1章 昼夜の国と恵みの森a
1章 昼夜の国と恵みの森
ぽかぽか陽気の差し込むは、昼と夜の国の狭間に位置する恵みの森。
そんな穏やかな太陽とは裏腹に、森で唯一の住居である赤い屋根の小さな家ではいかにも物騒な色の煙が立ち込めていた。
「ケホッ…うーんおかしいな…」
大きく開いた窓からはもくもくと暗い紫色の煙がまるで零れるように流れ出ていた。煙を生み出してしまった本人である少女ココは煙をもろに吸い込み咳き込んだ。
「ココ、これ、違う。」
そんなココの傍らで机の上のレシピ本をつついている小さなオレンジの雛はココの親友であるラランだ。こんなにもふもふころころしているが、正真正銘のフェニックスだ。
「ケホッ…どれどれ…」
ココは本を覗き込んだ。
マジックリーフ…オレンジとレモンの皮、蜂蜜、そして最後に魔法の粉を一振…
先ほど試験管に入れたものたちを記憶を頼りに思い出す。
「えっとマジックフラワー…」
ココが入れたのはマジックリーフ…
「…最初、から。」
まさかの間違いにココはガックリと肩を落とした。
「ココ、大丈夫!いつもの、こと」
「ララン…それ、励ましてないよ。」
そんなちょっぴりズレた親友に微笑みながらココは今度こそ!と再び腕まくりをした。
ココは祖母と共に幼いころからこの「恵みの森」で生活している。様々な生き物とずっと過ごしてきたからかココは生き物と会話をすることができた。森にいる人間はココたちしかいなかったが毎日自然の友人たちとのお喋りが楽しく、ココはちっとも寂しくなかった。
ラランと出会ったのもこの森の中だった。祖母との薬草つみの途中でお腹を空かせていたところをココが見つけた。不思議なことにラランはあのころからずっと雛のままだ。
「…大きくならないねえララン。」
なんとか完成した薬を瓶に詰め終えたココは、ほっと息をつくと机の上をテトテト歩くラランに微笑んだ。
「ココ、も、おそろい」
お尻をフリフリ踊るララン。
「おそろいだねえ。」
そんなラランにココは嬉しそうに微笑んだ。
不思議なことにココ本人も歳を取らない。理由は謎だが見た目は10歳超えたか超えてないかくらいの少女のままだ。実年齢は今年で20歳。年頃の女の子としては複雑なところあるが親友とおそろいであることが救いだった。
その時、キィと玄関の戸が開く音がした。
祖母が帰ってきたようだ。
「おばあちゃんおかえり!」
ココは玄関に向かって声を掛けた。
「ただいま。あら?ココ!お薬できたの!」
玄関から顔を出したのはココの祖母であるマダムレベッカだ。
レベッカは荷物を下ろしながら机の上の薬を見た。
「もちろんだよ!ちゃんと完成させたよ!」
エッヘンと胸をはるココ。
しかしラランは素直すぎたようだ。
「1回、バクハツ、した。」
「ラランっ!しーっ!」
そんな2人の様子を見てレベッカは微笑んだ。レベッカは森の薬草を使い薬を作っている。彼女の作る薬は大陸1の効き目で両国からの依頼が絶えない。1人で作るにはどうにも人手が足りないため、幼いころから作り方を見ていたココが今ではその薬作りを手伝っているのだ。
「最初は誰しも失敗するものよ。…うん。さすが!しっかり出来てる。」
薬の出来栄えを確認していたレベッカは孫であり弟子の成長に嬉しそうに微笑むと、ココは満面の笑みでそれに応えた。
祖母であるレベッカは見た目からはココ同様想像できない年齢である既に70を超える年齢であるが、良くて40代行かないくらいの外見である。静かに光る銀色のサラサラとしたロングヘアが特徴で両国には隠れファンまでいるらしい。
ココはというと銀髪なレベッカとは対照的に明るいクリーム色の髪をいつもゆるく三つ編みにしており、エメラルドのように鮮やかな瞳をしていた。瞳の色はレベッカもおそろいだ。
「それじゃあ風邪薬もマスターした事だし、次の薬をお願いしようかしら。」
レベッカは腕まくりをしながら薬草を準備し始めた。
「次!次はどんなの!?」
キラキラした瞳でココはレベッカに問いかける。
「次はねえ、いつも昼の国王に頼まれているお薬なのだけど…」
試験管を並べながらレベッカはココに説明を始めた。
大陸一の腕前であるレベッカへの依頼には王宮からのも多く来ている。薬の種類もそれぞれであり、レベッカでしか調合できない薬も中にはある。今までココは国王からの依頼の薬の調合を基本的に教わっていた。
「昼の国王」からの依頼の調合。
これはレベッカがココの成長を認めた証であった。
「…できるかな?」
期待を秘めた瞳でレベッカはココに訊ねた。
「もちろんだよ!」
ココはめいっぱいの笑顔で応えた。
一方昼の国。
お昼の鐘が鳴り響く広場で、見回り中の魔道士が多くの女性に囲まれていた。
「 ライ様。お昼はどちらで?」
「宜しければご一緒しても!?」
「ライ様…本日も素敵ですわ。」
我こそはという肉食系の女性もいれば遠目でうっとりと見ている女性もいる。そんな女性達に囲まれ困り果てていたのは若くして昼の国一の魔道士と呼ばれるライ=サンライトである。
「すまないが仕事中だ…し、失礼する。」
ライはサラサラとした金色の短髪に凛々しく整った顔立ちだが無愛想であまり笑わない人間だった。しかし正義感が強く、真面目、さらに困っている人を放っておけない性格であら、そんな姿を見ていた国王たち皆ライの大ファンだった。
どうにか女性の群れを切り抜け王宮に戻ったライはようやく同僚たちとのランチにありつけた。
「相変わらず…大変だな。」
ボロボロの帰還をしたライに同僚の1人がサンドイッチを渡した。
お礼と共にサンドイッチを受け取る。
「…俺なんかのどこが良いのだろうか。」
サンドイッチを見つめ、ライが呟くと
「さあ。…そういうとこだと思うぞ。」
同僚の1人は笑いながらぽんっとライの肩に手を置いた。
「…ありがとな。」
多くのスペックを持ちながらも忘れない謙虚さ、そして希に見せる笑顔にライの人気は尽きることがなかった。
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