夢よもう一度

勝利だギューちゃん

第1話

「僕、大きくなったらプロ野球選手になる」

「私は、ナースさん」

「俺、パイロット」

「私は、お花屋さん」


幼稚園の頃は、みんな夢にあふれていた。

未来は希望に満ちていた。


先生も、「夢を見るように」と教える。

でも、先生は知っている。


「世の中、そんなに甘くないこと」を・・・


時が経ち、高校生となる。

このくらいになると、小さい頃に描いた夢は、殆ど消えている。

保証のない無謀な道よりも安定して道を選ぶ。


今の世の中、「普通の人生を送りたい」

これが一番。簡単そうで難しい事かもしれない。


明日はどうなるか、わからないのだ・・・


高校からの帰り、一軒の花屋を見つけた。

「そういや、もうじき母の日だ」

小さい頃はよくプレゼントをしていたが、この歳になるとなかなか出来ない。

久しぶりに、カーネーションでもくれてやるか・・


そう思い、店内に入った。


「いらっしゃいませ」

元気な女の子の声がした。

「どのような、花をお探しですか?」

女の子が、元気よく答える。

営業スマイルだな・・・


「カーネーション下さい。母の日のプレゼントに・・・」

「何輪ですか?」

「一輪でいいです」

「かしこまりました」

俺の財政力では、一輪が精一杯だ。


「あれ?もしかして、俊くん?井上俊くんでしょ?」

「そうだけど・・・どうして僕の名を?」

「私よ、光葉幼稚園で一緒だった、加藤麗亜(かとうれいあ)」

時が止まった・・・


「れ・・・麗亜ちゃん?本当に?」

「うん、思い出してくれた」

初恋の子だ・・・忘れるはずもない・・・


「可愛くなったね」

「俊くんは、変わらないね。昔のまんまだよ」

「褒めてるの?」

「うん」

営業スマイルから、スマイルに変わった。


「幼稚園の頃に、『花屋さんになりたい』って言ってたけど、叶ったんだね」

「覚えていてくれたんだ。でも、まだ夢の途中なの」

「途中?」

「私の夢は、フラワーアレンジデントになったの。今はそのためのバイト」

「バイト?」

「高校卒業したら、イギリスに留学するの?そのための勉強」

幼稚園の頃からの、夢をさらに発展して、希望に満ちている。

素敵だなと感動した。


「俊くんはどう?プロ野球選手になりたいって言ってたけど」

「あきらめたよ。俺じゃ、たかがしれてる」

「・・・そうなんだ・・・」

麗亜ちゃんは、がっかりしていた。


「でも」

「でも、何?」

「新しい夢を見つけたよ、今」

「どんな夢、俊くん」

「内緒」

「お互いがんばろうね」

そういって、握手をした。


母へのカーネーションは、おまけしてくれた。


俺は新しい夢を見つけた。

そのために頑張ろう。

今度、麗亜ちゃんと再会した時に、恥ずかしくない男になろう。


早速、今日からスタートだ。

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夢よもう一度 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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