(2-11)エピローグ2

壮絶な幕引きを迎えた戦場から少し離れて。


そこは都心から離れた、一見してただの工場だった。良く見知った企業のロゴを入れたトラックが乗り付けては積荷を積んで出て行く様子が日常的に見られた。


そこに、一つの影が舞い降りる。


「グオォォォォォ!!!ゲホゲホ、やっぱり慣れないことするもんじゃないわね。」


「まあまあ、結構迫力あったよ、さ、いっちょ行きますか。」


突如としてフェンスを突き破り敷地内に侵入してきた怪物。明らかにこの世界の生物ではなく、その姿をみた者は皆、その人生の中で一度も生で見たことはなかった。だがしかし。だからと言ってその姿に名前がないわけではなかった。むしろ、それを見て直感的に名前を悟ることすらできた。古今東西、複数の呼ばれ方をするそれの名を、工場を警備するスタッフがこの場で最初に口にした。


「・・・警備室へ。報告、します、ど、ドラゴンです。ドラゴンが、出ましたっ!!」


無線機を使い、警備室へ連絡する警備員、御年45歳の彼は今日無事に帰ったら息子に自慢してやろうと思った。お父さんはドラゴンを生で見たぞと。受験を控え最後の追い込みをかけている息子に少しでもひと時の娯楽を与えられたらと常々思っていた。格好のネタが出来た、ここで死ぬわけにはいかないんだ!そういう気持ちで必死で施設外へ向けて走った。


一方、警備室では現在大慌てで各所に指令を出していた。もちろん表向きには健全な工場を装っているのだ、こういった時に施設や生産品を最優先にしたとバレては世間体が悪すぎる。人員の避難を最優先にしつつ、警備室長は彼の本来の上司から預けられた人員を駆使し、設計図やサンプルなどを持ち出そうと必死になった。最悪、システムを暴走させ火事を起こせば工場で何を作っていたかは分からなくなる。そう考えた彼は侵入者を恨ましく思いつつ、自身も撤収の作業を手伝うことにしたのだった。


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「それにしても、なんで抵抗されないのかな。」


「あんた、桜の作戦聞いてたの?あっちでドンパチやって私達の目的のカモフラージュになってもらうって話だったでしょう。それにここに兵士を常備させておくのはコストの無駄よ、まさかこんな普通の工場で怪しいもの作ってるなんて誰も思わないわ。まさか一般企業まで巻き込んでるなんて、話がでかすぎる。」


「ああ、そうだったんだね!てっきりこっちでもドンパチやってねってことだと思ってたよ。」


一人が一人を諭しつつ話を進める。他愛ない光景がそこには広がっていた。

いや、巨大な一匹と人型の怪物としか思えない何か話をしながら、手当たり次第に工場を破壊している姿がそこに広がっていた、という方が正しいだろう。


「それにしても大きいっていいよね、こう、どばって一気に壊せるじゃん。」


「あんたの怪力と大差ないわよこんなの。むしろパンチ一発で重機を吹っ飛ばせるあんたの方がおかしいわよ。」


互いに話を続けながら施設の破壊を進めていく二人。ぐつぐつ煮え立った何かや、繊細な装置が所狭しと並んだ場所など、見境なく破壊していく様は、工場で働いていた者や、この工場を運営していた者からすれば悪魔でしかない。しかし、すでにその光景を見ている人などいなかった。火災がおきている中で動き続けている怪物たちがおかしいのだ。


災いに見舞われた工場は、侵入者が去って行った後に盛大に爆発、昼の空に大きな花火を打ち上げてその姿を完全にこの世から消した。後日、工場跡から出てきた肩パットやらガントレットやらの装備品が本来の工場には置いてありそうもないものだったことも含め、この事件は謎に包まれたまま、東京で起きた事件の影に埋もれて世間に知られることはあまりなかった。


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「狂士郎たちはまだあの小娘を捕まえられんのか。まったく、いつでも大らかなのは結構だがこういう時はもう少し、上に立つ者の力量を披露してほしいところだな。」


「すまないおやっさん。あいつはバカだが必ず仕事はやり遂げる。あと少し待てば・・・。」


連理御殿の奥深く、そこには連理会のドン、赤松晋三郎あかまつしんざぶろうと狂士郎の直属の上司がソファーに向かい合いながら話をしていた。互いの信頼は厚く、連理会の頂点に立つまでのさまざまな修羅場を共にした唯一の存在だった。無駄な殺生を好まず、されど敵対した者には地獄すら生ぬるい攻撃を仕掛ける二人について行くものは多かった。そうした者たちと仁義を通した新しい連理会を作ろうとした矢先に、今回の現金連続強奪事件だ。折角気づいてきた地盤は一瞬にして揺らぎ、このままでは敵対派閥や、治安維持部隊の外部勢力に取って喰われてしまう。だからこそ今回の大事な案件を彼らが信頼する腕っぷしの良い狂士郎に託したのだ。吉報を待つ二人だったが、物事は思いもよらぬ方向に進んでいく。


その予兆は、思いのほか近くから現れた。


「なあおやっさん。外の奴ら、さっきまで騒がしく動いてやがったが、静かすぎやしねーか?」


「ああぁ?おい、ちょっと見てこ・・・」


その時、外から複数の発砲音が響いた。


「おいおい、ここがどこだかわかっての襲撃か?てめーらさっさと片づけ、ち、ま・・・え?」


勢いよく部屋から出て、中庭から一直線に門まで出ようとした狂士郎の上司。しかし、臨戦態勢だった現在、中庭に居るはずの部下がすべていなくなっており、更に門から入ってきた一団を見てすべてを悟った彼は、振り返ることなく、自身の主に叫ぶ。


「おやっさん!護衛が軒並み消えた!裏口から逃げ・・・」


最後まで言い終わることなく、火を噴いた銃器によって物言わぬ肉の塊になり果てた男。

その光景を見届けたおやっさんは、もはや逃げても遅いと悟り、ゆっくりと自室から出る。片手に葉巻を持ち、毛皮のコートを肩に羽織り、引き締まった体を包むスーツには皺ひとつない。華美な装飾などいらない、シンプルにして高級感漂う時計が巻かれたその腕は歴戦の証たる傷が至る所についていた。


「だれじゃい、俺のシマ荒らそうっていう馬鹿たれはよう。」


「連理会会長、赤松晋三郎だな。我々レジスタンスは今日を持ってこの地から悪を一掃する。何か、言い残すことは?」


「悪、か。確かに俺達は堅気に迷惑かけすぎちまったな、確かに悪だ。だが俺は悪だったことを恥じぬ。俺は本当の極道を歩んだ!俺の顔をその記憶に刻んどきな!!!」


その顔は、死に対する恐れなど微塵も無かった。その顔には、人を恐れさせる何かがあった。積み上げてきたものが違う。業が、その体に背負った深い業が、彼をより凶悪に、されど漢らしく見せた。


だがそれも一瞬のこと。一斉に放たれた銃弾を一身に受けた赤松晋三郎。誰もが死んだと思ったがしかし、彼は立っていた。とうにその命を散らしているというのに、最後の最後まで大地を踏みしめていた。その後ろには腹心の部下が横たわる。死んでも部下に無様な姿は見せられない、その心意気だけで、彼は、最後まで堂々と立っていた。


後に世間に広まることだが、会長の派閥は、極道から外れはじめていた連理会を立て直そうと必死に奔走していた。漢らしくない行為を重ねる者たちに対し、真の極道を体現し続けた彼はいつしか東京に巣くうアウトローたちの間で伝説となった。


ちなみに、連理御殿以外の事務所でも同様のことが起こっていた。次の日から、千寄田には連理会の姿はなく、人々は平和が戻ってきたことを知るのだった。


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一方、治安維持部隊の本社ビルは落ち着いたものだった。いつものごとくヤクザ達が暴れ、それを鎮圧すれば大量の警備依頼の更新が来る。むしろ今回の騒動が大きいため見返りも多くなりそうだと浮足立つものもいるくらいだった。


そんな中、最上階丸ごと使った社長室では、惨状が広がっていた。


「こいつらですべてか。」


「は!陰で連理会の一部に武器を流し、マッチポンプを仕掛けていた幹部たちと、それを指示した社長。これですべてです!」


至って普通のスーツ姿の集団が死体を片づけつつ、最終確認を行う。いつもであれば警備が常駐するこのフロアでこれほどまでに堂々と動けていることは異常事態であるのだが、今日だけは違った。街中で意図的に起こされた騒動に警備の人員までそちらに回した結果がこれである。


リーダーである男は、とある少女からこの作戦を聞いた時はまさかここまであっさりと仕事を終えてしまうとは思っておらず、レジスタンスである自分たちがようやっと日の目を浴びた気がして一人歓喜に震えていた。


ただ一つ懸念があるとすれば、今日という日のためにありったけの、それこそコツコツと溜めてきた異能力者対策のあの銃弾を使い切ったことだろう。それも通常弾と混ぜて使ったため見た目以上に数が少なくなるという締まりのない戦法で挑んだことが、最後の詰めが甘くなるという結果を生まないといいが。


そう考えていた時、室内に館内放送のアナウンスが流れ始めた。


『ええ、レジスタンスの皆さま。それも上層部が雁首揃えて頂いて、大変ご苦労様です。』


その声にどこか覚えがあったが、記憶がするすると抜け出していくように思い出すことが出来ない。最近になって何度も何度も、いや、一回?だが全くと言って顔が出てこない?どんどんと抜け落ちていく記憶、ついに聞き覚えがあるということまで忘れたリーダーは、この場を代表して声の主に対応する。


「どこの誰だ、我々の潜入は誰にもバレてはいないと思っていたのだが。」


『はは、そんなことはどうでもいいでしょう。心配しないで下さい。この会社の者には誰にもバレていないですよ?ただ彼女の計画のその後に、あなた達の存在は邪魔かと思いまして。そうそう、あなた達がそれぞれ秘密裏に政治家や大企業の社長やらと取引して頼まれた地域での危険排除を優先的にしていたの、ほんと滑稽だよね。互いに黙っていたのに同じことやってたなんてさ。見返りに私腹を肥やしてたなんて知れたらレジスタンスは崩壊するだろうねぇ。その手に持ってる銃火器も大部分は見返りの品だし、臭い臭い、嘘のにおいがプンプンしてるよ。』


ぶちまけられた事実に、互いが顔を見合わせ表情を青ざめさせる。これだけの事実がばれていたのにもかかわらず、身内が知らないという事態が、なおさら不気味さを醸し出し不安を煽った。この声の主は何がしたいのか、その疑問が全員の脳裏に駆け巡った。


『つうことで、あなたたちが残ってもこの地域は大して期待した方向に動かないと判断した俺の上司は、全員の排除を決定しました。そうすれば自前の浄化システムでこの地域は平和へ、その結果彼女が次の行動に移ってくれてこっちはありがたい。ああ、あなた達には関係ないことだね。その扉は開かないよ、システム的にロックされてるからね。それじゃばいばい。』


最後に告げられた挨拶を聞いていた者はいなかった。全員の排除という言葉が聞こえた時点で扉を殴る蹴るなどして必死に開けようとしていたからだ。方法は分からない。が、己の首に死神の鎌がかけれていることは分かった。わかってしまったからあがくしかない、必死に、切実な表情を浮かべながら扉を叩く。


そして放送が途切れた瞬間、壁面のガラスがすべて割れ、外への出口が現れた。だがそこから出れば地面の染みになることは明か。そんな出口から出たがるものはおらず、一同は一瞬止めた手を動かして扉をこじ開ける作業を再開しようとした。


そもそも、窓ガラスが割れた瞬間に彼らの運命は決まっていた。


ぐちゃぐちゃ。


割れた窓の淵に、緑色の何かが手を掛けた。手というよりは触手だろうか。それの存在を最初に視界にいれたとある男は、正体の知れない何かが、これから何をするか、なんとなく察してしまった。


徐々にその姿を現すその存在。莫大な体積のすべては不定形なスライム状。割れたガラスも置いてあった家具もすべてそのスライムが触れた瞬間に溶け始める。やがて床から天井までをすべて埋め尽くしたスライムは、絶望の表情を浮かべたレジスタンスの面々を飲み込み、断末魔さえその体内に留め、静かに全ての命を溶かしきった。


やがて室内のすべてを溶かし終えたスライムは体積を減らし、一人の少年の姿に変わるとそのまま部屋の外へ出て行った。誰もいないビルを淡々と降りていく。不自然に人の存在が消えたビル内は静寂に包まれていた。少年が一階にたどり着いた時、ロビーに始めて一人の人間が立っていた。


「やあ、お疲れ。君には後始末を任せちゃってごめんね。」


「いやいや、大丈夫だよ。君も僕も一心同体だろう?」


「それもそうか。それじゃ、次の任務に赴いてもらうよ。」


「ああ、あそこね。了解了解。いやー、人使いが荒いよねあの人はさぁ。」


「どこで聞かれてるかもわからないんだからそういうこと言わないの。ほら行くよ。」


容姿は全くと言っていいほど似ていないのに、声と口調だけは不思議なくらい一緒な二人。他愛ない話をしつつビルの外へ出て行き、都会のど真ん中に無人の超高層ビルが出来上がったのだった。


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さて、私は諸々の戦闘を見届けた後、花々さんを連れて学院日本総支部に来ていた。


「いくよ花々さん。」


「・・・」


「ん?どうしたの?」


「・・・私の、ことは、戦と、読んで、ほしい、です。」


顔を羞恥で染め、うつむき気味にそういう花々さん。これからカチコミかけるってのに、何やってんのさ。


「まぁ、わかったよ。戦さん、行くよ。」


「は、はいぃ!」


自分でお願いしたのにさらに顔を赤くさせてぶんぶんと頷く戦さん。いやはや、よくわからん生物だ、可愛いけど。


立橋は依然来た時と違って封鎖されていた。仕方ないので『戦』車を使って突破をしよう。


「行け!私の戦士よ!」


「はい!」


ノリノリでカチコミ開始!戦さんを先頭において全力疾走を開始する。前方、施設が近づくにつれて何やら静止の声が聞こえるがそんなの気にしない。あ、発砲してきた。


「任せてください!」


珍しく強く言い放った戦さんが右手に握られた刀で銃弾を切って切って切りまくる。

戦さんの体の前で何度も何度も火花が散る。私はそのスピードに追い付くので精いっぱいだが、まったく銃弾が後ろに流れてこないことぐらいは分かる。恐ろしい制度で銃弾を防ぐ戦さんがついにバリケードに到着。合わせて私が異能を発動!戦さんを上に放り投げ、自身もバリケードを乗り越える。そして空中で止まったままの戦さんの体を地面に設置し、集中状態を解除。


「なっ!?」


バリケードの内側で銃を構えていた警備員は突如として内側に現れた私達に驚愕の表情を浮かべてた。

右側は戦さんが、左側を私が担当し、制圧していく。素の体術のみで戦っている私の方が遅れて制圧し終わったのだが、その間何故か戦さんは見ているだけ。いや、任せてくれるのはいいけど次は加勢してね!!!


と、冗談を挟んだところで、施設の攻略にかかる。


もちろん、入り口で派手に暴れれば、戦力は入り口付近に集中する。

だからあえて逆手にとって、すべてをスルー。それができるんです、そう私ならね。


「視点が、くるくると、切り替わって、すこし、気持ち悪い、です。」


「我慢我慢!私はまったくそんなことないから大丈夫!」


まったく、これくらいのことは慣れてほしいものだ。私の戦い方に従えないなら、辞めてもらっても、いや、辞められたら困るな。今度から移動させるときは目を瞑ってって言うか。


移動先は研究棟。もちろん、今回は扉をすべて壊して通った。ガラス張りにしたのが運の尽きだったな!!!


「さて、戦よ。あの扉を叩き切るのです!」


「了解しまし、たっ!」


逃げ惑う人々を軽々と飛び越え、扉に向かう戦さん。放物線を描き、その終端で刀を三振り。見事に切り刻まれた分厚い扉は戦さんが着地すると同時にギギギっと音を立てて倒れた。開かれた先には短い通路があり、それを抜けるとそこには異様な光景が広がっていた。


「まさか、死体とは言えこんなにあるとさすがに不気味ね。」


「そう、ですね。」


中央に実験に使う器具などが置いてあり、両側の壁には人ひとりが入るほどの水槽のようなものが所狭しと並んでいた。その容器の中に浮かんでいるのは年齢こそ様々だが一番若くて私ぐらいの年の子の死体。なるほど、異能の研究をするならこれくらいの死体も当然必要だよね。収集方法がどうだったかはともかく見ていて気分のいいものじゃない。まとめて破壊しよう。


「ここは爆破するよ。ガスの元栓もマッチもあるみたいだしね。」


「・・・わかり、ました。」


戦さんの顔は何か痛みを堪えているような複雑な表情で、それを見た私の表情も同じようなものだった。ともかく仕掛けを施し更に奥の部屋へと行く。開かれていた扉を通り抜け、分厚い鉄の扉を閉める。急いで奥へ奥へと向かう最中に、後ろの方から爆発音が鳴り響いた。こんな方法ですまないけど、おやすみなさい。


一番奥の部屋、重要だと言わんばかりに厳重に封鎖されたその一室に、万能キー戦を使い侵入する。

室内には完成品と思われる例の異能発現装備数着と、それの設計図、そして大量の薬品が保管されていた。


「うん、最初から場所は分かっていたけど、移動させられてなくてよかったね。それじゃ、薬品は全部割っていいよ。装備は壊しても仕方ないし設計図も結局データは他にあるだろうし盗んでも仕方ないか。全部割ったらここをでて、手当たり次第に壊していこう。」


「結構、物騒だよね、桜、さん。」


「もう、名前呼ぶくらいで恥ずかしがらないでよ。それと、物騒ってのはもう聞きなれた。」


「ふふふ、ぶっきらぼう、ですね。」


まったく何が言いたいのか。ともかくせっせと薬品を破壊し、部屋を後にする。あとは元から調べておいた脱出路を使い、海にダイブする。後は頼んだぞ戦さん。


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浜辺に一人の人間が打ち上げられていた。びっしょりと濡れた服が、その少女の胸に張り付いている。小さく上下するその胸を見るに死んではいないようだ。などと語ってみたが何を隠そう、打ち上げられたのは私である。


「戦さん、頼むからもう少し、息継ぎの回数を増やしてほしかった。」


「あれくらいの、潜水は、耐えて、下さい。それに、私は、大丈夫、です。」


傍らで服を絞っていた戦さんが仕返しをしてきた。私の体力は底をついており、反応する気も起きない。


というか戦さんの無限の体力には恐れ入る。昼からずっと動き回っているってのに、なんで2キロも泳げるんだ。それも胴体につないだ紐で私を引っ張ていたってのに。


「でも、成功してよかった。きっとあっちも目的は果たしただろうし、しばらくはゆっくりしたいところだよ。」


「ゆっくり、してたら、鴻上さんが、怒りそう。」


「はは、それもそうだね!」


私達の目的は、危険の排除。つまりあの異能装備の増産を防ぐことだった。そのために生産ラインの破壊をもくろみ、どうせなら大きな陽動を仕掛けようと今回の作戦を立てた。


連理会と治安維持部隊の総戦力を集め、誘導し、学院の戦力が多く出張ってきそうな場所に突っ込ませる。結果として多くの戦力があの場所に投入され、私達の潜入が楽になった。これに関しては高い輸送技術を確立していた学院と日本軍に感謝するしかない。なるべく大きな通りを通って最終的に到達する場所を学院側に割り出させようとしたのは正直賭けだった。だがしかしきちんと予測を立て、戦力を皇城に集め、おまけとばかりに例の装備を投入してくれもした。あの短時間に総支部からあそこまで傭兵や兵士を輸送したのはお見事というほかない。予想通りの行動をとってくれたことに感謝しよう。


まんまと嵌められた学院は、きっと私達の捜索に躍起になるだろう。そうそうにこの地から離れなければ。もちろん行き先は決まっている。


「次は、どこへ?」


「うん、今そのこと考えてたところ。」


立ち上がり、体に着いた砂を払って振り返る。

夕日が私の背を照らし、こちら側を見た戦さんが目を細めながら私の言葉を待つ。



  

「次は、京都。この前盗んだ資料で分かったけど、装備が不自然に多く輸送されてた。それの行き先を調べる。そんでもって、戦と鴻上さんの実家訪問だよ。全部ぶっ飛ばして、すっきりしようか。」




紅く染め上げられた空。それと同じ様に照らされたその顔には、覚悟が刻まれていた。

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