飲み込む
彼女と僕をくっつけよう作戦の中で僕は体育の授業で一緒に組まされたり、掃除当番が一緒になったりした。
それぐらいは今思うとかわいいものだったが、当時の僕には苦痛であった。
そんな心境の中でそれは起こった。
彼女は罰ゲームを何かで受けることになった。命令者はC男。振られた腹いせか、純粋に彼女を応援したかったのか、とある命令を出した。
それは『彼女の好きな人である僕と間接キスをしろ』というものだった。
最初は彼女も断ろうとしていた。だが、周りが熱をおびだしてもう断れないところまで来ていた。
その雰囲気を受け彼女は炭酸水を持ってこっちに向かってきた。
僕の目の前に来て放った一言は
「こ、これ、飲んでみてよ、おいしいから」
緊張して噛んでいた彼女を思い出す。僕は炭酸水が飲めなかったのでその申し出を断った。というのは建前である。本音はこのいざこざにこれ以上巻き込まれたくなかったのである。
「そうね、変なこと言ってゴメン」
そう言って戻っていった。明らかに落ち込んでいた。しかし、僕は怒りを覚えた。利用されたと思っていたのである。
しばらくはこの話題で持ちきりだったがしばらくしたらまた消えた。
それから一週間後ぐらいだっただろうか。僕がまた屋上でサボっていたら彼女が来た。
僕はすぐに彼女の変化に気がついた。彼女の目には希望がなかった。
そして、腕には切り傷があった。
僕はどう反応すればよいか分からなかった。だが、僕は知ったかぶりをした。
「君も大変だな」
「まぁね」
「話、聞こっか?」
「じゃ、聞いてもらおうかしら。」
「あぁ」
「私はあれ以上望んじゃいけなかったんだと思うんだ。友達がいて、話をする相手がいて、学校に行けて、両親がいて」
それはもう、SOSではなかった。彼女はもう、SOSすら出していない。僕は彼女の言葉一つ一つを飲み込む。
「なのに私はそれ以上を望んだ、その結果がこれさ」
そう言って彼女は自嘲した。
僕はこれに答えれなかった。前みたいな言葉も言えないし、今思ってることも言えない。
僕の返答がないことに彼女は少し顔を歪ませた。
そして、その日は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます