とある提案
それはシェインの一言で始まった。
昨日から寝ていないからと仮眠を取り、お昼にカーミラの屋敷の食堂で食事をしているときに何気なく呟いただけだった。
「新入りさんって今まで姉御の血を吸ったときは二回ともギリギリだったんですよね?」
「え、うん。それに限界に近かったからか、その間のこともよく覚えてなくて……」
「じゃあ余裕がある状態で吸えば、姉御を貧血の危機にさらすこともないんじゃないですか?」
シェインの言葉を聞いてファムが机をダンッと叩く。
「それだよシェインちゃん! でかした!」
瞳をキラキラとさせ、「その発想はなかった」と驚きつつもレイナを危険にさらさないための案が出てきたことを喜んでいる。
レイナの方を向いて、その案を試してみてはどうかと聞いてみる。
「ちょ、ちょっと待ってよファム! 僕は――」
「はいはーい、いま意見聞いてるのはお姫様だから。お姫様が決定したんなら、エクスくんに拒否権はないんだよー?」
「ええ……」
ぞんざいに扱われても怒りもせず、エクスは苦笑いを浮かべている。それはこの場においてはレイナの意見が最優先だということを彼も分かっているからだ。
一方レイナの方は、ファムたちの話を聞かずに食事に夢中になっていた。
「おーひーめーさーまーっ! 話聞いてる?」
「えっ、も、もちろんよ!」
「じゃあどーゆー話だったか言ってみて?」
「『コッコちゃんを何の料理にするか』でしょ?」
「そーそー、よく聞いてたね――って、ちっがーう!!」
自信満々に答えたレイナに思わず叫ぶと、レイナはばつが悪そうに笑った。
ファムはため息を吐きながらレイナにもう一度提案について話した。
「あのね、エクスくんが血を吸うときにお姫様が貧血にならないようにするには、エクスくんが吸血衝動の限界近くまで我慢しなければいいんじゃないかなって話」
「ああ……」
「で、それを実験してみない? ってことなんだけど」
「えっ」
「ごはん食べたらもう一回エクスくんに血をあげてくれない?」
レイナはもぐもぐとごはんを頬張りながら少し考えているようだ。レイナにとっては自分の痴態を見張っておくとファムにくぎを刺された直後なのだ。けれどエクスに血を飲まれるたびに貧血になるのはやはり避けたい。
「……わかったわ。ごはん、食べてからでいいのよね?」
「うん。……ごめん、レイナ」
「謝らないでよ。今のエクスにとって私の血を吸うことは、私がこうしてごはんを食べることと同じなんだから。謝ることなんて一つもないわ」
「そう……かな。ありがとう」
俯きがちに言うけれど、その表情は最近で一番やわらかく、少し照れているようにも見えた。それを見たタオとシェインは顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。
さて、レイナが食事を終えた後、ファムとシェインは何やら大声で争っているようだった。
「だーかーらーっ! タオくんとシェインちゃんは部屋の外で待っててってばー!」
「なんでですかーっ、シェイン、前回だってタオ兄に目をふさがれてて何も見れてないんですよーっ!?」
「いやそれでいいんだよ!? むしろタオくんよくやったって褒めてあげたいくらいだよ⁉」
「訳が分かりませんーっ!」
駄々をこねるシェインに、お子様にはまだ早いと必死で止めようとするファム。
両者一歩も引かず、口論がエスカレートしていく横でエクスはこっそりとタオに尋ねた。
「アレってどういうことなの? 僕、全然覚えてないんだけど……」
「……坊主も、あとでわかるだろ」
「ええ……」
気まずそうに目を逸らしたタオを見て、ますます不安が膨らむ。
いったい自分はどれだけまずいことをしたのだろう。そんなことを考えながら、ファムとシェインの論争が落ち着くのをじっと待っていた。
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