神界器(デュ・レザムス) 前編

 気を失っていたイルザは、瞳を開いた。




 その視界にはぼんやりと黒い縦棒が何本も並んでおり、暗く冷たかった。




 「・・・っ痛い」




 後頭部が痛む。




 (この痛みはいったい・・・? それよりここは・・・?)




 少しずつ意識がはっきりとしてくる。




 スミレを奴隷商人から逃がした人を救うために森を進んでいた。




 (・・・確か、途中で魔獣ガルムが現れて・・・)




 そこから思い出せない。何者かに後頭部に衝撃を加えられて気絶してしまったのだろう。




 鮮明になっていく視界。




 黒い縦棒は無機質な金属棒だった。




 手足は拘束され立つこともままならない、冷たい鉄でできた檻に閉じ込められていた。




 (・・・! 動けない。)




 試しに“妖精の輝剣アロンダイト”を出現させた。短剣型であれば手に持つことはできるが、手を後ろに拘束されており、手首が動かないように固定されている。




 「お目覚めかね、ダークエルフの女よ」




 大地が唸るような低い声、焦げ茶色のスーツを着た長身の男が姿を現した。




 「おっと、そんな怖い目で見ないで送れよ。興奮するだろ?」




 「気持ち悪いこと言わないで。みんなは無事なんでしょうね!」




 鋭く男を睨みつける。




 「ふっ、そんな状況で仲間の心配とは感心するよ。だが、無事かどうかは私にはわからないね」




 「・・・っ!」




 「あ、そうそう。一人だけ無事なのは教えてあげよう。何ならここに連れてこよう」




 苦虫を嚙み潰したような最悪な気分だった。妹やグレン、スミレの安否がわからない上に、その中の一人があの男の手の中にある。




 「入ってきなさい、そして彼女に改めて自己紹介を」




 扉が金属の擦れる音を立てる。静かに歩くその足音はイルザの目の前で止まり、虚ろな瞳をこちらに向けて口を開く。




 「我が主、ブラン様によって召喚されし人間。スミレでございます」




 「スミレ・・・あなた、人間だったの!? ・・・いえ、そんなことより、私たちを騙していたのね!」




 「・・・・・・」




虚ろな瞳のまま口を閉じる。その姿はまるで、操り人形パペットのようだった。






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