八、紅業都市アマラント

アマラントなる都市は煙を上げる火山を背景に一際目を引く城、その裾に拡がる赤レンガの家々が遠くからでも分かる。馬車に揺られながら、フォルトスから下る山道からも容易に見つけることができた。

街の外周は3mほどの壁で囲まれていて、出入りには門を使わなければならないが、そこには兵士がいて入街チェックをしているようだ。普通に行商人や旅人の作る列に並び審査を受ける。


「旅人か?身分を証明するものは」

「えっと、冒険者章でいいですか?」


バッジを見せると、何やら書くように言われただけで案外すんなり入れた。雰囲気としては空港の入国審査と同じ感じだと思う。僕は海外に出たことが無いから、TVで見ただけに留まるが。


ここまで乗せてくれた商人にお礼を言って別れた後、ひとまず都市中央の広場まで歩く。移動魔法を使うにはイリスが目印を覚えなければならない。少し手間だけど、いちいち都市間を徒歩で移動する労力を考えると利用しない手は無い。

 広場の中心には伝説の勇者だけに引き抜けそうな、地面に突き刺さる剣の像があった。鍛冶業がこの街の伝統工業らしいからそのためかな?


「あ、多分こっちだよ!来て」


広場の中心から暫く四方を見渡していたイリスが不意にひとつの路地を指さした。彼女の後に続き道を抜け角を曲がり進む。広場に繋がる道は大きく人で賑わっていたものの 、裏に出れば喧騒も遠く少し寂れた細道となった。


「えーと、次は……あ」


踏み出そうとした先で、他に人ひとりいないこの道に、臙脂のローブに身を隠した人影があった。それは此方に気づいている様子はなく、角を曲がり奥へと去っていく。


「……怪しい」

「盗賊団の一味かもしれない。気づかれないように慎重に、追いかけてみよう」


一定の距離を保ち身を潜めつつ、謎の人物の後を辿る。しかし少し目の届かない時間が長すぎた。走りづらい小道を駆け、ある角を曲がった所で、


「……行き止まりだ」


行き詰まった。

ここから向こうは土地が2mほど高い、つまり小さな崖のようになっていて、袋小路には樽や木の大箱のような障害物が無造作に積まれ、蔦が絡みついていた。崖の上にはすぐ家屋の壁がそびえていてとても登れそうにないし、謎の人物は何処に消えたのだろう?


「あの人は何処に消えちゃったんだろう?」


 そう言いながら上を見上げるイリスはどうにかして崖の向こうへ登り切ったのではないかと考えているようだ。飛ぶ魔法があるならそうかもしれない……が、僕は何となく違和感を覚えた。

 袋小路に近づき積まれた箱のひとつに触れてみる。


「埃が少ない……」

「え?」

「周りに転がってるものに比べてここら辺だけ埃の積りが少ないみたいだ。ということは……よっと、」


 蔦を引き剥がし、いくつかの雑箱を退けると1人どうにか通れるほどの横穴が現れた。


「すごい!よく気づいたね」

「まぁ、ありがちなシュチュエーションですし」


その言葉の意味はイリスには伝わってないようだったが、今は説明していられない。僕らは先を急いだ。

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