ゴーレム活用事業②
話しかけようとしてはことごとく避けられる。
夜一のメンタルは限界に近かった。
なので心機一転(?)仕事に打ち込むことにした。
具体的には移動手段の確立。足を手に入れるため、夜一は動いた。
夜一はスコラの研究所に足を運んだ。
研究所とは名ばかりの掘立小屋だ。
まだ正式に《ジャンク・ブティコ》の新事業となっていないため、仮住まいとなっている。
スコラは住む場所にこだわりはないようで、研究、開発ができるのであれば掘立小屋でもなんでもかまわないとのこと。
研究者という人種は理解しがたい。
衣食住が人間の資本だろうに、それらを軽視している。
住のみならず、衣食に関してもスコラは関心が薄い。
通常、膝丈まである白衣を引きずるスコラ。
サイズ感がおかしい。男ものであることは間違いない。
くたびれた襟元。よれよれの裾。
お下がりに違いなかった。
胸元にはハンス(誰かは知らない)の刺繍が入っている。
その隣では、うり二つ――生き写しのゴーレム少女がスコラの作業を見守るように立っていた。
何も知らなければ二人は姉妹に見えたことだろう。
本来であればスコラに話しかけるのがいいのだろうが、カノジョは無口であった。
ゴーレムスコラも寡黙な印象ではあるが無口というわけではない。
そんなわけで夜一はゴーレムの方に話しかけた。
「相談があってきたんだけど、スコラは今大丈夫?」
「スコラとはどっちのスコラの事でしょうか?」
どっち?
夜一は首を傾げる。
するとゴーレム少女が説明してくる。
「スコラの個体名はスコラで、マスターと同じ名前です」
つまりは製作者のスコラが作ったゴーレムのなまえもまたスコラ。
何故自分の名前を付けた?
研究者とは、生み出すまでの執着心とは対照的に、完成した後はとことん執着がない。
そうでなければ新発見や新開発などできないのだろう。
夜一はゴーレムをスコラ2号と心の中で呼ぶことにした。
未だに区別はつかないけれど。
「それで今日はどの様なご用件で?」
感情のこもっていない問いが投げかけられる。
「ああ、移動手段が欲しくてね。なんとかならないかな?」
「だそうですけど、どうですかマスター?」
スコラ(本人)はようやく夜一の方を見ると、「どうすればいい?」と小さな声で尋ねる。
夜一は威圧しないように優しく微笑みながら「うーん。そうだなぁ……、こんなの感じの作れる?」と一枚の紙に自動車やバイクの絵を描く。
忘れているかもしれないが、夜一は芸術系大学の現役学生である。
絵を描くことが主な授業内容だ。
そのため、実物がなくとも限りなく本物に近いモノが描ける。
夜一は、自分の絵の才能に感謝した。
視覚的に伝える手段があるのとないのとでは大違いだ。
絵を描いた後は簡単な説明を書き込んで終了。
口頭でも説明するが、スコラの反応はイマイチ。
難しいかな? こちらとしても無理強いするつもりはない。
「これじゃなくても問題ない?」
ギリギリ聞き取れた声に、もちろんだよと笑顔で返す。
「わかった。用意しておく」
後日、《ジャンク・ブティコ》に届けるとのこと。
夜一は感謝を述べて、スコラの研究所(仮)を後にした。
…………
……
…
後日、《ジャンク・ブティコ》本店の前に一台の馬車が停まる。
どこぞの商人かとも思ったが、商談の予定はなかった。
飛び込みの商談か?
そういった輩も近頃増えていた。
適当にあしらうことも考えたが、どこに儲け話が隠れているかも分からないので、アルバイトではなく夜一が対応することにした。
馬車を出迎えた夜一は眉をひそめる。
荷物が一切ない。
商談ではなかったのか?
それに……人の気配がない。
無人の馬車。ちょっとしたホラーだ。
「ま、ま……りょ……くをぉ……」
地を這うような――文字通り足下から声がした。
今にも死にそうな声だ。
まさか馬車の下敷きに!? と慌てて馬車の下を覗く。
すると俯せに伸びたスコラ(2号)がいた。
抱き起こすと「魔力切れ」と言うので、急いで店内から魔鉱石(商品)を持ってくる。
魔鉱石を差し出すと、奪い取るようにしてそれを自身の胸にはめ込んだ。
毛細血管のような魔導回路が淡く輝く。
全身に魔力が供給されるとスコラ(2号)はむくりと起き上がる。
「助かりました。魔力の補充をしていなかったもので、なんとか店までは辿り着けましたが、そこで力尽きてしまいました」
綺麗なお辞儀。
その綺麗すぎる所作が、彼女を人間とは別の存在たらしめていた。
「魔力補充もできたことですし、試運転といきましょう」
「試運転?」
「移動手段――乗り物を所望でしたよね」
夜一は全く話が読めなかった。
「どういうことだい?」
「取りあえずお乗りください」
彼女は馬車に乗るよう指示する。
指示に従って馬車へと乗り込む。
すると、おもむろに「それでは出発します」とスコラ(2号)。
まさかの事態。
夜一を乗せた後、スコラ(2号)は自ら馬車を引きはじめた。
夜一は戸惑いを通り越してパニックに陥っていた。
すれ違う人々の視線が痛い。
傍から見れば夜一は、少女を文字通り「馬車馬の如く」働かせている。
人権団体なんかがあれば、すぐさますっ飛んできそうな状況である。
ハァハァ。
無駄に精巧に作られた彼女は肩で息をしていた(正確には人間らしい動作をしているだけ)。
白い目を向けられる。
マジでやめてほしい。
白い目というのは、これ程までに人の精神を破壊するのか……
そんな苦痛に耐えに耐えた夜一は、研究所に着くと同時に、スコラに馬型ゴーレムを作るよう依頼(懇願)した。
それからしばらく後、「自動馬車」という名前で馬型ゴーレムが売り出された。
これにより流通が活発になり、王都はより栄えたという……――
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