ホモ・エコノミクス(合理的経済人)①

 自動馬車の開発により交通の便は遥かによくなった。

 しかし、自動馬車は高価であり、一部の貴族や商人を始めとした富裕層しか持つことができていなかった。

 それに加えて富裕層、特に貴族たちの間では馬の扱いが碌にできないからゴーレムを使うのだ、といった変な意地――プライド(?)のために、普及に歯止めをかけていた。

 市民階層にはいまだに手の届かない高級品。このイメージを払拭しない限り自動馬車事業は衰退してしまう。


 そのために実際に使ってもらうことを考えた。

 その便利さを知れば、欲しくなること請け合いだ。

 馬よりも圧倒的に扱いが簡単で、安定して走ることができる。

 疲れることも無いので魔力が尽きるまで夜通し走ることもできる。

 夜間移動が容易になった。


 これらのことは富裕層だけでなく市民層にもプラスに働くはずだ。

 王都から交通網を大陸全土に張り巡らせれば集客の増大も見込める……かもしれない。


 そこで真っ先に思い付いたのはレンタルである。

 しかし、この世界の倫理観は現代のモノとは異なる。

 仮パクが横行するかもしれない。

 その危険性は少なくなかった。

 欲しいものは力ずくで奪う。それがこの世界の常識であった。


 そこで考えた末に導き出した結論は、タクシー事業であった。

 貸し出すことなく利益を生み出せる。

 もちろん上手くいかない可能性もあるが、ゴーレム製作に必要な資材は大量に手に入る。

 具体的には暗黒大陸からの輸入である。

 未開の大陸には豊富な資源が眠っている。

 それらの資源を自由に取り扱えるのは、夜一が暗黒大陸の支配者――魔王ベアトリーチェと友好関係を結んでいるからだ。


 資材は豊富。

 夜一はその資材力を生かして、馬型ゴーレムだけでなく人型ゴーレムも大量受注した。

 馬車を引く馬型ゴーレムと指示を出す人型ゴーレム二体でタクシー事業に当たらせることにした。


 …………

 ……

 …


 始めは探り探りといった感じだった市民も、ひと月経つ頃にはちょっとした遠出の際にはタクシーを利用してくれるようになっていた。

 もう少し時が経てば富裕層以外も自動馬車を購入できるようになるだろう。

 そのためには王都――王国――大陸全土の経済を向上させなくてはならない。

 夜一の目論見通り街には魔鉱石補充店――現代におけるガソリンスタンドが登場していた。


 宝玉をいつでも確保できる夜一たちからすれば、魔鉱石などに頼らずともゴーレムの魔力補給には困らない。

 だが、それでは意味がない。

 目先の利益に目がくらんでしまえば、未来の大きな利益を逃してしまう。

 競争社会を作り上げることこそが経済発展には欠かせない。


 かつて日本でも重要特許を買収し、一般に公開することで業界全体の発展に貢献した人物もいる。

 夜一はそれと同じことを異世界でしようとしているのだ。

 しかもそれは一部の業界ではなく、経済基盤そのものの発展である。


 だから補給所は各方面に手を回し、《ジャンク・ブティコ》イガイの商店で開業してもらった。

《ジャンク・ブティコ》だけが発展しても意味がないのだ。

 それでも《ジャンク・ブティコ》に一番利益がでる方法を考えてはいる。

 自動馬車に人間ではなく人型ゴーレムを乗せたのも利益を考えてのことであった。

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