第4話 城内見学 1日目 後編
廊下を突き当りまで行くと、廊下は左に直角に曲がっている。その廊下は玄関ホールへと繋がる廊下で、有馬さんの最初の説明によればコンシェルジュの部屋がある通路だ。
その通路を歩くと、外側の廊下には関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉があった。こういう書き方がなされている場合、十中八九事務関係の部屋か倉庫かだ。
そして、中庭側には厨房と書かれた扉があった。確かこの城の入口の正面が食堂だったから食堂のこちら側に厨房があるということだろう。
さらに歩くと、通路の外側にコンシェルジュの2人の部屋があった。番号はそれぞれ『101』、『102』になっていた。つまり、玄関ホール側からだと、外側から順に『101』、『102』、立入禁止の部屋と並んでいることになる。
「1周したね」
わたしは両手を上げて大きく伸びをする。
「そうみたいですね」
次はどうしようかと明里に相談しようとしたタイミングで食堂からひとりの男性が現れた。
受付のとき、わたしたちの前に並んでた男の人だ。
――でも、あれは……
目を引いたのはサングラスとマスクだ。ここに来る前にも着けていたのでそれ自体はいい。ただしここは城内だ。……ってことは今までずっと着用したままってことになる。マスクはわかるとしてもサングラスを外さないのはどうなのか、あの人だってこの城の中を見学するためにここに来ているはずなのだから、サングラス越しに見る城内の魅力は半減以下なんじゃないだろうか。
食堂から出てきた男の人は、わたしたちに気が付かないまま玄関ホールにある階段から2階へと上がって行った。
腕時計を見ると時間は16時半近く、夕食まではまだ少し時間がありそうだ。これからどうしようかと明里に尋ねると、あと回しにしていた中庭へ行くことになった。
来た道を戻って、中庭へ続く扉へと向かった。扉を開けると、もわっとした熱気にさらされる。そこは、中庭というよりもちょっとした庭園のような造りになっていた。城内が快適な温度に保たれているのと違って暑い。
庭園は花とかに詳しくないわたしが見ても手入れが行き届いていて綺麗な場所だということはわかる。そして、一際目を引いたのが、中央に位置する場所にある円形の噴水だ。
そこには先客が1人。わたしの隣の部屋の主、ツーブロックの大男だ。彼は腕を組んで、難しい顔をしながら噴水を眺めていた。
近づきがたい状況ではあったけど、ここで引き返していくところを見られたら避けていると思われる。それはそれで嫌なので、わたしは噴水に近づくことにした。明里も後ろについてくる。
男の人がこちらに気が付くと、「あんたか……」と言うのが聞こえたので、「さっきはどうも」と返す。さっきというのは部屋の前ですれ違ったときのことだ。こういう言い方は失礼だけど、やっぱりこの人がここにいることが非常に違和感でしかない。ディバインキャッスルにいることもそうだが庭園で噴水を眺めるその姿にもギャップを感じる。
「俺がここにいるのがおかしいか?」
あ……どうやら顔に出てたみたいだ。
「うん、まあ、正直いうと……」
「ふん。はっきり言うやつだな。俺はタイガトラジロウだ。建築業をやってる。だからこういった物の造りに興味があってな」
相手が名乗ってくれたので、こちらも名乗り返す。そして明里も自分の名前を言った。
でもこれで納得がいった。
建築業……要は勉強のためにここに来てるってことだろう。見た目が粗野っぽく見えるのに、意外と勉強熱心なようだ。
「以前から興味はあったんだが中々来れなくてな。そしていざ来てみるとかなり興味深い」
そう語るタイガさんは顔をほころばせていた。
「随分と勉強熱心なんですね」
明里が口を開く。
「うん? まぁな」
「八重様、邪魔しては悪いと思うので次に行きませんか?」
明里が言うので、わたしたちはタイガさんに軽く挨拶して中庭を出ることにした。タイガさんから離れるとき「様?」と言う疑問の声が後ろから聞こえてきた。
――
そのあとは、夕食の時間になるまで部屋でゆっくりすることにした。
3階建の構造なら、1日1階ずつ見て回っても十分間に合うと判断したためだ。むしろ1日で見終わってしまったらあとが暇になってしまう。。そして、時刻は17時30分前。わたしたちは食堂へと向かった。
食堂へと続く扉を開けると中央には清潔感漂う真っ白なクロスで覆われた大きなテーブルがあった。11人全員が同時に掛けても問題ないくらいの大きさだ。それから、中庭に出た時は気が付かなかったけど、今入ってきた扉の真反対に中庭に繋がる扉があった。
すでにタツオさんとミライさん、それから城に入る前に見たソバージュの女性が食事をしていた。ソバージュの女性はよほど大切なのかテーブルの上にカメラを置いている。残りの人たちの姿は見えない。
わたしと明里は適当なところに隣り合って座った。するとすぐに森園さんがやって来て「今お料理をお持ちしますね」と声を掛けてくれた。
しばらくして運ばれてきたのは、ビーフシチューをメインとした料理だった。
わたしが普段市販のルーを使ってカレーの要領で適当に作るものとは違い、浅めの皿にドミグラスの池があって、中心から牛肉の塊が顔を出している。さらに弧状に生クリームの軌跡が描かれている。これが、ディバインキャッスルに来て最初に食べる料理となった。
食事を終えて部屋に戻るとベッドに仰向けになる。
「ふぅー、食べた食べた」
お腹が一杯になって幸福感に満たされる。
時間は……
食事をするときに外しておいた腕時計をポケットから取り出すと、時刻は18時を過ぎていた。
今日は朝早くに起きて集合場所まで行って、30分ほど掛けて山を登って、城内を探索。バスで仮眠を取ったとは言え、まだまだ疲労は溜まっている。しかも食事を済ませた後ということもあってか自然と目蓋が落ちてくる。
「んー」
このまま寝るのもありか……
そんなことを思いながら、わたしの意識は途切れたり戻ったりを繰り返しいつの間にか夢の世界へ……
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