中して、自分の血が溢れ出た途端燃えるイメージで……『 我が羽は闇夜の灯火』。この通りよ」
フレアが真っ直ぐ差し出した鉄扇の先にボゥと火の玉が浮かんだ。僕も剣を両手で構え、先端を見つめながら詠唱をなぞる。
「『 我が羽は闇夜の灯火』」
…………。
言葉の無い僕らの間を風が吹き抜けていった。
「も、もう一度試してみましょう?」
フレアの提案にもう一度集中して唱えてみるが、何も起きない。その後、緑色も試してみようという事で、『弥生』も唱えてみるが、やっぱり何も起こらなかった。
「ダメね。やっぱり”無色”に魔術は使えないのではありませんの?そもそも魔術を発動させる為の燃料が無いのですもの」
「”無色”なんて例が無いから、常識で決めて掛かるのは早計と思って誘ったが、やはり不可能なのか……」
その場の雰囲気がお通夜のように沈む。何より一番がっかりしているのは僕自身だ。魔術、使ってみたかった。
と、ここで先程から何も言わず僕らの魔術練習を見ていたイリスに目が止まる。
「そういえば、まだ虹色魔術を試してないじゃないですか」
突然白羽の矢が立ち、ぴゃっと肩を震わせるイリス。一方クラウトとフレアは困ったように顔を見合わせた。
「Mr.カナメ、虹色は魔術では無くてよ」
今度は僕とイリスが顔を見合わせる。って、イリスはなんの話か分かっていないのか。
「どういうことですか?」
「魔術は学問として体系がある。現象のメカニズムや陣の記法、術組成の法則などある程度解明されているよ。でも虹色は謎が多い。使い手は滅多に現れず、陣も詠唱も定まっていない。故に”魔法”と呼ばれる」
七色の魔術に関しては根底は同じだからコツを教えられるが、虹色は別物だから教えられない、と2人の魔術師は言う。つまり、虹色”魔法”についてはイリスに聞くしか無いということだ。
珍しい力とはいえ、僕もこの世界ではイレギュラー。一応イリスにも指導を仰いでみる。
「イリス、君はどうやって虹色魔法を使ってるの?教えてください」
「え?うーん、できることは限られてるけど、杖に一生懸命祈れば叶うんだよ?」
僕は早々に虹色魔法の習得を諦めた。
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