疑似ヴァンパイアⅡ
「カーミラちゃん、なに鼻血出してんの……?」
「はっ! レイナが想像以上に可愛くて、つい……」
ファムがカーミラに若干引き気味で尋ねると、カーミラがうっとりと先ほどのレイナの痴態を思い浮かべながら返事をした。「うわぁ……」と更に距離をとるファムが何かに気付く。
「……ん? 『想像以上に』ってことは、お姫様がああなること分かってたの?」
「へ? ええ、もちろん分かってたわよ?」
「じゃあ始まる前にタオくんとシェインちゃん退出させてあげよーよ! 特にタオくんにあんなの見せるとか可哀そーじゃん! 思春期だよ⁉ 男の子だよ⁉」
「知らないわよ、そんなこと」
「なんかひでぇ言われようなんだが……」
話のネタにされているわりに蚊帳の外なタオが呟く。まだ少しぼうっとしているレイナが「タオが可哀そうって、どういうこと……?」と尋ねた。
「あー……。タオくんが可哀そうっていうのは何と言いますか、ほら、精神的に? お姫様のアレは若干苦行だったんじゃないかなーって」
「おいヤメロ」
「アレ……って? 私、どんな風だったの……?」
「え、ぶっちゃけ超エロかっ――」
「えー、なにー? カーミラちゃーん? よく聞こえなあーい」
何かを言いかけたカーミラの頬をむぎゅうっとつねり、ファムはひきつった笑顔で迫る。カーミラは「いひゃいいひゃい」と涙目で訴えるが、どこか本気ではなさそうだ。
その証拠に、ファムが指を離すと頬をさすりながらも、
「もう、痛いじゃない。私に構ってほしいなら口でそういえば良いのに」
「だあーれがカーミラちゃんに構ってほしいってーえ?」
「ひっ」
と笑っている。
ファムは手応えのない感触にやれやれとため息を吐きながらカーミラに言った。
「で、カーミラちゃん「分かってた」って言ったよね? 知ってること吐いてもらおーか?」
じっとカーミラを見つめ真剣な眼差しで問うファムにカーミラはにやりと不敵に笑って見せる。
「かわいいわね。あなた、よほどレイナが大切なのね」
「当たり前でしょ。『善い魔女』は『お姫様』を守るものなの」
「それだけじゃない気もするけどねぇ~」
はいはい、と軽く受け流すファムにカーミラは面白くないと言うように頬を膨らませた。「仕方ないわね」と呟いてカーミラは今度は今までとは違う真剣な表情で口を開いた。
「ヴァンパイアっていうのはね、“魅了”の魔力を持っているものなの。それを使うことで被吸血者の感じる痛みを緩和するのよ」
「『痛み』ってアレですか? 牙が突き刺さる……?」
「ええ、そうよ」
シェインの質問にカーミラが頷く。
「けど疑似ヴァンパイアはその力が非常に微弱なの。持っていないと言ってもいいわ。それで使われるのが、自分の血なの」
「自分の血? それをどうやって魅了と同じように使うんだ?」
「………それを被吸血者の体内に入れるのよ。魅了みたいに外側から魔力がかからない分、内側から直接ってね」
シェインの時とは違い、タオの質問には面倒そうに答えるカーミラ。何となく気付いていたが彼女はやっぱり女好きなのだとファムが確信する。
「ヴァンパイアの血は、たとえ疑似ヴァンパイアといえど人間には強いの。それで被吸血者は疑似ヴァンパイアの血液に酔った状態になるっていうわけ」
「それってつまり……」
「ええ。ぶっちゃけ媚薬と同じような効果があるってことよ」
こともなげに言うカーミラの言葉を聞いてファム、タオ、シェインが一斉にエクスとレイナを見る。エクスは何だか気まずそうに、レイナは話の途中で我に返っていたらしく、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。
「やーん、レイナかわいい~! ねえ、私にも血を飲ませて~!」
「お姫様に手ェ出したらただじゃ済まさないからね、変態吸血鬼ちゃん」
「もう、心配しなくてもファムに興味がないわけじゃないのにぃ」
「そんな心配してないよ。っていうか私たちをそんな目で見るのやめてくれるー?」
ファムは笑顔で言うが、目の奥は全く笑っていないのが伝わってくる。カーミラが満面の笑みで「むり♡」と答えたのを聞いてファムは頭を抱える。
「まー、レイナは正直あんなとこ見られたくないだろうけど、エクスくんが血を飲む量を制御できるようになるまでは私が一緒にいるから」
「は⁉」
「しょーがないでしょー。こんなこと言いたくないけど、さっき飲みすぎてレイナ貧血になってたでしょ」
「うぅ……」
レイナを説得し、エクスに視線で確認すると彼もこくんと頷いた。
カーミラとファムは「私もー! 私も一緒にいるーっ!」「却下に決まってるじゃーん」と、相変わらずのやり取りをしていた。
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