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六、峠街フォルトス

僕らの始まりの街――セラドと言うらしい――を立って二日目も日が傾く頃、ようやくフォルトスに入った。


「つ、疲れた……」


フォルトスは峠町、そこへ続く道はどこを通っても上り坂になるわけで。僕らはほぼ丸二日坂道を歩き続けたことになる。引っ越しもラクラク飛行機と電車だった僕にはいきなり富士登山を強いられたに等しい苦行だった。いや、標高が高い分いきなり富士登山の方がしんどいとは思う。


「ちゃんとたどり着けて良かったね……」

「あはは……」


口から乾いた笑いがこぼれる。ついでに足も笑っている。

セラドを出て半日くらい歩いたところで地図を持っていないことに気づいた僕ら。幸いほぼ一本道だったこと、分かれ道には案内板が立っていたことで救われた。


「とにかく宿を探そう」


今は一刻も早く休みたい。大爆笑の脚を叱咤して、街頭の灯る人も疎らな道を宿を探して歩く。角を曲がったそのとき、


「うわっ!!」

「っ!前見ろクソが……!」


人とぶつかってしまいよろけた。ぶつかってきた相手方は、謝罪どころか暴言をぶつけて随分焦った様子で行ってしまった。


「大丈夫?」

「うん、怪我はないよ」


なんだったんだ?この街には人にぶつかったら謝る習慣がないのだろうか。しかし過ぎた事にいつまでも憤っていても仕方がない。

気を取り直して散策すると、宿らしい看板を見つけた。中に入ろうと近づくと、何やら騒がしい。中では数人の町人と思しき人々が神妙な面持ちで話し合っている。とにかく一刻も早く休みたい僕らはその中に割って入った。


「すみません、宿を取りたいのですが、どうかしたんですか?」

「ああ、騒がしくてすまないねぇ、お客さん。さっき泥棒に入られちゃって。被害がここだけじゃないようだから皆で状況を確認し合ってたのさ。客室は無事だから泊まることはできるがね」

「お忙しいところすみませんが、一室お願いします」


チェックインを済ませ、部屋に入ると荷物を下ろし、上着を脱ぎ捨ててベッドに倒れ込んだ。このまま寝てしまいそうだ。


「一つ言っておかなきゃいけないことがあるんだけど」


しかし入睡を遮ったのは隣に仰向けに倒れたイリスの声だった。微動だにせず返事する。


「なんですか……」

「もうお金がないの……」

「マジですか……」


思えば食費、服代に武器代に宿泊費。彼女の所持金がどう捻出されたのかは謎だけど、同年代の少女の所持金としては、まぁよく持った方だと思う。

しかしそれが尽きた今、これからは収入を得る手段を探さねばならないという事だ。


「この世界にもバイトとかってあるのかな……」


独りごちながらのそりと起き上がる。この世界でも有難いことに湯で汗を流す文化があった。つまりは宿にシャワーが備え付けられているので浴びてから寝ることにする。シャワーを先に借りる事を断ると、イリスから了承と提案が返ってきた。


「どんな仕事があるのかわからないけど、ギルドに登録すれば仕事の依頼を受けられるって聞いたことあるよ」

「うーん、他にできそうな仕事も思いつかないし、じゃあ明日は守護者さんへの訪問と、時間があったらギルド登録の検討でもしますか……」


翌朝、尋常ではない空腹で夕飯を食べていないことに気づいた。

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