昼夜の魔道士と不老の乙女

月影かぐや

プロローグ



むかしむかしのお話だ。

大きな大きな王国がこの世界に存在していた。太陽と月が王国を順番に見守り、朝が…夜が…そうしてまた朝が…そんな日々を人々は過ごしていた。朝は生きるために活動し、夜は生きるために眠りについた。動植物と共存していた人々の生活はとても穏やかなものだった。そうして争いのない王国はすくすくと成長していった。

ある時、遠くの世界から災いが流れてきた。何も知らなかった人々は災いを知らず知らずのうちに王国に招き入れてしまったのだ。災いは人々の知らないところでじわじわと広がっていった。肥えていた土地が枯れ、作物が実らなくなった。穏やかだった動物たちが人々を襲うようになった。そんな日々が続き、追い詰められた人々は互いに奪い合う様になった。生きるために奪い合ったのだ。奪い合いは群れをなし、それは次第に大きなものになった。奪い合い…それは争いへと変わり穏やかだった王国はあのころの面影をかき消してしまった。火の粉が巻き上がり、断末魔が鳴り響く…もうこの国は終わりだ…皆がそう思っていた。生きるために行ったことが人々を死へと導いていたのだ。

人々は分かっていた。自分たちの進んでいる道の先を…だからこそ、救いを求めていた。誰か…誰か助けてと…


突然上空に光が現れた。そして、太陽と月が同時に現れた。2つの守護神は人々の行動を見ていられなくなったのだ。守護神たちの叫びを聞いて現れたのは、灰色のマントを翻した1人の人物。その人物が人間なのか、それとも神なのか…それは誰もわからない。争っていた人々は突然の光景に目を奪われた。謎の人物は言った。


「災いは、私が貰っていこう。」


そして謎の人物が手を差し出すと、大きな黒い塊が吸い込まれていったという。

黒い塊が抜けた土地は大きな穴へと変わり、土地はひび割れ2つに裂けた。


王国を2つに裂けたのだ。

災いがなくなった後…王国だったものは2つの国になった。裂け目は川となり、土地は戻り大きな森へとなった。人々は穏やかな心を取り戻し、2つの国としてまた生きるために活動した。2つの国は今でも穏やかに…協力して共存している。太陽の神が見守る昼の国。月の神が見守る夜の国。そして、2つを結ぶ恵みの森へと…


そして時は過ぎていった。現在…



太陽の守護神が見守る朝の国はいつも活気に溢れている。作物がすくすくと育ち昼行性の生き物たちが人々と共に生活している。朝の国の国王はとても真面目な人物で、王国軍の騎士達や王宮魔道士たち、そして国民たちはそんな国王を尊敬している。太陽の守護神は夜には眠る。しかし月の守護神は夜の国にいるため紫がかった夕焼け空が広がる。そしてまた守護神は上り、朝になるのだ。


夜の国では太陽の代わりに月の守護神が人々を見守っている。夜の国の人々は賢く、知識を集め自らの力で灯りを灯した。夜行性の生き物たちが生き生きと暮らし、人々は様々な発明をしている。夜の国の国王はとても賢い方で国民たちも皆賢かった。穏やかな月の加護を受けた人々は穏やかで優しく、知性と気品に溢れていた。星々は空を埋め尽くすように輝き、月の守護神同様に人々の生活を見守っていた。


恵みの森は大国が2つに裂け、この地から災いが消えたあとに突如現れたという伝説がある森である。木々が生い茂り生き物たちが多く暮らしている。森の中には裂け目から生まれた川が流れ、大陸全体を潤している。森には太陽と月、両方の守護神の加護がさずけられており昼行性の生き物も夜行性の生き物も健やかに暮らしている。


それぞれの国は良いところを共有し、森は全てをつないでいる。朝の国の作物、夜の国の科学が結びあい、人々はまた昔のように穏やかに、そして生きるために活動を始めた。

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