(3-2)悪事蔓延る街、暗躍する花達 その1
京都に着いた私達。バンの運転手であるおじさんに別れと感謝を告げて、私達は町中を歩いていた。
「こっちは結構平和だねぇ。」
「そうだね、何しろ花々家が睨みを気かけてるから。異能力者騒動を次々と解決して行ってるって話で、学院とも接点がある。おそらく例の装備の流入先の一つだと思う。それをどう使ってるかはわからないけど、表沙汰になってない以上、怪しい使い方をしているとみて良さそう。・・・戦ちゃん、こっちであってる?」
「はい、たぶん。あまり、出歩いたこと、ないから、間違っている、かもしれない、けど。」
「おーけー、とりあえず行ってみるしかないか。道案内継続よろしく。」
「頑張り、ます。」
不安げな表情を見せる戦ちゃんに続いて、私たちはぞろぞろと歩いていく。一応観光客感を出しながら出店等に寄りつつ、歩くこと数十分。
「あっ!あの坂の上の屋敷じゃない!?」
「そう、です。あそこが、我が家、なんですが・・・。」
「そうだねわかってるよ。とりあえず私が先に行って確かめてみる。」
「安定の不法侵入だね桜ちゃん。」
「今回は戦ちゃんの友達っていう体で行くよ。流石に武装一家に不法侵入ってなにがあるかわからんし。」
そういうことになったので、皆は近場のカフェで旅の疲れを癒し、私は一人長い坂を登っていく。地味に勾配がきつく、少々疲れてしまったが、ようやく屋敷の門まに到着した。インターホンがあったのでとりあえず押してみる。
「すいませーん。花々戦の友達です。本人が連絡が取れないので代わりに私が来たんですけど、誰か相手しくれる方はいませんかー。」
少々ぶしつけな文言になってしまったが、反応をうかがうには丁度いいだろう。なにせ私達の脱走情報はすでに伝わってしまっているだろうし。それならば謎の少女が現れたってことにした方が相手の出方をうかがえてやりやすい。
そう考えながら、返事待ちをしていると、門の横の勝手口がするりと開き、中から初老の男性が出てきた。脇の刀に手を添えながら。
「ッ!!!!」
一気に戦闘態勢に入る。慌てる精神を抑え、いつでも集中状態に入れるように油断なく構える。
だがそんな心配は杞憂で、初老のおじさんはにっこりとした笑顔を携え、こう言い放った。
「そう心配しなさんな。私はすぐに切りかかるような者じゃないよ。なかなかいい反応だったようだけど、あんまり街中でそういった態度をとると逆に警戒される時代になったからねぇ。ああすまない。戦、だったかね?申し訳ないがその子とこの家はもう縁もゆかりもないことになってるんだ。できれば名乗っている家名も取り下げてほしいくらいだからねぇ。すまんが今日の所は帰ってくれるかな。」
「・・・・・・そういうことですか。わかりました。ではまた改めてお話を伺いに来ます。それでは。」
「・・・・・・出来ることなら、厄介ごとになる前にこの街から出て行くことをお勧めするよ。それじゃあね。」
そう言って門の中へ帰っていくおじさん。あたりには人っ子一人いないが、門の向こう、敷地内、そして周囲の家屋の至る所から視線を感じる。明かな警戒。おそらくもう私の情報も伝わってしまっているかもしれないな。
勤めて冷静な振りをしながら何事もなかったかのように踵を返し来た道を帰ろうとしたところで、私はとある悪巧みを思いついた。
友達を無下に扱った訳だし、ちょっとぐらい驚かせても罰は当たるまい。
さらっと集中状態に入る。徐々に徐々に体感時間を引き延ばしていき、長い時間をかけて全開まで引き上げる。歩いたままこういったことをすると相手からは徐々に徐々に早くなっていき、掻き消えたように感じることだろう。見たことのない挙動に恐れおののくがいい、ふん!
ちょっと悪戯をして満足したところで、皆の元へ戻り、一つだけ空いた席に着く。
そしてここでぱっと集中状態を切ると、突然現れた私に皆が驚く―――
「なにしてやった顔してんの。どうせあんたのことだからこれくらいするだろうねってみんなで話してたところだし。その感じを見るに失敗だったみたいじゃない。あんたぐらいしか穏便に緊急離脱できる人間がいないからってやっぱり交渉を任せない方がよかったんじゃない茜。」
「うんー、確かに桜ちゃんはぶっきらぼうで悪戯っ子で言葉足らずで・・・・・・あれ、確かに交渉に向いてないんじゃ。」
「うえーん。茜ちゃんまで私をいじめるよー。」
「気持ち悪い泣きまねしてんじゃないわよ。それよりも、これからどうするか話し合いましょ。と言ってもまずは情報収集しかないだろうけど。」
「うん、青葉ちゃんの切り替えの早さに私はどうにかなっちゃいそうだよ。そうだね、また二人一組で動きましょうか。私は一人でもなんとかなるからついでに今夜の宿を探しとくね。」
「ほんじゃよろしく。それは私は戦と行動しようかな。」
二人組のメンバーはすぐに決まり、茜眠璃ペア、戦青葉ペアで行動することになった。ささっと食べているアイスを平らげ、店を出てから別方向に歩き出す。集合場所はあとで連絡し合おうということとなった。
ここから私は一人行動になるわけだが、とりあえず宿を巡りながらそれとなく女将などに情報を聞き出すことにしようか。
そういうわけで私は宿屋街へ足を向けたのだった。
◇◆◇◆
結局ビジネスホテルしか空いてなかったのでそこを拠点とするほかないようだ。だがしっかりと情報は得ることが出来た。後は皆と話して情報の精査をし、今後の方針を決定していこう。
一足早く部屋へと案内してもらい、ベットの上で羽を伸ばした。夕日が傾き、ぽかぽかした部屋でうとうとし始めた頃、こんこんと部屋のドアが叩かれる。
「ルームサービスでーす。」
食事を頼んでおいたのだが、早速来たようだ。もっともピザを注文しただけなので、大した栄養にはならないが、腹を満たすにはちょうどいい。そろそろ皆も帰ってくるころだし、冷めはしないだろう。
一応覗き穴で相手がホテルの者か確認した後、扉を開きピザを受け取る。
「お客様、ここらで背が高くて目つきがきつい渋い感じのおじさんを見なかったですか?なんでも少女を探しているらしく、花々家の家紋を下げていたので一応お客様にも報告して置いたほうがいいかと思いまして。ほら、少女っていうと丁度お客様の年ごろも含められるのかなと。」
「うーん、私にそんな知り合いはいませんね、たぶん他の人じゃないですか?第一私達は団体で動いてるわけですし、お探しなのは一人の少女なんですからきっと私達の誰かってこともないと思いますよ。それじゃ失礼します。」
「はは、そうですね。おそらく勘違いでしょう。それではゆっくりとお休みください。」
どこかで見たことがある人物だったが、私に京都の知り合いはいないのだからこれは私の勘違いだろう。ともかく花々家の人間が人を探しているということだけは注意しておこう。なるべく穏便に過ごしたいからね。
再びベットで横たわって皆を待っている間、先ほどの人物が述べた男性の特徴をとらえた言葉が頭の中で反芻される。勝手に詳細な表情まで想像してしまったし、もういっそのこと頭をクリアにする為にひと眠りしてしまおうか。
枕に頭を横たえ、掛布団をかぶって寝る。この時の私は失念していた。
ホテルの場所を、伝えてなかったと。
それから一時間後鳴り響く着信音で目を覚ました私は、怒れる青葉ちゃんを想像し、憂鬱な気持ちになったのだった。
◇◆◇◆
怒れる青葉ちゃんへの謝罪の嵐を終え、待ちぼうけを喰らった面々に深く頭を下げた後、今日収集した情報の公開タイムが始まった。
「みんなに一つ聞きたいんだけど、『闘技場』のこと、聞いた?」
「桜ちゃんも聞いたんだ。私は明かにいかついおじさんに喧嘩売られたからぶっとばして話聞いたんだよね。そしたら闘技場ってところの噂がここ一年ですごい広まってるんだってー。場所までは知らなかったみたいだけど、出回ってる噂の量が尋常じゃなくてどうにもほんとっぽいらしいよ。」
「私達の方も聞いたわ。カフェとかレストランで雅な格好したおばさん達の話を盗み聞きしてたんだけど、結構な頻度で出てきた単語だったわね。それに、その中の何人かはまるで見てきたみたいに興奮した様子で話してたわよ。多分、この感じだときちんと行ってるみたいね。・・・私が住んでた頃は無かった話ね。」
朗らかに茜ちゃんが話し、続いて青葉ちゃんが話を続ける。
青葉ちゃんの方は最後の方で一瞬言葉に詰まってたけど、今触れるのはよそう。
そういうことであれば行かない理由はない。あとは開催される場所だ。
「どうやって調べようか。聞き込みをしてもいいけどたぶん一般人がそうそう開催地を知っているとは思えない。青葉ちゃんたちが遭遇したっていうおばさん達も今から探すとなると相当な時間が掛かっちゃうだろうし。」
「それなら大丈夫よ。そのおばさん達が今夜いく場所の話をしてたわ。19時にフォックスっていうレストランで会食かあるからそろそろ出たほうがいいわね。」
「良い情報だね、ありがとう。それじゃ、早速みんなで行きましょうか。ついでに途中でおめかしして変装も兼ねて着飾ろうか。」
善は急げとばかりに、ちょっと意味は違うが全員でホテルを出て、近場の高そうな服装店に連れたって入っていく。
てばやく衣装を選び、札束を叩きつけ、試着室を借り、全員が店の前に出揃うのに30分かかった。調べたところ結構有名なところらしく、到着までの時間もまだゆとりがあったので、私達は細かい作戦を立てながら、日が沈み紺色に染まっていく空の下を歩いた。
◇◆◇◆
作戦の第一段階。おばさま達の近くに陣取らないといけない為、私が先に侵入し、おばさま達の座る席を誘導する。
「幸い、まだ店も混み始める前だし、予約表も手書き。パパっと私達の席を確保できる。」
会計の横に置いてあった予約表。集中状態に入り、時が限りなく静止に近くなった世界で、私は安定の不法侵入を果たし、すかさずおばさま達の予約の下すべてを暗記。そして全消しした後、私達の予約をねじ込み、先程暗記した名前と人数、そして予約時間を書いていく。これで入店時にまごつかなくて済んだね。
そして予約の席もぱぱっと整え、さも最初からそこに用意してありましたというように私達の席をおばさまたちの席の隣に配置する。
そして急いで退店し、集中状態を解く。道路の角で待機していた仲間たちに合図を出し、綺麗にドレスで着飾った集団がこちらに歩み寄ってきた。
なかなか様になった連中じゃないか。私も自慢じゃないが結構顔もスタイルもいい方だし、結構注目集めちゃうかもしれないな。おばさま達もこれじゃ居ずらいかな?まぁ、いっか結構お高い店だし、おばさま達も着飾ってくるんだから大丈夫だろう、美魔女であることを祈ろう。
そこで颯爽と高級車が駐車場に二台颯爽と到着し、着飾ったおばさま達が降りてきた。数人は美魔女と呼ぶにふさわしい妖艶な雰囲気を持ち、残りの者たちは見るからに取り巻きといった様子。うむ、私達こそ頂点と思い込んでいそうな連中だ。これなら遠慮せずに済む。
おばさま達の後に続き、私達も店の敷居をまたぐ。オシャレな洋風の建物は、光度を抑えた照明に照らされ、落ち着いた雰囲気を持っていた。どこかヨーロッパを想像させる装飾達が華やかな世界をより一層彩っている。店員たちも高そうなスーツを着て、非情に丁寧な接客。食事を食べる場所というより、この空気感に値段がついているといったところか。ひたすら客の気分を高揚させ、それが食事のレベルを一段階上に押し上げているように錯覚させる。金のある人間を対象にしたモデル店舗だね。
とりあえず、予約の御堂ですと店員に伝え、何事もなく席に通された。
おばさま達の声も、店の雰囲気に気分が良くなったのかかなりでかくなっていて、会話を聞くには絶好のポジション。そのまま、運ばれてくるコース料理に舌鼓を打ち、会話に花を咲かせる振りをしながら、BGMのように流れてくるおばさま達の会話を一字一句聞き逃さないようにする。
しばらく他愛ない話が続いた後、急に声を潜めて話の方向をがらりと変え始めるおばさま達。
「・・・ところで、今夜に向けてまとまった金額はお持ちしたかしら?」
「もちろん、支出が多いスポーツ観戦と聞いていましたから、奮発させていただきましたわ。」
「あらあら、それでは私達の間でも少しばかりお遊びをしましょうかしらね。」
「ああ、楽しみだわ。日ごろのストレスから解放されると思うと天にも昇る気持ち。他の所では滅多に見られないですものね、人と―――」
「それ以上は、あまり公で口にしない方がいいと思いましてよ。」
「そ、それもそうですわね。失礼いたしましたわ。」
ふむふむ、どうやら今宵、女王様たちは秘密の花園へと繰り出すようだ。
それなら身を守るナイトが必要でしょう。その役目、私達が引き受けましょう。
幸先がいいスタートとなった京都初日。
だが私達は失念していた。異能関連の事件がすぐ解決する街で、闘技場という悪事が放置されているわけを。
きゃっきゃうふふするおばさま達が車に乗り込んだのを確認し、予め呼んでおいたタクシーに自身たちも乗り込み追跡をしている間、能天気に闘技場がどういったところなのかを想像していないで、きちんと闘技場が存続している理由を考えていればと、後から考えついた時にはすでに全てが遅かった。
◇◆◇◆
「―――しっかりして桜ちゃん!!!」
薄れていく意識の中、狼狽し、今にも泣きだしそうな茜ちゃんの顔を見上げる形で視界に納めていた。
降り注ぐ涙が一粒頬に当たり、それの感触すらも感じなくなった私は、ただ己の失策を恥じる気持ちでいっぱいで。
それでも。
大事な友達の泣く顔は、できれば見たくなかったなぁ。最後にそう思わずにはいられなかった。
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