魔獣ガルム


 「ごめんなさい・・・です。ごめんなさい・・・です。」




 ガルムに揺られながら懺悔の言葉を繰り返すスミレ。どうしてこの言葉が出てくるのかわからない。しかし、言葉にせずにはいられなかった。




 向かうは主の元。




 虚ろな瞳には徐々に光が戻りつつあった。




 ※※※




 「硬すぎる!」




 短剣に変形させた“妖精の輝剣アロンダイト”を次々と投擲していくが、ダイヤモンド並みの硬質の毛皮がそれを弾く。




 「ここなら・・・どうだ!」




 ガルムの目に向けて投擲する。毛皮に弾かれるなら比較的柔らかい部位を狙う。




 しかし、ガルムもただ攻撃を受けるだけではなかった。




 しなやかな体躯で、グレンの短剣を躱かわす。その動きは緻密ちみつに計算されたような機械的な動きだった。




 (動きが動物じゃない・・・?)




 グレンはガルムの機械的な動きに気付いた。しかし、考える暇を与えることなく、ガルムの攻撃が始まる。




 態勢を整えたガルムは大きく息を吸い込み始めた。




 「・・・グレン! 伏せて!」




 攻撃の予兆を察知したエルザはグレンに伏せるよう大声で伝える。




 ガルムは肺にため込んだ空気を圧縮させ、鼓膜を突き刺すような雄叫びを上げた。その雄叫びは圧縮された空気と共に吐き出され、衝撃波となる。




 「危っね! なんだあの技は⁉」




 「・・・“音響咆哮ソニック・ルージセメント”空気を音速で吐き出すガルムの技よ。・・・空気を吸い始めたら警戒して」




 うつ伏せの状態から後ろを振り向くと、木々は粉々に砕かれていた。




 「早いとこぶっ倒して、イルザに追いつきたいところだが、こいつは骨が折れそうだな」




 防御力も攻撃力も圧倒的な魔獣に、長丁場な戦いを強いられることに焦燥感に苛まれる。




 ホルグの時といい肝心な場面で傍にいることが出来ない自分にも苛立つ。




 自らの葛藤と戦っているところに、ガルムがグレンに向かって飛び掛かる。




 「・・・チッ!」




 体を転がし爪による切り裂きを避ける。短剣を牽制として目に投擲し、怯んでいる間に体勢を立て直す。




 (あれこれ考えてる場合じゃねぇな)




 ガルムによる爪の攻撃を短剣で防ぎながらダメージを与える方法を考える。




 「・・・グレン! 足元に短剣を刺して!」




 ガルムの動きを予測し、次に来るであろう場所に“妖精の輝剣”を地面に突き刺す。




 「・・・“ボルティック・トルピーユ”!」




 エルザの周りに紫の魔界文字が浮かび、突き刺した短剣に魔法陣が浮かぶ。短剣を媒介とし、鋭い雷撃がガルムを貫いた。




 貫かれたガルムからは青黒いオーラが消え、毛皮から煙が立ち込める。




 「どうやらあまり効果はなかったようだな」




 「・・・おかしいわ。・・・ガルムの毛皮はとっても硬いけど、攻撃魔法を防ぐことは無い。なにかされてるわ」




 思わぬ攻撃に怯んだガルムは雄叫びをあげる。




 「奴さん、お冠のようだ。先に行けエルザ! 俺が食い止める」




 「・・・でもグレン!」




 「いいから行け!」




 初めて聞いたグレンの怒声に言葉を失うエルザ。




 「・・・・・・必ず、来て」




 「ああ、任せとけ」




 エルザはグレンに背を向け、森の北西へ走り出す。




 「さぁワン公。狩りの時間だ」




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