採用試験④

 ――セルシア・アン・フェルメール



 試験を受けに来た人をほんの少し紹介させて頂きました。

 他にも、産業スパイ、世界を救う勇者(自称)、海賊王……

 などなど、様々な方々が受験されました。

 一部、強制退場になった方もおられましたが……

 選考も無事に終わり、本日、結果発表を行うことができます。


「受験者の数に比べて結果発表を待つ人が少ないような……」


 あぁ、強制退場になった方々が少なからずいましたね。

 でも、まさか強制退場した人の方が多いとは……

 それでも想定していたよりも多くの受験者が来てくださいました。

 うれしい誤算と言うやつです。

 その分、疲れもしましたけどね。


 うぅ……緊張してきました。

 ヨイチさんが、結果発表はトップが行うべきだと言うので、合格者の名前を読み上げるのを了承したのですが……

 もともと私は表舞台で力を発揮するタイプではない。

 むしろ苦手だ。

 まぁ、受験者全員がいないだけマシですけど……

 この点だけは変な人がたくさんいたことに感謝しなくてはいけませんね。


 コホンと咳払いをして、私はゆっくりと話し始めます。


「皆さん、お待たせしました。ただいまより、今回の採用者の発表を行いたいと思います」



 * * *



 ――とある冒険者



 ジャンク・ブティコの店主であるセルシアが口を開くと、周囲の喧騒が一瞬の内になくなった。

 静けさのの支配する中、セルシアの声は良く響いた。


「皆さん、お待たせしました。ただいまより、今回の採用者の発表を行いたいと思います」


 それまでどこか浮ついていた雰囲気が引き締まり、緊迫した空気が張り詰めていた。


「今回、講師として採用させていただくのは……ニコラス・スコットさん」


 どよめきが起こった。

 ニコラス・スコットだって!?

 その名前に俺は驚いた。

 大物じゃないか! まさか、あのニコラス・スコットが受験していただなんて。

 近くで騒ぐ連中も同じ気持ちなのだろう。

 若手やうだつの上がらぬ冒険者たちからは「スコットだと!?」と驚きの声をあげていた。

 それもそうだろう……

 ニコラス・スコットは王国の辺境アクロディリアを拠点に活動する冒険者だ。

 冒険者としてのランクはA。付いたふたつ名は【赤眼】。

 容姿そのままなふたつ名だ。

 実力は確かだが、アンデットや死霊系モンスターなど夜行型の魔物、モンスターの討伐依頼を中心に受け、他の割のいい依頼には目もくれない変わり者でもある。

 さっさとSランクに上がればいいのに上がらない。

 そして誰ともパーティーを組まない。

 見方によってはお高くとまった冒険者に見えなくもない。


 呼ばれた当の本人は、深々とジャンク・ブティコへと頭を下げていた。

 物静かな男なのだろうが、鼻につくと言えなくもない。

 端正な顔をしているのもなんだか腹立たしい。

 これは決して嫉妬ではない。醸し出す雰囲気の問題である。

 だが、Aランクの冒険者のレベルでなきゃ採用されないのか?

 だとしたら厳しい戦いになってしまう。

 そんな中――


「では、次の合格者を発表したいと思います」


 採用人数は不明。

 あと何人が採用されるのか分からない。

 期待と不安とが混在した空気が漂っていた。

 俺の名前はあるのか?……

 不安がどんどん大きくなってきた。


「まずは……グレイス・ベネットさん」


「アリアナ・リードさん」


「リアム・ムーアさん……以上の方を講師として採用させていただきます」


 先程以上のざわめきと同時に、俺の不採用が決まった。

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