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「言ってなかったんですけど、うち、すぐそこです。最初の散歩コースには丁度いいかなと」
彼女の部屋はマンションの六階、うちは隣のマンションの二階だ。昨夜彼女の部屋に行った時点で、驚くほど近所なのはわかっていた。ただ、「いきなりペニスを見ると言って知らない男を部屋に連れ込む危ない女」に自宅を知られたくない、と昨日は思った。だから言ってなかったのは常識的判断だ。
ただ、この距離だと露出プレイの第一歩には丁度いい。それに、なんとなくよぎったのは、彼女は自分を泊めるくらい信頼してるのにこっちは手の内を見せないのもどうかということだ。
ゆっくりと部屋のドアを開け、人気がないのを確認してから、ロープを持って全裸で四つん這いの薫子さんを連れ出す。
「ほんとに、やるんですか?」
と、俯いたまま彼女が漏らす。
不安と興奮とで息が荒い。
「行きましょう」
と、ドアを閉めた。彼女から預かった鍵を閉めて、たった100mにも満たない距離の大冒険だ。
まずはエレベータまでの廊下を歩かせる。四つん這いで歩くのは結構つらいと思う。それでも、彼女は耐えながら進む。
一昨日まで性経験皆無だった子が、アナルにプラグを嵌めて、全裸で、首輪を付けられて引き回されている。いくらなんでも飛躍しすぎだが、それがまた興奮させる。
「寒くないですか?」
と、聞くと、
「寒さは、大丈夫です」
と答えた。秋なので、まだ夜は「涼しい」というくらいの気温だ。
エレベータに乗り込むと、余計に彼女は不安そうな顔をした。もし一階に着いた時に人がいたら隠れる場所がない。深夜とは言え、流石に不安だろう。全裸の彼女と一緒にいる僕も正直ドキドキしている。
幸い一階に着いても誰もいなくて、そのままエントランスへ進む。ここから数mだけ完全な屋外だ。彼女は四つん這いなのでかなり進みが遅いが、歩幅を合わせてゆっくり歩く。犬の散歩は犬のペースに合わせてあげなくてはならない。
「いけますか?」
「はい。がんばります」
何が彼女をここまで耐えさせるんだろうか。
正直、かなりひどいことをしている自覚はある。
何が僕にこんなことをさせるんだろうか。
罪悪感もあるが、奇妙な目的意識もある。何がしたいのかわからなくとも、何かがしたくてこんなことをしている。
それにしても、である。
夜の闇の中でも彼女の肢体はとても美しい。
這って歩く度に揺れる乳房、一歩ずつ進む度に尻肉の双丘が艶めかしく動く。
紅潮して恥辱に耐える顔も綺麗だ。
ほんと、どうにかなりそうだった。
僕のマンションに入るとすぐ横が階段。エレベータはないので階段を四つん這いのまま登らせる。
何段が上がったところで彼女が四つん這いのまま一瞬躓く。
「大丈夫!?」
彼女はそれでも姿勢を戻して階段を登る。
「もう少しですよね」
元々真面目な子だ。こんなわけのわからないことでも、根性を見せてくれるんだな。
階段を登り切ったら、ゴールである僕の部屋はすぐそこだ。
もう少し、もう少しだから・・・。
部屋の前に着き、すぐに鍵を開けると、彼女はドアの中に駆け込んだ。
そのまま僕に寄りかかって、
「こわかった・・・こわかったよぉ・・・」
と泣き出した。部屋に着いて、安心して感情が噴き出したんだろう。胸が痛む。
そっと抱きしめて、頭を撫でてあげる。
「よく頑張りましたね」
(自分でさせておいて何言ってるんだろう)とは思う。
「わたし、ぜんぶがんばってます・・・」
と涙目で訴える。
今までしてきたことは全部、彼女にとって未経験で、全部、勇気が必要なことだったんだ。
「一緒に、だから、がんばれました。ひとりじゃないです」
なんて馬鹿で、まっすぐな女の子だろう。
抱き締める力がもっと強くなった。
僕たちは歪んでいるかもしれない。
でも、一緒にどこかを目指している。
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