第12話 案外身近なところにいました
ようやく僕が男だと信じた高杉から詳しい話を聞く。
身体的な特徴とか聞いておかないと分からないもんね。
高杉の娘、鈴華さんは僕たちよりも一つ年下の十五歳だそうだ。
「何か、鈴華さんの顔が分かるものはないですか」
「ああ、それならここにある」
そう言って高杉は内ポケットからスマホを取り出し操作すると、画像を僕たちに見せてきた。
そこには白みがかった銀色のショートヘアに、水色の瞳で眩しいほどの笑顔を浮かべる活発そうな少女が写っていた。
髪や瞳の色が日本人特有じゃないのは、やっぱり妖怪との
「うわぁ、可愛い」
「そうね。あなた……には似てないから母親似かしら。良かったわね」
葛葉が高杉の顔と鈴華さんの画像を見比べながら言う。
いや、確かに全然似ていないけど良かったは言いすぎじゃ……。
「そうだろう! 鈴華はアイツにそっくりなんだ。将来はもっと美人になるぞ!」
うん、全く気にしていないどころか気付いていないっぽい。
高杉の表情から、どれだけ鈴華さんを溺愛しているかがよく分かる。
「普段は学校に通っているんでしたよね?」
「ああ」
「部活は何かされていたりします?」
「いや特に入っていないがそれが何か?」
ふむ。
だったら、下校途中に偶然を装って接触してみるのが一番かもしれない。
鈴華さんの体内には蟲が入り込んでいる危険な状態だ。
できることならすぐにでも退治したい。
だけど、蟲を退治しようと思ったら彼女の身体に触れる必要があるんだ。
そのことを高杉に伝えると、表情が一変した。
「大丈夫なのか?」
「危険が全く無いとは言えません。ですが、鈴華さんを助けるためにはこうするのが一番なんです」
「ううむ、ならせめて私から鈴華に君たちを紹介するというのは――」
「それは絶対にしない方がいいです」
高杉の言葉を即座に否定する。
どこで薬を渡した陰陽師が見ているか分からないんだ。
年齢や外見からして、高杉と僕たちが一緒にいるところを見られたら、絶対に怪しまれてしまうだろう。
そうなると鈴華さんも無事ではいられなくなってしまうかもしれない。
「そうか……」
「それに僕たちだけの方が鈴華さんと年齢も近いですし、怪しまれにくいと思います。任せてくれませんか」
人間の体内に入ってしまった蟲を退治するのはそれほど難しくない。
呪力を流し込んだ呪符を対象――今回だったら鈴華さんの身体に貼るだけ。
貼った直後に呪符を通して呪力が鈴華さんの体内に流れ込む。
蟲は呪力に弱いから、体外へ出ようとするはずだ。
後は簡単。
外に出てきたところをプチっと潰してしまえば退治完了――鈴華さんに危険はなくなるし、高杉も『ZERO』をばら撒かなくていいというわけだ。
少しの間黙って考え込む素振りを見せていた高杉は、やがて僕たちの顔を見ながら頷いた。
「分かった。君たちを信じよう」
「ありがとうございます。ああ、そうだ。ついでに高杉さんの組の事務所も教えてもらえますか」
「それは構わないが、理由を聞かせてもらえるか」
「組長さんが入れ替わっているとしたら、退治する必要がありますからね」
人に害を及ぼす妖怪は見過ごすわけにはいかない。
特に『ZERO』なんていう化物を生み出す薬をばら撒く手助けをするような妖怪だ。
絶対に退治しなきゃ。
「……そうだな。何事にも落とし前は必要だ。それは人間だろうと妖怪だろうと変わらない。それにあの男の居場所を知っている可能性が一番高いのは組長だろうしな」
高杉は神妙な面持ちで溜め息を吐いた。
男はいつも事務所にしか姿を見せないそうだ。
何度か人を使って後を尾けたことがあるそうだけど、必ず途中で撒かれてしまうらしい。
となると、男の居場所を知っていそうなのは組長しかいない。
ただし、まずは鈴華さんを助けてからだ。
先に男の居場所を探ろうとした場合、十中八九、鈴華さんの身に危険が及ぶ可能性が高い。
というより、間違いなく蟲が暴れだすだろう。
「ここが事務所の場所だ。ああ、鈴華の学校も教えておこう」
「助かります。って、この学校は確か……」
高杉から手渡されたメモを見た僕は固まってしまった。
そこに書かれていた学校名に見覚えがあったからだ。
「学校がどうしたの? あら?」
隣からメモを覗き込んできた葛葉は学校名を見たとたん、不敵な笑みを滲ませた。
「へぇ、面白いわね」
「そこはびっくりした、じゃないの」
「これくらいで私が驚くはずないでしょ」
確かに葛葉が驚くことなんて滅多にない。
僕はびっくりしたけど。
だって、メモに書かれた学校名が葛葉が通っているところと同じだったんだから。
葛葉が通っている学校はエスカレーター式だから、校内ですれ違っている可能性もあるし、葛葉は色々と目立つから向こうが知っている可能性だってある。
「同じ学校ならちょうどいいわね。晴明、明日にでも実行するわよ」
こうして僕たちは早速、鈴華さんと接触を試みることにした。
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