炭酸水の泡は一瞬だった

 翌日、僕の机の中には手紙が入ってた。


『私が屋上に居るので来て下さい』


 というものだった。その手紙を読んで僕は屋上に向かった。


 いつもとは違う。彼女が居て、僕が行く。それは何か覚悟であって、儀式だった。


 屋上のドアを開くとそこには炭酸水を持った彼女がベンチで待っていた。


 そこから僕たちは他愛もない話をした。朝礼をサボり、1限、2限、3限もサボり、昼休みになった。


 昼休み終了の5分前、彼女は言った。


「私ね、死のうと思うんだ」


 その言葉に僕はなんて答えればいいのか、相変わらず分からなかった。


 なんとか捻り出した言葉は


「そうか」


 だった。この時、止めればよかったのか、それとも僕の返事が正解だったかどうかは未だにわかっていない。


「あんまり、驚かないね」


「心底驚いてるよ、でも、僕にとやかく言う権利はないだろ?」


「確かに、そうね」


 しばらく沈黙が続いた。その沈黙を破るように彼女は立ち上がった。


「ねぇ、私の炭酸水を飲んでよ」


 そう言って僕の目の前に炭酸水を出す。僕は即座に答える。


「いいよ、全部飲んでもいい?」


「えぇ」


 これは僕からの死ぬ彼女への最後のプレゼントだ。僕は彼女のことが好きだという思いだ。


 それから僕は炭酸水を一気飲みする。苦い、炭酸は強い、でも僕は一気飲みをする。


 飲み終わって、空のペットボトルを彼女に渡す。


「ありがとう」


 と彼女は言った。


「どういたしまして」


 と僕は言った。


 そこからの展開は早かった。


 チャイムが鳴った瞬間、彼女は地面を蹴った。そして、落ちていった。


 瞬間体感秒数は0。即死だった。


 彼女らしい最期だったと思う。


 ここで生きている彼女との話はおしまい。

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