三、虹巫女
再び目を覚ました時、空はもう暮れている頃だった。隣を見れば少女はまだ寝ている。夢ならば寝た拍子にこのまま覚めてくれればと思っていたけど、夢じゃなかったらしい。彼女、疲れていたみたいだし、このままもう少し寝かせてあげたいところだけど、そろそろ現状を整理したい。
「起きてください」
「んん〜……」
熟睡しているように見えた少女は、肩を揺らせば案外直ぐに目を覚ました。
「あっおはようございます!ごめんなさい、私、直ぐに寝ちゃって……」
「いいよ。それより色々と聞きたいことがあるんです」
この街の暮らしぶりを考えると僕のいた現代と生活様式はそう違わないはずだ。
彼女も帰る家があると考えるのが普通だけど、宿をとることになった時彼女は当然のように2名1部屋での宿泊を選んだ。総じて外出には慣れてない印象を受けたから放浪しているわけでは無さそうだし、見知らぬ僕の宿泊代まで立て替えてくれたお人好しだから、善意で付き添ってくれているだけかもしれないが、それもしっくりこない。
なんにしろ話を聞かないことには確証は得られない。
「この街に来たのは初めてみたいだし、かといって遠くから来たような旅装備にも見えない。どうして君は僕をここへ連れてきてくれたんです?それと、君は帰らなくていいんですか?」
きょとりと少女の茶色の瞳が僕を見つめる。それから、もう帰れないの、と静かに首を横に振った。
「私は、抜け出してきたの。故郷の村から」
***
彼女の名前はイリスと言うらしい。彼女との会話で得られた情報は、特殊な魔法が使えるから故郷の小さな農村で巫女として祀られていたこと、その為に外に出る機会がなく世間に疎いこと、”救世主”を探すため村を抜け出してきたこと。
「村には『 世界闇に覆われし時、外より来たる者闇を取り去らん』って言い伝えがあってね。そして多分それは貴方なんだと思う」
しれっと僕を巻き込んで進む壮大な話に、ちょっと待て、と話を遮った。
「救世主なんて柄じゃないんだけど……」
「貴方は私達とは決定的に違う。貴方には”色”が無いもの」
彼女が言うには、この世界は“色”に支配されているという。正確には七種七色のエネルギーの釣り合いで全てのものができていて、一番割合の多い色で属性が決まるらしい。
「私は全色が均等だから虹魔法が使える”虹の巫女”なんだって。虹の巫女の能力に見た物の主属色を見抜く力があるのだけど、貴方には何の色も見えない。だから貴方はきっと何処か違う世界から来たのね」
「うん、その通りだ。僕はこの世界のことはなんにも知らないし、元いた世界では僕は特別な力も無い凡百の一般人だったよ。だから世界を云々とかいう大仕事が務まるとは思えない」
僕は元の世界に帰りたい。帰ってやらなければならないことがあるわけではないけど、自分の元の生活に特に不満は無いし、この世界の治安が悪いなら尚更だ。
難色を示すと、彼女の眉が大きく下がった。
「で、でもでも、アレも多分この世界のモノじゃないから、貴方の持つこの世界に無い何かが通じるかもしれないし……!とにかく、物は試しで協力して欲しいの」
アレとかソレとか何のことだかわからないが、お願いします、と恩人に頭を下げられては流石の僕も無下には断れない。そもそもこの話を断って彼女と別れたところで、行く宛も帰る手立てもない……と、ここで一つの案が浮かぶ。
「わかりました。ただし、僕からもお願いがあります。交換条件です」
僕に向かって懸命に祈る彼女の顔がぱっと晴れた。
「は、はい!私に出来ることなら」
「じゃあ、君の用事に付き合うついでに、僕が元の世界に帰る方法を一緒に探してください」
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