観光地に必要な4つの条件③(文化)

 夜一の話を聴いてすっかりその気になったベアトリーチェ。

 その傍らではメフィストが渋い顔をしていた。


「どうかしましたか? メフィストさん」


「ええ、まぁ……」


「どうしたのよメフィスト。そんな浮かない顔して」


 ベアトリーチェは尋ねる。

 メフィストは質問に対して真摯に答える。


「魔王様、確かに暗黒大陸の広大な自然は武器になるかもしれませんが、それだけで配下の者たちを食べさせていけるととても思えません」


 夜一は考えた。

 どういうことか、と。

 すかさず質問すると、メフィストは嫌がる様子もなく答える。


「多くの魔族は魔王様にお仕えしています。ほとんどの魔族が魔王様の配下という事になります。しかし、魔王様は見ての通り引き籠っておられます。

 そこで私が時折外貨を稼ぎに人間の住まう大陸に、配下の者を引き連れてゆくのですが、なぜか人間たちに攻撃を受け、仕方なく撃退し、その迷惑料としていくらかの金品をいただいていたのですが――」


 そこまで聞いた夜一は叫ばずにはいられなかった。


 侵略じゃねぇか!!?


 さらに詳しく話を聞くと、100年周期で侵攻――もとい、外貨稼ぎに出かけているという。

 色々と問題があり過ぎる。

 夜一は天を仰いだ。


「メフィストさん、その外貨稼ぎ、大陸では災厄と呼ばれていますよ。もうそろそろその周期が近いと言って大陸諸国が軍事力強化を始めているとかいないとか……」


 夜一は、セルシアから聞いた情報の断片を繋ぎ合わせて説明をした。

 きっと間違っていないはず……多分……、そういうことにしておこう。


「そうなのですか? 私たちは友好的に接していたのですがね」


 敵対行為など取ったことがないとメフィスト。

 しかし、よくよく話を聞けば、魔王直属の配下やメフィストの親衛隊など強力な魔人、魔物で遠征隊は構成されていたらしい。


 そんな中、ベアトリーチェは素っ頓狂な問いをする。


「メフィスト、私に配下なんていたの?」


「居ましたよ。昔から」


 そんなはずはないとベアトリーチェ。


「だって私はいつも一人。メフィスト以外に相手をしてくれる人なんていなかった」


「当たり前です。皆、魔王様と違い働いていますから」


(やっぱりこの魔王様ニートだった)


 自信が確信に変わった瞬間である。


「ひどい!? そう思わない?」


 同意を求められてしまった。

 残念ながら夜一はベアトリーチェに賛同することができない。

 明らかにいろいろと問題があるのはベアトリーチェの方で、むしろメフィストの方に同情を禁じ得ない。


「残念ながら……」


 やんわりと否定した夜一だったが、ベアトリーチェは錯乱。

 わんわんと泣き出して部屋を出て行ってしまった。


「いいんですか? ほっといて」


「大丈夫ですよ。寂しくなってすぐに戻ってきますよ」


 全てを見通したといった口調でメフィストが言う。


「だとしても……」


 放置していいものなのだろうか。

 一応は上司だろうに。


「そんなことより私の質問に答えていただいても?」


「ああ、自然だけじゃ利益は見込めないという話でしたね」


 一呼吸。間を置いてから、


「確かに、大自然だけでは魔族の皆さんを養っていくことは難しいかもしれません。でも、きっと他にも売りにできるモノはあります」


「そうですね。確かに暗黒大陸はいい場所です。私たちにとっては、ですがね」


 二人で笑い合っていると、「あ、魔王様」とメフィストが思い出す。

 思わず「忘れてたんかい!」とツッコミを入れたくなる衝動に駆られる。


「急いで呼びに行かないと」


 あんな感じでも魔王である。

 転移魔法やなんかを使われてしまうと本格的に捜索しなくてはいけなくなってしまう。


「大丈夫ですよ」


 余裕の表情を見せるメフィスト。


「では、この子たちに探させましょう」


 そう言って魔法陣を展開。

 なんだかヤバい雰囲気。


「我が呼びかけに答えよ。忠実な僕たち」


 小さく呟くとメフィストを取り囲むように龍、龍、龍。

 三頭のドラゴンが擦り寄っていた。

 頭を差し出した一頭の頭をメフィストが優しく撫でる。


「ドラゴン……本物初めて見た」


 ドラゴンは異世界においても伝説級の存在。

 100年周期で訪れる災厄の時に姿を現す悪しき者トとされる一方で、神にも等しい存在として一部では崇められている。


 そんな存在を使役しているのだから夜一は当然驚く。

 そんな夜一を見てメフィストは笑う。


「魔族の多くはドラゴンを使役していますよ。確かに私が使役しているのは高位のドラゴンですが、ドラゴンにもいろいろいますから」


「そんなにドラゴンって普通にいるモノなんですか?」


「そうですね。私たちにとってドラゴンは……」


 しばし考えた後、


「近頃大陸ではやっている自動馬車の様なものですかね。移動手段や、仕事を手伝わせたりしていますね」


 伝説級の存在を便利な家畜感覚で使っている。

 しかもそれが当たり前になっている。


 これは……


「文化の違い……そうですよメフィストさん。文化の違いも十分武器になりますよ」


「文化ですか」


「ええ、人力車とか観光地に行ったらついつい乗っちゃいますよね。変な祭りとかもついつい見てしまう。むしろ変なモノ、見慣れないモノであればあるほど興味をひかれてしまう。それは異文化――つまり普段と異なる体験ができるからなんですよ」


 夜一は熱く語る。


「まあ、何を言っているのかよく分かりませんでしたが、文化が武器になるという事は伝わりました」


「それは良かった。魔族の皆さんは当たり前にやっている事なのかもしれませんが、ドラゴンに乗せて空の旅、なんていう事でも商売できますよ、きっと」


「そうですか? ではやってみますかね」




 この会話は後に誕生するドラゴンエアライン(航空業)のきっかけとなった。

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