採用試験⑥

 ――セルシア・アン・フェルメール



 私は採用試験の前にヨイチさんに尋ねました。


「私は面接で何を見たらいいのでしょう?」


 するとヨイチさんは笑って「お姫様に戻った気持ちで雇う人を決めてください」とだけ告げると、準備があるのでこれで、と作業に戻ってしまいました。


 すべての採用を一任されているわけではないだろうから、二人で相談しながら決めていくのだろうと高をくくっていなのです。

 しかし、採用試験当日。

 ヨイチさんは笑って言ったのです。


「それじゃ、よろしくお願いしますね店長。

 僕は店長が選んだ人たちの中から絞り込みますので」


 え? 私一人で決めるの?

 無理。

 最初に私の頭に浮かんだ言葉です。


 私が反論する間もなく面接の時間はやってくる。

 一人目の受験者が部屋に入ってくる。


 ヨイチさんが私に一任するのにはそれなりの理由があるはず。

 私は言われた通りに自分の仕事をこなせばいい。

 王女として人を選ぶ。

 能力は重要だが、今回の募集では多種多様な職種の人たちが集まる。

 能力の善し悪しだけでは判断できない。

 そうなると見るべきはその人柄ということになるだろうか?


 ひとまず、能力よりも人柄を重視して判断することに決めた。

 人柄重視と決めたはいいが、どのように選定したものか。

 王女として使用人を雇ったことは何度もあるが、最終決定は当時のメイド長に任せていた。

 まさしく優秀といいう言葉を体現したような人物だった。

 私はもちろん、王宮にいた全ての人が彼女に信頼を置いていた。


 そう考えるとヨイチさんも私のことを信頼して一任してくれたのだろうか。

 そうだといいな。


 ……ん? そうか。信頼できる人を選べばいいのか。

 でも、信頼できる人ってどんな人?

 うーん。わからない。


 今まで出会った人たちで信頼できる人は……

 そんなにいない!?

 メイド長を筆頭に王国の宰相、騎士団長。

 最近では魔王の側近メフィストなども信頼に足る人物である。

 でも一番はやっぱりヨイチさんなのですけど。


 共通点……。

 あ、わかったかもしれない。


 皆さん仕事ができます。

 できるだけじゃなくて真摯に向き合っています。

 能力だけなら魔王様も条件に当てはまりますが、私は信頼をあの方に置いてはいません。

 仲良くすることはできると思いますが、仕事のパートナーと考えると……全てを任せるのは少々――いや、相当怖いです。


 勤勉さや仕事に対する姿勢が重要ということなのかもしれません。

 そう考えると、確かにメイド長も宰相も騎士団長も王家や国のためそれこそ全身全霊で仕事を行っていました。

 メフィストさんも魔王ベアトリーチェへの忠誠心をその働きぶりで示している。

 そのせいで魔王が職務を全うしていない気もしますが……


 だとすればヨイチさんがジャンクブティコの尽くしてくれるのは――いったい誰のためなのでしょうか――いえ、今は考えても意味のないことですね。

 部屋が暑いのでしょうか。

 少しばかり熱っぽいです。

 心臓もいつもより激しく動いています。


 でも、集中しないといけませんね。

 やるべきことが見えたのですから。

 私は学校のため、ジャンクブティコやこの国の生活そのものをよくしたいと本気で考え実行できる人を選べばいいのです。

 私も王族の端くれ。人を見る目は持ち合わせているつもりです。


 やりますよ!!


 気合を入れたはいいものの、私の仕事は選別。

 面接中は観察に徹する。

 ヨイチさんが進める面接を魔法で姿を隠し、静かに観察する。


 注入した気合と仕事の間でギャップが生まれてしまったが私は一人、また一人と受験者をチェックしていった。

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