採用試験⑦
――黒羽夜一
僕はオブラートに包むことなく不合格者たちにその理由を淡々と説明した。
どこからか「もうやめて! (彼、彼女)のライフはゼロよ!!」とでも聞こえてきそうなほどに不合格者たちは打ちのめされていた。
もちろんいじめたいわけではなく。今後のことを思ってのアドバイスのつもりだったのだが、思いのほかダメージは大きかったらしい。
「選考基準についてはお話しした通りです。
それ以上でもそれ以下でもありません。
ただし、合格者の方々には覚悟がありました。そして将来性も加味しての合格判定です。今回、残念ながら合格に至らなかった方々の中にもすでに別方面からお声がけさせていただいた方もおります。
講師としての採用はなくとも能力があれば別の仕事でお力をお貸しいただきたいと考えています」
「なら俺にはどんな仕事があるんだ!」
不合格となった男は半ば怒りに任せた言い方で自身の不合格を周囲に大声で知らせていた。
「現段階でお声がけさせていただいていない方は現段階では私どもの力にはなれないものと判断しております」
僕は一人の合格者に目を向けた。
「初めに私は覚悟を見たとお話ししました。
覚悟とは行動をもって示してもらわなくては判断ができません。
その点、スコットさんは冒険者としての肩書を捨てて今回の講師採用試験に臨んでくれました。
Aランクの冒険者としての能力面はもちろんですが、その仕事ぶりにも感心させられました。
お高く留まっている、などと陰口をたたかれながらも自分の信念を曲げることなく全うしたその心の強さこそ私どもが求めているものです」
面接試験でスコットさんの話は根掘り葉掘り聞いたので今や家族の次くらいには知っているといっても過言ではないほどだ。
吸血鬼と人間との間に生まれた彼は吸血鬼でも人でもない存在として生を受けた。
誰にも必要とされることなく孤独の中で育った彼だが、人種では持ち合わせない能力を生かすことを選択した。
その選択だけでも大したものだが、その能力の研鑽をやめることはなかった。
その結果、Aランクまで上り詰めたのだ。
日向では能力に制限がかかったりと不便なこともあるようだがそれを差し引いてもおつりがくる人材だ。
それに彼に担当してもらうのは屋内での講義「魔法基礎・応用」である。人種の感覚を持ちながら通常人種では持ちえない力を保有している。しかも研鑽することを怠らない。
成長を続ける人間こそ講師に相応しい。
いろいろ講釈を述べればきりはないが、ざっくりと言えばこんな感じだ。
だが、一番の決め手は「私たちの下で働いていただけますか」というセルシアの一言だった。
セルシアには王女様に戻ったつもりで採用したい人を選んでくださいとは言ったが、あまりのも神々しく、思わず見とれてしまった。
まさしくその場には一商人ではなく、一人の王女様がいた。
いつものどこか抜けている店長ではなく、自らの全てを委ねる選択を下す王女。
もとはただの大学生の僕なんかが口を挟める選択ではないことを悟った。
僕ごときの判断は不要だ。
セルシアの確信を持った決断があればほかには何もいらない。
気持ちとしてはそう思いながらも念のための保険で僕も審査はするが、セルシアの決断が覆ることはなかった。
人を見る目は確かなんだよな。
そんな人物から信頼を寄せられる自分を少し誇りながら僕は説明を続けた。
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