Will I change the Fate?

織坂一

第1話 Down,dawn,dawn…


 色は匂へど酔ひもせず

「ぐあッ!」

 上がる悲鳴、同時に隙間から口元を押さえて恐怖に怯える幼子。

 荒れる時代はやがて地を喰らい、やがて何もかも血に染める。

「何故、何故……お前がッ!お前がッ!」

 ――そうして今日も誰かが死んだ

   


「沈姫。お前は会津に残れ」

 どうして?――と彼女は彼を見上げると、彼は優しく笑う。しかしその笑顔の裏には彼なりの苦肉な覚悟が秘めてある。

「俺は大鳥家の当主として、果たすべく義務がある。だが時代が変わった時には……」


 そう言って彼――彼女の兄は姿を消した。


 幼い少女はその先の言葉を聞く事はなかった

何せ自身が産まれた家の宿命も幼いながらも知ってもいたし、兄がしないのであれば当主でなくとも自身でするつもりでいたのだ。

 だからこそ何も変わらない

「……時代が変わったら、か。」

 ふと家の門の外を見ればそこは16年生きてきた美しい故郷である会津の風景を一瞥し、くるりと回り門の前に膝をつき、伏せた姿勢になっては、スッ、と頭を下げてはこの地に別れを告げる。

「ご先祖様。これより大鳥母禮は東京へ参ります。」

 頭を下げては1拍。立ち上がり、門へと背を向けると共に呟く。

「時代が変わった時には必ず」


 時は2065年。

 今の日本はこれかという程荒れ狂っていた。国債による金銭の破綻から始まり、少子高齢化による年金問題だけでなく、国のデータバンクである役所さえ個人情報の漏洩が起きるなど、政治面でも生活面でも人々は飢え、生きる事が難しくなったのが今から30年前。


 それ以降日本は荒れ、街はなんとか体裁は保っているが、名所以外は基本廃墟が目立つようになってきた上、農家なども倅が都会で暮らし始めるという傾向が広まり、とうとう食料面でも問題が生じ人々はこの時代を「第七の革命期」「第二の幕末時代」と呼んだ。


 事実この混乱した日本では強盗やテロ殺人等、警察だけで賄う事など出来る事などできなくなっていた為、首都・東京には専用の対処機関がいくつも配備され、中でも特化していた武装集団が存在していた。


 名は『新選組(イクスターミナーション)』

 今の警察のトップとして君臨しており、多くの強盗、殺人、テロを解決した事と卓越した剣腕と勇猛さから、かの有名な「新選組」の名を頂いたと言われている。


 各10実働部隊が配備され、都内の大型マンションに身を構えた合計100人近くの隊士は所属する部隊であり男所帯だというのだが、今この門を叩こうとしている少女がいた。


 一見ぱっと見、少年の様に見えるがそれにしては背丈は小さい上、髪も金髪で高くポニーテール状に結ってある。しかし、それに不釣り合いな2メートル近くの鈍色の十字架を腰に下げている。少女はカーディガンのポッケから財布を取り出し中身を確認するが、中には1000円札が4枚と小銭が18円。その中身に思わず沈黙する。


 それもそうだ。東京は首都であるが、今は税金も上がっており、カプセルホテルなどには手は届かないし、そもそもネットカフェで一時避難するぐらいが精一杯な状態だった。


(果たしてこれで足りるだろうか?)


 ここ上野から『新選組』が新宿に構えたマンションまでの交通費も考えなくてはならないし、今は何分夜だ。早く宿を決めてしまわないと厄介になる。

 ちなみに現在は物価と税金の上昇と共に電車賃も値上がり、2駅通るだけで1000円はかかるとここで示しておこう。


 うーん、うーんと悩んでいると突然ドンッ、とぶつかれば息を荒げた男2人組はぜぇぜぇと肩で息をしながら少女を盾にする光景の中、男の1人が「ア、アンタ……!」と呟く。

「た、助けてくれ!今、追われてんだ!!」

 


「山崎、まだ見つからないのか?」

「はッ」

 一方とある大型マンションの一室で交わされる会話。正にここがかの新選組の構える本拠地である。薄暗い部屋の中で会話というよりも密偵からの報告は続く。

「チッ、暴力団幹部のスパイを片付けてる間に逃げたか」


 「あんの野郎……!」と新選組のナンバー2である土方幹行は言葉を噛み殺す中で「致し方ありません」と山崎と呼ばれた隊士からの静止を受け、僅かながら落ち着く。


「彼は仮にも古代名家『大鳥』の当主なのですから。」

「だったら会津で大人しく動いてりゃいいだろ。それをしねぇ以上、当主も何もねぇじゃねぇか」


 嫌味をたっぷりと吐き出し「はぁ」と1拍溜息を吐いては再び報告へと耳を傾ける。

「そういや今日は何部隊が出てる?」

「確か第1部隊と第3部隊です」

「そうか、ご苦労だったな。下がれ」

「失礼致します」


 トントン、と煙草の箱から煙草を1本取り出し、静かに火を点け煙を吸い込む。刹那息を吐いては誰もいない部屋でぽつりと呟く。

「これで相似と斎藤も駄目だったら終わり、か……。やってくれるぜ。大鳥」


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