お姫様はモノを捨てられない①

「はぁ……」


 どうしましょう。一向に黒字になりません。

 今まで商品を手にとっても、数多ある商品に目移りして悩み、結局購入を保留。その後、他店で買い物をしてしまうという悪循環を脱却すべく、品数を大幅に減らしました。


 そのおかげで、来店してくださったお客様が商品を買って下さるようになりました。

 この大胆な決断は「経済学」なる学問に倣って行った改革で、それを齎したのはヨイチさん。


 ニホンなる異国の方で、絵描きになるお勉強をなさっているのだとか。

 彼は「これは天災みたいなものだから公欠になるよな? ならなくても大学いけないから、しばらくここに置いてくれない? バイト扱いでいいから」とセルシアには理解できない単語を並べて話した。


 取り敢えず、しばらく住む場所を提供してもらいたいとのことだった。その対価としてお店で働くと言う。

 経済学なる学問の書かれた指南書はニホン語で記されており、セルシアはニホン語の読み書きができない。


 だから彼が滞在してくれるというのはとても助かるのです。

 そしてさっそく問題が生じているのです。


 店内に陳列する商品を数種類ずつに限定することで、お客様に商品を手に取ってもらえるようにはなりました。

 ですが、今までに仕入れた大量の商品はそのままなのです。


 ポーションなどの薬は使用期限があります。

 店内に置ける数にも限りがありますから、お店に置けないモノも幾つか――大量に出てくるのです。俗にいう在庫です。


 本来ならば売り場に置けない商品は廃棄するべきなのでしょうが、折角買い付けた商品なのです。

 変に愛着と言うか、何と言いましょうか……

 ともかく、廃棄処分する踏ん切りがつかないのです。


 そこで私は彼に相談することにしました。

 正確には彼がお持ちになっている本の知識をお借りするために。



 * * *



「在庫をどうにか活用できないか、ねぇ……」


 ヨイチは、頭を掻きながらリュックサックの中を漁り、本を取り出す。


 経済学の――お客様をカモる指南書。

 危機的現状を打開する策を我らにお与えください。

 私は今、初めて心から祈り求めました。

 神殿においてもここまで熱烈に祈ったことなどありません。


 性質かに私はへなちょこ商人なのでしょう。ですが心だけはすでに商人なのです。王女としてのプライドはありません。

 私は黙って彼が解決策を見つけるのを待ちます。


「セルシアさん、この店以外で商売はしていないんですか?」


「冒険者ギルドの方に少しだけ品物を卸していますけど」


「それじゃあ、そちらに在庫のポーション全部持って行っちゃいましょう」


「在庫を全部ですか!?」


「ええ、全部です」


 彼はそそくさと荷車の用意を始めます。

 私もそれに続いて準備を始めました。

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