五、出立準備

次の日、予定通り荷物――と言っても僕はまだ着替えた服くらいしか所持品が無い――をまとめ宿を出たところで、イリスが思い出したように声をあげる。


「カナメくん武器持ってなかったよね。街と街の間は野獣や盗賊が出るし、万一黒化した生物だったらもっと危険だから何か持っておいたほうがいいよ」

「え、昨日の魔法で瞬間移動できないの?」


てっきり自由自在に跳べるものだと思ってたから少し戸惑う。


「私の移動魔法は目的地に目印を決めて、そこをハッキリイメージできてはじめて安定して跳べるの。ここに来た時もそうだったけど、フォルトスのことは昔一度訪れただけだからあんまり覚えてなくて……。それに私の魔法は珍しいから人前であまり使うなって」

「魔法使いも色々と面倒なんだね」


人前で使わないというのは街から離れ山間部で行えば解決するけど、そもそも目的地に跳べないなら仕方ない。徒歩で行くしか無さそうだ。


そんなわけで街を出る前に武器屋に寄ることになった。

この世界は都市部などの一部の地域以外、まだまだ未開拓の地域も多いらしく、野獣退治や資源採集をはじめ危険な地域に踏み入る依頼を請け負う、冒険者という職業が珍しくなく存在するらしい。

その為冒険者用の道具を扱う商店やギルドのような組合もあるという。そう聞くとここは物語によく見る剣と魔法の異世界という感じがしてくる。


武器屋に入ると、店内には剣、槌、弓、斧……カウンターのみならず壁一面に様々な種類の武器が掛けてあった。日本で平和に暮らすうちはお目にかかれなかったであろう光景だ。この世界では普通なのだろうけど、所狭しと並んだホンモノの物々しさに圧倒される。


「何かいいのある?」


イリスに選ぶよう問われて大事なことに気がつく。


「僕お金持ってません」

「もう少ないけど、私が持ってる分から出すよ。これから大変なことに協力して貰うんだし、私にできることはさせてね?」


服と宿に続きこんなに出してもらうのは流石に悪い気はしたけど、今はこんな所で立ち止まっている訳にはいかない。背に腹はかえられぬので、その言葉に甘んじることにした。


「予算はどのくらいですか?」

「えっと、5万リルくらいかな」


まだ物価の相場が掴めないが、店内を見渡す限り、いくつかの武器は手が届きそうだ。

どうせなら使い慣れた猟銃がいいんだけど、野山で襲ってくる敵からの防護目的なら寧ろ銃は不向きかもしれない。ここはスタンダードに剣にすべきか……などと考えながら銃を探す。


「銃、銃、あった銃!……うわたっか!!」


故郷日本の感覚でゼロ1つ違う。大人しく剣を買うことにした。

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