第三話 吾輩は兄である、名前はまだ言ってない
呆然と佇む兄妹二人。状況が分からない。と思ったら《管理人の知識》の中に知識が入っていた。
どうやらこの世界で生き物を倒すと世界に還元?されて、ドロップと呼ばれるものを残すらしい。それがこの五百円玉と肉だ。
とりあえず拾っておこう。スキルは確か......こう使うんだったけな。
《冷蔵庫》発動。
脳内に倉庫のようなイメージが現れる。俺はその中に肉と五百円玉をしまい込むイメージをする。スキル名は冷蔵庫だが、五百円玉も問題なく仕舞えた。とりあえず牛乳は取っておくか。
「......妹よ。牛乳一杯どうだ?」
「ありがとう、兄貴」
二人して黙々と牛乳を飲み続ける。なんとも言えぬこの空気で何か言えるほど、俺は図太くなかった。物憂げな妹も可愛いなぁ。
二人で来た道を無言で戻っていると、妹が口を開いた。
「ねぇ、兄貴。やっぱりあの兎って死んじゃったのかな」
何も言えなかった。いつもなら気軽に飛び出る冗談が今は出てこなかった。多分、俺もショックなんだろう。
間が開いて、妹が口を開く。
「......ゲームとかだとね。モンスターが死ぬと、お金とか経験値とかドロップを残して消えていっちゃうの」
妹は襲われた時、もし少しでも角の位置がずれていたら死んでいた。その後、自分を襲った者が死んだ。妹は死を実感してしまったのだろう。
俺は何とか声を振り絞って言った。
「生きるってこういうことなんだろうな」
しょーもない唯の一般論であったが、これが一番しっくり来た。どうしようもない兄だけどこれぐらいは言ってあげないとと思った。
「知ってるよ。......でも、本当にそうだね」
そう言って妹は俺に顔を向けてにこりと切なそうに笑った。......さようなら、兎。お前は妹を傷つけたが忘れないでおいてやる。我が妹に免じてな。
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この世界の出入口である、四角い冷蔵庫サイズの穴まで来ると、俺達兄妹はひとまず休憩を取る事にした。
「兄貴」
「ん?」
「兄貴の《ガチャ》ってスキルってどんなのなの?」
「あぁ」
そういえばそのスキルには触れていなかった。どんなのなんだろうか。とりあえず発動させてみよう。
《ガチャ》発動。
発動すると手元にタブレットが出てきた。黒を基調にしたデザインに金の模様が入っているイケてるやつだ。
「兄貴なにそれ?」
「知らないな。スキルを発動したら出てきた」
「あー、私の伐採スキルのようなものか」
そういえば妹が木を伐採しようとしていた時に、突然斧が出てきていたな。なら、これを使えばガチャが出来るのか?
とりあえず電源ボタンらしきものを押してみると、画面が表示された。
映されているのは、〔ノーマルガチャ〕、〔レアガチャ〕、〔キャラガチャ〕、〔アイテムガチャ〕、〔オブジェクトガチャ〕という文字。とりあえずノーマルガチャというのを選択してみる。
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〔ノーマルガチャ〕
キャラ、アイテム、オブジェクトの☆1から☆3までが出てくるガチャ。1回、十万円を消費します。
▶1回 10連
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い、1回十万円。無理だ。こんなの回せない。一応、他のも見てみるか。
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〔レアガチャ〕
キャラ、アイテム、オブジェクトの☆3から☆7までが出てくるガチャ。1回、五十万円を消費します。
▶1回 10連 期間限定10連一回無料
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レアガチャは1回五十万円なのか。普通に引けないな。
「ねぇ兄貴どうだった?」
「ガチャの事か?」
「うん」
妹に金額についてなどを説明してから見せる。
「うわ高っ。出来ないってわけじゃないけど、凄い勿体無いってラインを攻めてるね」
「だろ? 妹よ何か良い案はないか?」
「普通に稼ぐしか......って、期間限定10連1回無料あるじゃん」
お金のインパクトが強すぎたせいで、気づかなかったぜ。流石我が妹。これに気づけるとは。
「あ、確かに」
「へぇ凄い。五百万円分のお得だよ? じゃあ、引いちゃうね」
「え? 俺が引きたいんだけど」
「じゃあ祈って」
「? はい」
「お願いします。良いの出てこいっ!」
「え? 何で引いてるんだよ」
「えへへ」
可愛いから許す。妹が期間限定10連1回無料を押すと、ガラガラガラッという音とともに画面に結果が表示された。
ーーーーーー ガチャ結果 ーーーーーー
誘惑メガネ ☆3
二階建て一軒家 ☆4
デュアルストライク ☆4
『農兵伝説』ハシバ ☆6
小規模湖 ☆3
妖刀 血呑み ☆5
下忍くノ一 ☆4
トップエージェント ☆4
クリミナルハンドカフス ☆5
『無の魔人』ノーリ ☆6
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......よく分からないが、最高レアの☆7が無いということは、大当たりってわけではなさそうだ。ふむ、くノ一ねぇ、くノ一。ぐふっぐふふふふ。
「兄貴キモいから止めて。ふーん、割といい方なのかなぁ?」
俺と妹が見終えると、画面が変わる。画面には、景品が出てくるので離れてくださいの文字が。ひとまず、タブレットを置いて50メートルぐらい離れる。二階建て一軒家があるらしいしな。
すると突然、タブレットが大きな光を発し、前が見えなくなる。
光が無くなり目を開けると、割と大きな一軒家が一つ。その近くには、見るからにくノ一なボンキュッボン、特殊な戦闘服っぽいのをきた外国人女性、気弱そうな軽鎧姿の青年、浅黒い肌で山羊の角が生えたバンキュッバン(ボンキュッボンの上位互換)、の四人が立っている。その足元には刀や銃などの武器、手錠や眼鏡が転がっている。また、一軒家のすぐ近くには小さな湖があった。
これが景品なのだろうか。俺達兄妹が唖然としていると、四人が近づいてきた。その中から一人が歩み寄る。
「召喚者様、私はくノ一です。名前は捨てた身ですので、お好きにお呼びください」
ボンキュッボンのくノ一が俺に話し掛けてきた。うむうむ、良い心がけだ。
「うむ、では貴様に
「この月夜、身に余る光栄でございます」
名前に特に意味はない。パパっと決めてしまったからな。まぁ、日本神話のツクヨミからもじっただけだし。ノリに乗って適当になってしまったが、喜んでるし良しとするか。
月夜が下がると、次にぴちっとしたスーツの上にコートを羽織った女性が出てくる。
「ワターシはトップエージェントデース。ワターシもオナージようなものナーノで、にはコードネームをつけてクダサーイ」
お、おう。なんか個性的な人だな。まぁ、美人だしそれっぽい見た目だから違和感はない。ラブコメに時々出てくる外国人キャラっぽくていいね。
「じゃあ、お前にはセレネの名を与えよう。ギリシャ神話の月の女神の名をイメージしたものだ」
「アリガトゴザイマース。とてもとてもカンシャデース」
一応、くノ一の月夜と対にしておこうと思って名付けただけだ。こちらも喜んでるし別にいいだろう。ちなみに本家はセレーネーである。
こちらも下がると、今度は気弱そうな軽鎧の青年が前に出る。
「オラ、ハシバといいますだ。一応、農民をやりながら傭兵もやれますだ。貴方様に忠誠を誓いますだ」
「おぉ、万能だね君。バシバシ働いてもらうから頼んだぜ」
いやぁ、ハシバ君はできる子みたいだ。そういえば歴史にもはしばっていう名前の奴がいたはずだが......。うーん、分からん。テストの時以外は可愛い子の事ぐらいしか、覚えてないからな。まぁ、さすがに今の状況は嫌でも忘れられないと思うけど。
ハシバも後ろに下がる。すると、最後に残されたバンキュッバンが前に出てきて言った。
「召喚者様はイケメンだなぁ。私はノーリ。特技は無属性魔法とオトナの遊び。どう? この後一緒に寝る?」
「喜んでっ!」
コンマ一秒も開けずに即答する。し、仕方ないだろ? 俺は順序を気にする派だが今、袂を分かった。バンキュッバンの前に男は無能だ。
「はぁ、全く。突然色んなことが起きても、動じたりしないのをかっこいいと思い始めたところだったのに。やっぱり兄貴は只の変態。弔ってやるから死ね」
まぁ、ちょっと優しくなったからいい方かな。
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