第12話「情報蒐集 前編」
ほとんど進展など何もないままに、一週間を浪費してしまっていた。
災害指定者リストを元に片っ端から検索をかけてみたものの、まるで関連するような記事は見当たらなかった。
唯一と言っていい手がかりについては、ジャック・ザ・フェアリーと呼ばれていた殺人鬼についての記述だけだった。
事件が発生したのは今から六年前――俺が小学一年生の頃の話だ。当時はかなりニュースなどで報道されていたようだが、その頃の俺がニュースなどをみているはずもなく、それに関する記憶は何もない。
曰く、都会の路地裏で連日殺害事件が発生。遺体の側には大量のトランプが散らばっており、このことから一連の事件の犯人は同一人物として断定。
連日お茶の間を騒がせ続け、最終的に14名の死者を出したが、最後に1名が重傷を負った後殺人はぱったりと止んだらしい。唯一の生存者も精神的に深いダメージをおい、真犯人は闇の中――。
ネットを調べれば、こいつだけはわんさかと情報が溢れ出てきた。しかしどれもこれも事件の核心や犯人に迫れるようなものはなく、結果だけ見るなら大した収穫にはつながらなかった。
「しかしまぁ、ここまで見つからないもんかね……」
そうつぶやいても仕方がないのはわかっているが、それでも一週間の苦労を考えると、落胆するほかなかった。
「おーい、入るぞー」
「うわっ!」
なんだ、シロさんか。ノックもなしに入ってくるのはどうかと思うが……。
「なんだ、素っ頓狂な声出して」
「いや、なんでもありませんよ。ははは……」
急いでパソコンをしまい、教科書類をカバンの中から取り出す。シロさんに勉強を見てもらう時間だったか。少し没頭しすぎたかもしれない。切り替え、切り替え。
「じゃあ今日はここまでだ。英語は最終的に暗記みたいなものだからな。語彙、文法、文章。この順番でしっかりと理解するんだ」
「やっぱり英語って難しいですよね。言語を追加で覚えるって、なかなか頭を使います」
「日本語は孤立言語だからな、習得するのが難しいのは仕方ない。だがヨーロッパ系言語は大体親戚みたいなものでな。英語さえ覚えてしまえば、我が偉大なる祖国の言葉くらいならすぐに話せるようになる」
マルチリンガルを目指してるわけじゃなく、あくまで中学受験の一環だからそこまでは求めていないのだけれど。
だが将来的に話せれば、社会で一つの武器にはなるだろう。思えば本場に近い人からマンツーマンで教わる機会などなかなか無いだろうし、今のうちにできるだけ覚えるよう努力してしまおうか。
「今日もありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
もう23時か。明日は休みだけど、朝食の準備やら何やらはあるわけだし、早いうちに寝てしまうか。
「あー、ちょっといいか?」
「どうしました?」
「お前、踏み込みすぎ」
はじめ、その言葉の意味はまるで理解できなかった。しかし誰かがパズルをはめ込んだように、その本質は降りてきた。
「パソコン、さっき見てたんですね」
「悪いさ、私だってそういうのがプライバシー的に良くないのはわかってるつもりだ」
申し訳ないという気持ちの一切感じられない謝罪だが、そこはどうでもいいだろう。数日過ごしてきて、この人がそういう人間なのは薄々感じ取れている。
「靉裂から
やはりか。
靉裂さんは渋々というか、仕方なくというか。どことなくそんな話し方をしていた。それに資料だって、本気で心配しているなら他人に書かせた短いものを渡したりしないだろう。
あの人からすれば俺は表面だけ知っていればそれでいい。普通に生活していれば関わることはないんだから。それはネットの検索がまるで通用しないことから、もはや簡単に察することができる。
「よく映画とかにいるだろ。マフィアとかに憧れるガキの話。今のお前がやってるのはそういうことだ」
「ごめんなさい、とは言えないです。どうしても、知らなきゃいけないきがするので」
「好奇心は猫を殺す、そんな言葉が日本にも伝わってるだろ?どっちにしろ今日は寝ろ。それと俺からは何も教えられん。この二つは頭に叩き込め」
そう言って乱暴にドアを閉め、シロさんは部屋から出ていった。
最後の方は怒気を孕んだような声色で、それが傭兵としての経験からくるものなのかはわからないが、味わったことのない恐怖を抱かされた。
手がかりがないのは今に始まった事ではない。しかしこのように、明確に釘を刺されてしまったのはあまりよくない兆候だろう。
靉裂さんが、俺が知識をつけることを疎んじていることがわかったのも痛手だ。シロさんは確定として、愛花ちゃんにも手を回しているとなると、いよいよ頼れる人物がいない。
……今日は、眠ろう。
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