鍵穴

 (意識が遠のく・・・)




 命からがらでイルザから逃げたホルグ。“極光の月弓”手元からなくなっていた。




 “蛇咬閃じゃこうせん”で拘束・爆破された後、“極光の月弓アルテミス”を湖へ落としてしまったのである。




 毒に侵されもう飛ぶ力を失ってしまった。地上へ降りどこへ行くということでもなく、ただひたすら森を歩む。




 音も風の気配もわからない。唯一分かることは、このまま毒によって衰弱死する運命にあるということだけだった。




 (くそ・・・なんて・・・毒を・・・仕込みやがるんだ)




 歩く力ももうない。木陰に腰を下ろすと幾分か楽だったが、全身を駆け巡る焼けるような激痛は治まらない。




 誰かが近づいてきている。足音が地面を伝ってくる。




 視力ももうない。視界は霞み、輪郭はぼやけ、色でしか判断がつかない。




 顔をあげて近づいてきたものを確認する。




 サファイアのような美しい青色をした人間。見覚えがある。




 “極光の月弓アルテミス”をホルグに託した少女。




 「ああ・・・お前か、悪・・・い。弓・・・失くし・・・ちまった」




 「・・・・・・。 ・・・・・・。」




 何か話しているのは分かる。だが、聴力もほぼ残っていない。




 「・・・・・・。 ・・・・・・。」




 (心配・・・。してくれているのだろうか。ほんの少しの間の付き合いだったのにな・・・)




 ホルグは今にも力尽きそうだった。しかし、心は温かい気持ちに包まれていた。




 「・・・」




 (なにを言っているんだろうか)




 少女がポツリと何かを呟いた。その呟きは黄金の光となり少女の周囲を包む。




 するとホルグの首筋に鍵穴の形をした模様が浮かぶ。




 「・・・」




 (なにか・・・光って・・・っ⁉)




 鍵穴を中心に輪が構成され、ホルグの首を締め付ける。




 (なんだ⁉ なんなんだこの輪っかは⁉)




 「・・・です」




 温かい気持で包まれていた心は冷たい恐怖に支配される。




 首を締め付ける輪は、少女に纏う同じ黄金の光を放つ。




 (ぐっ・・・!)




 ホルグは音もなく爆発した。遺体は跡形もなく消え去っていた。




 「お疲れ様・・・です」




 巫女装束の少女は氷のように冷たい声と虚ろな瞳でそう言い残し、その場を去った。






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