お姫様と経済学(選択回避の法則)②
お客様はクロバ・ヨイチさんというお名前で、ニホンなる国からやってきたのだと言う。
勉強不足で申し訳ないと思いつつ、セルシアは、辺境の国家なのだろうと見当をつけていた。
仮にも王女である。教養はそれなりにあると自負している。
ニホンなどと言う国は訊いたことも無かった。
セルシアは、目の前の彼をどのように扱えばいいのかと、頭を捻った。
珍妙な恰好をしているのだ。
貴族ではないだろうが、仕立ての良い服を着ている。
そして彼の背負っていたリュックなる品も革張りで丁寧な作りである。
冒険者? にしては身体を鍛えているようには見えない。
商人? にしては商品となる品物が見当たらない。
彼の正体が全くつかめない。
当の本人は学生だと言う。
証拠だと言って一冊の本を差し出す。
色とりどりな絵に、異国の文字が躍る本を見つめる。
読めませんね……
ペラペラと頁をめくると、中にはさらに複数の文字が、頁の余白を潰す様にびっしりと記されていた。
「これは一体何について書かれているモノなのですか?」
「……さぁ?」
「ご自分の本なのでしょう?」
「そうだけど、専攻じゃないしなぁ……、そう言えばここはお店なんですよね?」
「ええ、そうですが」
「だったらその本あげますよ。僕は別に使わないし、役立つかもしれないですよ。経済学」
経済学というモノが書かれている書物は、商売をするうえでとても役立つものかも? とのこと。
藁にもすがる思いで、開いて読んでみるものの、異国の言葉がさっぱり分かりません。
視線をヨイチさんに向けると、露骨にめんどくさそうな顔をしながらも読んでくれた。
「えっと……、第一章、お客はカモ、経済学を使ってどんどんカモりましょう。……ひどい内容だなこの本」
「すみません。カモとは何なのでしょうか?」
「え、カモは……お金を払ってくれる――つまり、商品を買ってくれるお客って意味、かな?」
「なるほど! では続きをどうぞ!」
つまりは商売の指南書のようなモノなのでしょう。
王国にはない、商売のノウハウを取り入れれば、《ジャンク・ブティコ》の立て直しも叶うかもしれません。
「それじゃあ、まずは……、「商品のラインナップを考えよう」。あまりに多い選択肢は逆効果、人間は優柔不断な生き物、だそうです」
そう言って、ヨイチさんは店内を見回す。
釣られてセルシアも視線を巡らせる。
「取り敢えず、何でもかんでも商品棚に置くのやめたら?」
「……そうですね」
翌日から《ジャンク・ブティコ》の品数は半数以下になりました。
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