第二話 俺がシスコンだった件

 学校一番乗り。よし今日もモテるために髪の毛を整え直そう。手鏡はどこかなぁ、っと。


 ......なんか嫌な予感がするぜ。なんというかお尻がゾッとする感じの。


「おっす、朝から会えるなんてラッキー」


 ......奴が来たか。奴に会わないために早く来たのに。こっちは会いたくなかった。


「へへぇ~。お前の事ずっと考えてたぜぇ~」


 こいつは猿山 久助。俺に話しかけてくる数少ない男子。そして、俺のモテモテゲスハーレム計画の障害でもある。何故ならばこいつはーーホモ。しかも、俺の事が好きだからだ。


 いや、分かるぜ? 俺が男も惚れてしまうほどの美貌だってことは。しかし、俺はノンケ。愛の在り方に否定はしないが、俺は普通に女が好きなのだ。だから、こいつには俺の計画の犠牲なって貰うつもりだ。


「うへへぇ~。釣れないなぁ~」


 擦り寄ってくる変なのを、無視し続けること10分。ついに他の生徒も来た。しかも、女子生徒だ。日本人には無いような美しい銀髪。ショートカットで切りそろえられていて、顔立ちのせいもあるが、凄い中性的だ。


 名前は伊集院 美鈴。勉強については全国模試で常に不動の二位である。運動はちょっと苦手だけど、そんな所も可愛い、美人力50万ちょっとを誇る美少女だ。俺が一番お世話になっている人である(色んな意味で)。


 比較的、女子友達は多いが、仲のいい女子の少ない俺にとって一番つるむ異性だろう。


 誰にもでも友好的で優しくて運動以外は完璧な女の子の伊集院さんは、たった一人だけ敵わない相手がいる。


 そう! それがこの俺! 全国模試を総ナメし、某T大合格率100%の偏差値94! 整理整頓、家事全般の生活面も完璧! 運動も出来れば顔もいい! この俺が! 伊集院 美鈴の敵わない相手である。


「あ、猿山くん。それに天才くんじゃん。おっはー」

「おう、おは」

「ん、おはよう。伊集院さん」

「で、天才くんは何やってるのかなぁ?」

「俺と愛の契りを結んで「いや、ボーッとしてただけ、暇だし話でもしようよ。伊集院さん」」


 何か変なのもいたような気がするが、今は伊集院さんと話したい。可愛いし。後、天才くんは俺の本名とは何の関係もない。ただ天才だからそう呼ばれてるだけだ。


「んー、その喋り方。何かぽくないんだよねぇ。天才くんってやっぱ何か隠してるでしょ」


 ぎく。伊集院さんは勘が鋭い。これに関しては俺も負けるかもしれない。かもしれないだけだけど。俺のモテモテゲスハーレム計画がバレたら、大変なことになるので、本性は隠し通しているのだよ。流石俺。


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 学校が終わり、今は帰り道だ。伊集院さんが一緒に帰ろうと誘ってくれたが、嬉しくて抱きつきそうになりながらもお断りした。すまない、妹が帰りを待っているからな。


 ダッシュで走ること三分。100メートル9秒59(非公式だけど事実)という世界記録1歩手前の俺には簡単なものだ。それに家も近いしな。


「愛しき妹よっ!」

「キモくて、近所に恥ずかしいから早く入って」


 比較的優しめな妹の声色。不安だ。


「ほら、これに着替えて」


 そう言って渡されたのは迷彩服と防弾チョッキ。おい、何処から調達した。そして、なんの為だ。


「お父さんのサイズなら合うでしょ」


 尊敬すべきマイファーザーのものであったか。マイファーザーも185と高身長だが、俺ならギリギリ着れる。


「私も部屋で着替えてくるから、着替え終わったらダイニングで待ってて」

「了解」


 ......少しダボついているが、そこまでの問題は無いだろう。妹に言われたように待ってるか。あ、その前に牛乳。


 冷蔵庫を開ける。そこにはそよ風の吹く草原が。閉める。牛乳は勿論ない。これがデジャブと言うやつか。安全確保の為の防護服、異世界の無人島への入口だという冷蔵庫、神様と話したすぐ後に、妹の「早く帰ってね」。


 危ない、その後の妹の「お兄ちゃん」発言により全て忘れていた。まさか妹に記憶消去能力があったなんて! もしかしたら忘れさせられただけで10年前に誰かと約束してたりして。


「よし、行くよ兄貴」

「お、おう」


 髪を束ね、全く飾り気の無い作業服に身を包んだ妹。素材がいいから何を来ても可愛いな。流石我が妹。


 この世界で一番美しい女性と聞かれたら妹と即答出来るレベルだ。伊集院さんも可愛いけど次席でしかない。悔しい事に妹の素材は俺より上かもしれないからな。つまり、神様も超えるってことだ。妹強い。


 二人して冷蔵庫の前に立つ。


「あ、開けていいかな。兄貴」

「お前が行きたい時に行けばいい。俺は待つからな」

「う、うん」


 深呼吸をして落ち着いたのか、冷蔵庫の扉に手をかける妹。思い切り良く開き、妹は

 ーーーー俺を押し込んだ。


「痛って」

「とう。私、参上!」


 俺を押し込んだ後、飛び込んだ妹。興奮しているのか、いつもならやらないような子供っぽい事をする。悪行もこれだけで許せるな。


「あ、そうだステータス」


 思い出したように言う妹。そういえばそんなのもあったな。とりあえず唱えてみよう。


「ステータス」


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 種族 管理人

 職業 【戦帝】

 スキル 《ガチャ》、《武の祝福》、《管理人の知識》、《冷蔵庫》

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 ふむ。分からぬ。と思ったら、直ぐに分かるようになった。本能で理解している感じだ。この異世界の無人島の管理人だから、種族も管理人。職業は戦闘特化職の【戦帝】。スキルとかもゲームによくあるような《ガチャ》に戦闘能力を上げる《武の祝福》、そして、この世界に関連するものについての知識が詰まっている《管理人の知識》。最後は全くウチの冷蔵庫と同じスペックを持つ無限収納スキルの《冷蔵庫》だ。中には元々入ってた牛乳等々が入っているようだ。


 知らないゲームについての知識やスキルについても《管理人の知識》のおかげで分かるし、戦闘能力があるので身の安全も守れる。神様に感謝だ。ありがたや。


 妹の方も色々あったみたいで、「うぉっ」とか、「やたっ!」とか言っている。


「よし、お兄ちゃん! 探検しに行くぞ!」


 本当に興奮しているみたいで、今日二回目のお兄ちゃん呼びを頂いた。普段の嗜虐的な妹もいいけど、こっちも昔に戻ったみたいでいい。


 特に目的もないので、何かないか周りを見ながら妹について行く。ずんずん歩いていくと、だんだん草原が減って、森が見えてきた。


「お兄ちゃ、じゃなくて兄貴、ちょっとスキルを試したくてさ。ここの木を伐採しててもいい?」

「え? おう」


 何も持っていない妹が突然斧を出現させて、手に持ち、大木に切りつける。割と綺麗に入ったのか、直ぐに深い切り口が出来る。


 そのまま妹が何度か斧を振るっていると、突然何かが草むらから飛び出す。


 運動神経のいい普段の俺なら、気づいて助けられただろう。しかし、俺も妹と同じように浮かれていたのか、勘づくことが出来なかった。


「きゃっ!」


 何かの体当たり。妹の頬からツーっと滴る血。幸い怪我はそこだけのようだ。妹を襲った何かの方を見る。


 ずんぐりとした大きな兎。その特徴は頭に大きな角があること。《管理人の知識》によると、ホーンラビットという生き物らしい。妹の頬の傷は角か。


 よくもやってくれたな。よりにもよって我が妹の美しき顔を傷つけるとは。乙女の顔に傷をつける。それだけでさえ許されない事であるのに、俺の妹をとは。


「キュキュッ!」


 仕留めきれなかった事を把握したホーンラビットがこちらに突っ込んでくる。


 その時俺は特に意識せずにスキルを使った。


《武の祝福》発動。


 怒りを冷静に押さえ込み、六歳の頃に黒帯を取った空手の技を使う。自分より小さいホーンラビットに当てるため、蹴り技主体で連撃を繰り出す。


「キュ!」

 一撃。

「キュク!」

 二撃。

「キュケッ!」

 三撃。

「キュフッ......」

 四撃。


「死肆空脚」


 俺が編み出したオリジナル技が決まる。技名は中二の時に決めた。


 ホーンラビットがバタりと倒れる。それと同時にピロンという音がし、突然ホーンラビットの体が光の粒子となり、散っていく。そして、その場に残ったのは綺麗に包装された肉と五百円玉と兄妹だけだった。

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