十二、包囲

僕らが相談している部屋に態度のでかいおっさんが入ってきて扉の前に立ちはだかる。

真面目な相談中なので知らない人は入ってこないで欲しい。

そもそも、


「誰?」

「”赤土灰のバンジャ”と聞いてもその態度続けられるかな?」


その名を聞いて僕らは顔を見合わせる。


「うーん?誰か知ってる?」

「ごめんね、故郷の外の事ってあんまり知らなくて……」

「私も存じ上げませんわ。美しくないものは記憶に残すよう努めていませんの」


ダメだ、今のパーティメンバーは異世界5日目と箱入り娘×2、時事知識が枯渇している。目の前の相手の弱みすらわからないなんて。


「……揃いも揃って世間知らずなガキ共だ。おじちゃんが世の中の厳しさってもんをよく教えこんでやるから精々咽び泣いて命乞いしなッ!!」


盗賊の親玉らしいその人が指笛を鳴らすと大勢の盗賊がみるみる部屋に集まってくる。手には棒やナイフを携えている。数は……20人くらいだろうか。素早く剣を構えて間合いを取る。人を相手にするのは初めてだけどいけるかな?


「チッ、結構出払っちまってるな。まァ冒険ごっこのガキ相手なら十分だろ」

「お待ちなさい!この手枷の鍵は貴方が持っているんですの!?」


フレアが僕の背後から叫ぶ。そういえば彼女は魔法を使えないのか。


「あん?そんなモン盗んだ時からねぇよ」

「そんな……」

「イリス、転移魔法はできる?」

「準備する間、邪魔されないように全員の相手してくれる?」

「……ちょっと無理かな」


フレアが戦えない今、僕とイリスは彼女を守りながら戦わなければならない。その上イリスまで戦闘から抜けてしまったら約20人対僕一人。だいぶ剣の扱いは慣れてきたとはいえ、ちょっと戦闘初心者には荷が重い。

フレアを見捨てて逃走を図るなら希望が無くはないが、でもきっとそれはまずい気がする。

だって守護者だし。

おそらく重要人物だし。

僕が帰る為の鍵かもしれないし。


「半分程度に人数が減ったら転移で脱出、これで行こう」

「やっちまえ野郎共!!」


僕らの合図と盗賊の怒号が重なった。

愚直に殴りかかってくる1人目を躱し、二人目の背後に周り一閃、返す手で鉄パイプを受け止め受け流す。


「っ、かなり骨が折れそうだな……」


盗賊の攻撃を躱しつつイリスの様子を盗み見る。

イリスは目が眩むほど輝く光を杖から放ち――


――盗賊が怯んだ隙に殴りかかっていた。


「イリス!攻撃魔法は!?」


大杖を思い切り振りぬき賊の頭部を打ち飛ばしながら、イリスが声を張り上げる。


「私!攻撃魔法!使えないの!」

「うっそ」


彼女のスキルがサポート系極振りであることを今知った。

これは本格的に万事休すではないだろうか……と思ったが、彼女の周りには賊たちが転がって死屍累々としている。

イリスのフルスイングショットにはそれなりに威力がありそうだ。


「前を見なさい!」

「他所見していいのか?」


 フレアと親玉の声は同時だった。距離を取ろうとしたより早く、土が盛り上がり足を捕らえた。


「っ!足が……!」


捕らわれた足を外そうと力を込めるが岩場に挟まったように抜けない。続いて飛んでくる岩石のナイフを辛うじていなすが、足を固定された今思うように振るえない。拾い損ねた一刃が脇腹を掠め赤く染まる。


「ぐっ……!」


「カナメくん!きゃあ!?」


イリスが隙をみせる。その一瞬を見計らって背後に回った盗賊が彼女の腕を捉えた。


「イリス……!」

「残るはお嬢ちゃんだけだぜ?」


勝利を確信した笑みを浮かべる盗賊達を前にフレアは僕の前に出て両手をかざす。


「『 影炎よ』……!」


しかし灯火のような炎が一瞬現れただけで直ぐに消えてしまった。男達がそれを見て余裕の態度で笑う。


「そんなボヤしか起こせねぇ魔術でどうしようってんだ?」

「うう……やっぱりダメなの……?」

「そろそろ遊びは終わらせようぜ?どいつも売れそうな面してやがるし、適当に痛めつけて身ぐるみ剥いだら檻にぶち込んどくか」


親玉が何かを唱える。さっきの石のナイフを飛ばす魔術だ。数が多い。これは打ち落としきれない……!


「『 刻め』」


号令を機に刃が一斉に飛び、僕は思わず目を瞑った。



が、一向に痛みは襲ってこない。

恐る恐る目を開けると、出鱈目に壁から壁へと伸びる太い蔓。しかし僕らに刺さるはずだった刃を確実に受け止めている。

そして僕と親玉との間に、臙脂のローブを纏う人物が立っていた。

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