水溜まりに浮かぶ三日月

 雨雲がかかって見えにくいが、夜空には満月が妙に堂々と輝いている。


「霞んで見えるのも綺麗ね。」


 ポツリポツリと人々は言葉を零す中、私は傘を差してを探しに行った。


 煌びやかな都会から望む大海の海面にも、静観とした雰囲気の漂う湖面にも、どこにも月はなかった。


 諦めて帰ろうかと思ったその時、ついに見つけた。


 道路の脇の白線を跨いだ水溜まりの中に、自信なさげな三日月が顔を伏せてそこに居た。


 私はただ一言、こう声を掛けた。


「私は三日月も好きだよ。」






 次の日、空には煌々と三日月が、そして気恥ずかしそうに足を揃えて座っていた。


 今夜も月が綺麗だ。

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