第10話 屋上への抜け道

 昼食を終えて、わたしと明里は次の行動に移った。それは屋上に出る方法を探すことだ。どうして屋上に出たいかと言うと、その理由は2つ。


 1つ目はそこから外に下りることが出来るかどうかを確認するため。2つ目は橋の状態がどうなっているかを確認するためだ。


 屋上に出るための階段。普通に考えれば3階から繋がっているはずだ。そう判断したわたしは、3階の壁を叩きながら歩く。


 そして、そのときは意外と早く訪れた。


 コンコン――壁が返す音が変わる。


「あった。ここだ」


 展望室近くの壁。一見してほかの壁と変わらないし、扉の取っ手のようなものも存在しない。よく見ると、壁のデザインの一部が横にスライドするようになっていて、そのスライド部の奥に取っ手を取り付けるギミックが隠されていた。どうやらこの扉は取っ手が脱着できるタイプのもののようだ。


「うーん」


 どうしたものかと首をひねると、明里がその壁をグッと押した。


 そんなことで扉が開くわけ――


「開きました」


「……なんで?」


 あまりのあっけなさに言葉が出なかった。


 規則第一の有馬さんのことだから彼が鍵を掛け忘れたってことはないだろう。だとしたら誰かが開けたってことになる。


 一体誰が開けたのか……気にはなるが、そのことは一旦置くとして、扉の奥をのぞくとそこは屋上へと繋がる階段があった。


「ねぇ、ここで待っててもらっていい?」


 屋上へと続く階段が隠されていた扉は裏も表も鍵を差し込んで施錠するタイプの扉だった。つまり2人一緒に屋上へ上がった場合に外から鍵を掛けられたら城内へ戻る手段がなくなってしまう。なので明里にはここで待ってもらうことにした。


「はい。わかりました」


 明里はわたしの言葉に素直に従ってくれた。


 …………


「うわっ、あっつ……」


 階段を上がった先にある天井扉を開け顔を出すと、ムワッとした熱気が漂っていた。中庭と違って遮蔽物がないためか日光をもろに受け、早くもじんわりと汗ばむ。しかも、地面は城壁を模したコンクリート、下から上がってくる熱もまたひとしお……


「うぅん」


 ざっと見た感じ下に降りられそうな構造にはなってない。


 ロープか何かを使う方法もあるだろうけど、下まではおそらく10メートル以上ある。これを上り下りするのは結構な労力だろう。それができそうな人物は、外見的にはタイガさんくらいか。

 だけど、ここに繋がる扉が開いていたことを考えると誰かが何かの目的で屋上に出たことは間違いない。


 とりあえず1つ目の目的である、屋上からの出入りが可能かどうかの確認は終わった。


 わたしは次の目的を果たすべく、その場所へと向かって歩き出した。


 遠くの景色を眺めながら歩く。屋上から眺める景色はそれなりのもので展望室から見る風景なんて目じゃなかった。今は緑一色だけど、春や秋ならまた違った景色を望めるのではないかと思う。そうすれば、また違った反響を呼ぶだろう。


「いっそここを開放すればいいのにね――って、うわぁあっ!!」


 景色を見ながら歩いていたら、わたしはなにかにつまずいた。


「いたい……あつい……」


 四つん這いの体制で石床に手をつく、日を受けた石の熱さが手に伝わる。


 しかも……


「さいあく……」


 手をついた瞬間、わたしの手の平に何かが刺さる感覚があった。確認してみると、小さなガラス片のようなものが刺さっていてちょっとだけ血が滲んでいた。


 ――なんで、ガラス片?


「――ん?」


 キラリと光る何かが視界に入った。四つん這いのまま視線を巡らせると、ところどころに細かいガラス片が散らばっていた。数はそんなに多くない。


 それから、石の上に乾いた赤いシミのようなものがあった。


 血ではない。もっと薄い液体のようだ。


「なにこれ……」


 それがなんなのかものすごく気になるけど、今は明里を待たせている。


「さっさと、目的を果たして帰らないと」


 わたしは立ち上がってズボンはらって、気を取り直して目的の場所へと向かう。そしてたどり着いた場所は、出入り口があるところのちょうど真上に当たる場所だ。


 ――ここからなら……


 額に手を当て日差しを遮って遠くを眺めた。


 わたしの予想通り、そこから吊橋のある場所を見ることはできた。できたんだけど……


「どういうこと?」


 そこにはわたしの予想していなかった光景があった。


 …………


 屋上から戻って明里と合流して、階下に移動するところでネネちゃんがひとりで廊下を歩いているところに遭遇した。


 彼女のどことなく不安そうな顔が気になって「どうしたの?」と声を掛ける。


「あ、楡金さん。じつは――」


 そして、ネネちゃんの口から衝撃の一言が飛び出す。


「私のメガネケースがなくなってしまって、それを探していたんです」


「え!? 今度はネネちゃん!?」


 マリエちゃんのシュシュに続いて、今度はネネちゃんのメガネケースときた。


「――ん? 待てよ」


「……? どうかしたんですか?」


 ネネちゃんが首を傾げる。


 失くなったと思っていたマリエちゃんのシュシュは事件の現場で見つかった……ということはつまり……


 ――また誰かが殺されるってこと?


「八重様。一緒に探しますか?」


「ん? うん。そうだね」


 昨日マリエちゃんのシュシュを一緒に探したのにネネちゃんの眼鏡ケースを探さないのは意地悪をしているみたいだ。それに眼鏡ケースが見つかれば、わたしの考えは杞憂に終わるわけだから。


 わたしは眼鏡ケース探しを手伝うことにしたのだが、結局それは見つからなかった。

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