襲撃
すっかり暗くなったイラエフの森は赤く輝く月光に照らさられていた。
夕食の準備をするイルザ、麻袋に魔宝石を詰めるグレン、自室で魔術書を読むエルザ。各々の時間を過ごしていた。
ダークエルフは基本的には肉を食べない。食べることはできるが、風味が種族の体質的に合わないようで好んで食べる者は少ない(例外もいる)人間であるグレンは動物の肉が恋しくなっていた。
たんぱく源は木の実を粉末状にしたものを水で練り、窯で焼いたもので摂取しているので栄養面では問題ない。
ただし、ダークエルフだけの話である。
「なぁ、もしかしてダークエルフって草食なのか?」
「なによ、私の作る料理に文句付けるわけ?」
手に持っている包丁をジャグリングのように操り、グレンの方へ向く。よく見るとその包丁は蒼白に輝いていた。
「飯に文句をつける気はないけど・・・って、お前それ“妖精の輝剣(アロンダイト)”じゃねぇか! 包丁にするなよ・・・」
なんて使い方をするんだ、と頭を抱えるグレン。
妖精の加護により刃こぼれすることがないその刀身は料理にはうってつけ(?)だった。もちろん形状も包丁の形へと変化させている。
「言っとくけど、お肉が食べたいなら自分で捕って、自分で調理してよね。私達ダークエルフはお肉苦手なんだから」
元の調理技術が高いイルザは華麗な包丁さばきで葉野菜を次々と切り刻む。そのスピードの速さは達人の域だった。
「それならそうさせて貰おうかなっと・・・。“妖精の輝剣”は一応武器なんだが・・・?」
魔法石を詰めた麻袋の口をキュッと締めて立ち上がる。イルザの手元を見つめながら大きなため息を吐く。
「切れ味がすごくいいから便利なのよねー。癖になっちゃいそう」
“妖精の輝剣(アロンダイト)”を撫でるその手つきは艶やかだった。
ゴクリ。と生唾を呑むグレンは麻袋を棚に直そうと足を運ぶ。
その時。
玄関の鳴子がカラカラと音を鳴らす。
「・・・っ! 敵襲だ!」
グレンは大きく叫び外へ飛び出す。真っ暗だと思っていた外は妙に明るく、その光源を目にしたグレンは言葉を失う。
空に一筋の光が伸び、空中で炸裂する。すると、その炸裂した一粒の光は無数の炎の矢となり、流星の如く降り注ぐ。
(まずい! このままだと中にいるイルザとエルザが・・・)
しかし、炎の矢は猛烈な速さで落下し、中にいるイルザ達に向かって声を出す前に小屋へと到達する。
「イルザ! 逃げ・・・」
言いかけたと同時に、炎の矢はなぜか小屋の手前で弾けた。
次々と降り注ぐ炎の矢は轟音と共に空中で消滅していく。
「なにが・・・起こって・・・?」
予想外の光景に立ち尽くす、ひとまずは安心できたがそれと同時に敵の姿が見えないことに不安を煽る。
「・・・防御結界を張っておいて正解だったわ」
小屋からエルザが姿を現す。
「今のはエルザが防いだのか?」
「ええ、グレンが罠を張ってた様に、私も防御結界を張っていたの。それで、失礼な呼び鈴を鳴らしたお客様はどこ?」
エルザは不機嫌な声色でまだ姿を現さない敵の居場所をグレンに尋ねる。
「分からねぇ・・・。どうやら遠くから仕掛けてきたらしい」
「・・・そう。なら索敵魔法をかける」
腰に身に付けている木製のケースから小振りの杖を取り出し、空中に文字を刻む。魔界の文字らしくグレンには読めなかった。
その文字は紫色に輝き、集合して一つの塊になる。そして波紋状に広がり森全体に行き渡らせる。
「今の音は何⁉」
イルザが奥のキッチンから駆けつけてきたその時。
地面が激しく揺れ、足元から熱気が溢れるのを感じる。
「今度は何だ⁉」
索敵魔法に集中しているエルザを支え、グレンは警戒態勢に入る。
小屋の床が紅蓮に染まる。
その紅蓮は灼熱の柱となり、屋根を突き抜け紅に染め上げた。
「防御結界を張っていない地面から⁉」
イルザは遠距離からの攻撃に備えて、エルザに防御結界を張るように頼んでいた。しかし、効果範囲は小屋を包むようドーム型の大きさだった。当然、地面から襲撃を受けるなど予想だにしていなかった。
「・・・敵は見つからない。森の中にいない!」
索敵魔法をかけたはずなのに見つからない。この大規模な攻撃を見つからない様に仕掛ける敵に焦りを募らせるエルザ。
激しく立ち上っていた火柱は治まったが、小屋へと燃え移る。
この場に居続けるのは危険だった。
「・・・姉さん早く!」
ショックでただ茫然と燃える小屋を見つめるイルザの手を掴み、エルザは小屋から離れようとする。
「こっちだ! 早く! 炎に巻き込まれるぞ!」
グレンは最初に見た光の場所から逆方向へ姉妹を誘導する。敵がいるとするなら、その場所から仕掛けてきたと予測した。
「・・・アクアデトーナ」
イルザの手を引き、避難しながら我が家へ向けて魔法を放つエルザ。
小屋上に雲が集まり、密集する。小さく収縮した雲は弾け、豪雨を起こした。
(・・・これで鎮火はできたはず)
先行するグレンの背中を追いかけ、森の中へと姿の見えない敵から逃げる。
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