第二章 楡金八重編
プロローグ
その日、事務所にひとつの封筒が届いた。差出人は――
「叔父さんか……」
封を開けると、中から出てきたのは三つ折りの便箋と1枚のチケット……
三つ折りの便箋を開き音読する。
――
先日は、息子のことで相談にのってくれてとても助かった。君の考えは今後参考にさせてもらう。
お礼と言っては何だが、ディバインキャッスルのペアチケットを同封した。妻と一緒に行こうと思って予約していたものなんだが、息子にあんなことがあったばかりで、流石に楽しい気分にはなれないだろうと思い、同封させてもらった。
秘書の明里さんと一緒に行ってみてはどうだろうか? それじゃあまたの機会に。
――
「――だってさ」
机に向かって、庶務に励む明里に向かって声を掛けると、手を止めてこちらに顔を向ける。
「よろしいんじゃないでしょうか」
抑揚のない事務的な返事。
彼女はいつもこんな感じで、特定の話題のとき以外は一切感情を表に出さない。
腰まで伸びた艷やかな黒髪のストレートで、前髪はきれいに切りそろえられている。端正な顔立ちに、細く美しい眉。メガネの奥の切れ長の目が彼女が美人であることを物語っていた。そんな彼女だからこそ、心を見せない冷静な言葉も魅力の1つとして映えた。
「ところで、日付はいつでしょうか?」
そう問われ、わたしはチケットに書かれている日付を読み上げた。
明里が手帳を取り出しパラパラとめくる。
「その日はちょうど予定が空いています。――早速準備しましょう!」
そう言って、明里は立ち上がった。相変わらず感情を読ませない言動だが、付き合いの長いわたしにはわかる。
――彼女は今、とても喜んでいる。
理由を尋ねると、以下のような答えが返ってきた。
ディバインキャッスルは、旧時代の西洋建築を参考にして建てられたお城らしい。 ただお城の中を見て回るだけの施設ではなく、宿泊施設を兼ねていて3日間お城の中で過ごす事ができるらしい。
特に若い男女に人気で半年から1年の予約待ちは当たり前で、なかなか行けるものではないとのことだった。また、宿泊費もかなり根が張るようで、行かないのはもったいないとのことだった。
こうして、わたしたちはディバインキャッスルへ足を運ぶことになった――
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