(2-7)三つ巴!それぞれの思惑 その3
ああ。
体を流れていく液体は、私の今の気持ちを表現するかのように澄んでいて、果てしない快楽に身を委ねてしまいそうだ。背筋をすっと流れていくその感触に思わず体が震える。足元にたどり着く頃にはその激しい熱さはぬくもりを感じさせる情熱となって私の感情を喚起させた。欲求に従い体中を撫でていく。続々とこみあげてくる感情についに私の口から感嘆の声が漏れる。
「お風呂って、さいっこうぅぅ。」
御堂桜、現在入浴中につき、もうしばらくお待ちください。
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話は弛緩した空気が漂う一室に戻る。
茜ちゃんがに風呂をせがまれたことで、ただでさえばっちり決めたセリフが勘違いだったことで頭が混乱状態だった青年が、もはや土偶かというように口をぱっくりとあけて万歳している。
「あの、レジスタンスって組織の一員なのはわかったんだけど、それでどうして私達を助けよう思ったのかそこら辺の事情は聞いても?」
「あ、ああうん。お風呂、入りたいんだよね。ここじゃなんだし、一旦場所を移そうか。ちょっと、といかかなり臭いところを通るけど、我慢してください。」
「やった!お風呂あるのね!これで汚れから解放される!」
「・・・やった。」
「いくさちゃーん、小声で言っても私は聞こえるのよぉー。」
「ね、眠璃さん、ちょっと、黙ってて。」
やんややんやと騒ぎ出した連中に青年が再び困惑した表情を浮かべた。そりゃね、そうなるよね。ついてきてって言ったのに何にも聞かないで大騒ぎ始められたらそうなるよね。とりあえず鴻上さんの頭を叩いて黙れせる。
「っつぅーー、桜!あんた風呂入らせないからね!!」
「あの、一応俺の風呂なんだけど。」
「あっ!ごめんなさい、ちょっと取り乱しちゃって、私舞い上がっちゃうタイプなの。ところであなた名前は?結構がっしりしてるのね、こんな筋肉ついてるのにスマートに見えるなんて、男だったら嫉妬されちゃいそうね、努力って私も大事だと思う!あなたとは話が合いそうね!」
ようやっと風呂の歓喜から抜け出したのか、久々のいい男をようやっと認知したらしく、背が高くがっちりしているのにそこまで線が太く見えない青年の腕に自身の腕を絡め、続いてその豊満な胸を押し付けてマシンガントークを繰り出す鴻上ぶり子ちゃん。
「え、っと、その、近いというか、当たってるというか。その、あの。」
青年は慣れていないのか、鴻上さんのぶりっ子に対し反応しまくりで顔が真っ赤だ。助け船を出してやるか。
「ほら、その辺にしなさい。それで、ここから外に出るのですか?外はヤクザがいるので正直出たくはないのですが。」
「あ、うん、その、外には出ないよ。ここから下に降りるんだ。」
そう言って青年は丁重にぶり子ちゃんの腕を外し、部屋の隅にある木の板をどけ、さらにその下にある床板を外し、さらにさらにその下の土を払うと、もう一枚の板が。それを傍に置いてあったバールでこじ開けると、その下に人ひとりが通れる縦穴が現れた。
「ここから下に降りるんだ。定期的に構成員が見回ってこの入口は隠すから心配はいらないよ。それに
ここの出入り口自体、外から見たらレンガの壁にしか見えないからそもそも発見自体ないと思ってもらっていい。」
「へえ、ちゃんと考えられているのね、構成員が優秀なのかしら?」
「うん、レジスタンスの幹部たちはすごく優秀な人が多いよ。資金が限られてるのにその中でうまくやりくりしているし、何より統率力がずば抜けてるんだ。今はヤクザと治安維持部隊が覇権を握ってるけど必ず逆転できる日が来るって信じてる。ああごめん、今はさっさと移動したいよね。じゃあ行こうか。」
私が話しかけた事でなんとか平常心を取り戻したらしい青年がペラペラと内部情報を離してしまう。いや、これくらいの情報なら話してしまって問題ないし、案外用心はしているのか?
率先して下へ降りて行った青年に続いて一番近くにいた鴻上さんが降りていく。それに続いて布羊さん、花々さんと下へ降りていき、室内には私と茜ちゃんが残された。
「茜ちゃん、どう思う?」
「うーん、悪意はなさそう。秋原君みたいな思い詰めた様子もないし、今のところ問題はないかな?ただ異能力者かどうかはわからないね。年は近そうだけど、正直同い年かって言われると微妙なラインだし。」
「そうだね、私も大体そんな感じの印象。というか純朴すぎて疑いづらいというかなんというか。ともかくついて行ってみよう、私達なら最悪囲まれても何とかなるし。」
「はいよぉ。じゃ先行くね。」
さっと身を翻してすたっと縦穴へとダイブする茜ちゃん。別に良いんだけど下に誰かいたらどうするっていうかとんでもなく深かったら死ぬよ?あ、茜ちゃんは死なないか。
とりあえず異能を発動。板の上に土をかぶせ、その上に床板を、更にその上に木の板をかぶせて空中に調整して浮かせる。そして縦穴へと潜りその板を自身の上にゆっくりと持ってきてきちんと嵌るように再度微調整する。そうしてすっぽりと縦穴に体を潜り込ませてから異能を解除すればカタンという音とともに板が嵌る音が。うん、たぶん上もしっかりと元通りになっただろう。さっきの言葉を信じないわけじゃないが、念のため入口は隠しておいた方がいいだろう。
カタンカタンと梯子を降りていくと、すぐに下水道へ繋がった。なるほど、下水道を移動に使ってるのか。さすがにヤクザ達もこの移動法があるとは思わないだろうな。
「桜遅い!臭すぎるんだからさっさと行くわよ、ね、
「う、うん、そうだね鴻上さん。」
「えー、青葉でいいよぉ。そのかわり
「初対面で、それは、いや、良いですはい。」
もう押せ押せ状態のブリはほっといて先を促す。私の視線に気づき、やや疲れた表情を見せる小鳥遊君は、一つ咳払いを挟み、道案内の為歩き出す。それにぞろぞろと続いて歩く私達であったが、その光景は後ろ暗いことをしようとしている犯罪者のそれで。なんだかもう緩みっぱなしの気が更に弛緩してしまう。これからひょっとしたら敵地真っただ中かもしれないってのにこの感じはいかん。せめて私だけでも、と思ったけど、左肘を手で隠すスタイルで歩く花々さんを見て油断していないのは私だけじゃないことが解った。よかった一人でもまともな人がいて。
汚水が流れる音と足音以外しない道をひたすら歩くこと数分。行く先が解らないだけにかなりの時間歩いた気がするが実際にはそうでもないのだろう。とある角を曲がるとそこにはコンクリートの壁に不自然に開けられた入口と会談があった。
「ここだよ。この上に上がれば僕らの家だ。今は同居人も出払ってる時間だろうから、心配しなくていい。きちんと僕から事情を話せば喧嘩になることもないし、とりあえずはみんなお風呂に入りなよ。なんだか、その言いづらいけどちょっと汚れてるみたいだしね。」
「そう、そうなの。私達他の街からやってきてお金もないから困ってるのよ。心配してくれてありがとう、優しいね。」
「うんん、困ったときはお互い様だから。それよりもほらこんなところにいたら匂いが移っちゃうよ、行った行った!」
もう鴻上さんのうざさにはだれも触れず、全員が風呂を期待して上へと上がり。
そしてもれなく戦闘を歩いていた戦が階段上から突き飛ばされ。
人の雪崩に全員が巻き込まれて。
最後尾にいた私が下水に投げ出された。
解せない、ぶっ飛ばくぁwせdrftgyふじこlp
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「ただいま上がりました。」
風呂から上がると、居間に見事な土下座を決めている一人の女の子が。うん、一部の界隈には人気だろうこの絵面も、今はどこか居た堪れない。だって私がお風呂に入るときもこの格好だったし、足がプルプル震えているところを見るにずっとこの状態だったみたいだし。
「その、私達にも責任があるといえばありますし、私に関しては事故なのでそんなに気にしないでください。」
「いえ!誠意はきちんとしないと伝わりません!女の子を下水に叩き込むような真似!末代までの恥でございます!」
「口調が江戸時代までタイムスリップしてるから!もういいって!足が死にそうになってるじゃん!もう!」
無理くり体制を変えさせ、立てないようなのでソファーに座らせる。やはりつらかったのか足をさすりながらも申し訳ございませんでしたと謝るあたりそうとう礼儀正しい子なんだろう。そんな子が警戒のあまり花々さんを突き飛ばすあたり、治安の悪さの弊害が出てしまっている。これはよろしくない、こういった気の小さい女の子はできればお姉さまと慕ってほしい。そしてそっと腕の中に抱いて惚ける顔をそっと包んで優しく撫でてあげたい。
「桜ちゃん、後輩系が好きなんだ。ちなみに私はクール系の読書女子が好きだよ。」
「うん、私は半分冗談だから。そして茜ちゃんの性癖は聞いてないから。ていうか心を読むのはやめてください。」
「新たな異能、その名も心眼!なんちゃって!」
「え、皆さんも異能力者なんですか!」
「「「「え?皆さん
「次は眠璃ーー。」
てててとマイペースに風呂へと駆けていく眠璃。それにだれも触れられないほど、少女の、いや同い年だから彼女の方がいいか。ともかく彼女の漏らした言葉に皆が反応する。
「あのな、簡単に自分の正体漏らしたらダメだろう美鈴。」
「その、ついというかなんというか。」
「いや、別にいいんだけど、その、自分の知らない異能力者は警戒しちゃうから。そうね、隠しても仕方ないし、私達全員あなたと同じ異能力者よ。とりあえずよろしく。」
「はい、よろしくです!私心細かったんです!同年代は殆どいないし、同姓だともっと少なくなるし!ぜひ仲良くしましょう!!」
「茜ちゃん、私、親友をもう一人増やすことにするよ。」
「はいはい、ご勝手に。」
この後もごちゃごちゃと騒ぎつつ、全員が入り切るまで美鈴ちゃんとおしゃべりに花を咲かせたのだった。
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全員が入浴を済ませたところでいまさら自己紹介を済ませ、レジスタンスの活動について聞かせてもらった。
レジスタンスは主に戦闘の被害者の救出だったり、悪辣な者たちへの報復をしているそうだ。ヤクザと治安維持部隊の戦闘はそれはそれは壮絶で、死人もしょっちゅう出ているらしい。そんななかで下水道と空き家を利用したゲリラ的活動でヒーロー活動しているなんて苦労者の集まりだ。
他にも時々、上層部から銃の支給があるそうで、それを使って派手に暴れる異能力者を狩ったりしているらしい。私達としては何とも言えないところではあるが、必要悪としてとらえれば不自然な点はない。正直もうこの世はやられる前にやれの精神の方が生き残る確率は高そうだし、この街に至ってはすでにしっちゃかめっちゃかやられ放題だ。報復活動も、レジスタンスの仕事の一つだと言われれば文句は出ないだろう。
しかし、銃の配給とは、なんとなく怪しい。疑いすぎも良くないが、銃の支給があるときは大抵異能力者が暴れすぎているときらしいし、タイミングがいささか良すぎる気もしなくもない。この点は用心しておくに越したことはないだろう。
気になる点と言えば、下水道を利用した秘密の交通網だろう。ざっと全体像を聞いただけだが優に千寄田全域をカバーしているっぽい。随分と手際がいい。が、私達が学園で過ごした時間分、レジスタンスも用意する時間があったのだし、そこまでの用意をしないと流石に二大組織と対立するのは難しいだろう。後は意外にも大半の説明を佐竹美鈴ちゃんがしてくれたことが意外だったな。というかお前が説明するんじゃないんかい小鳥遊や。
大体の説明を受けたところで、青年、
「それでなんだけど、僕らはこの街を守りたいんだ。行く当てがないなら居住スペースも提供するし、どうだろう、一緒にレジス・・・」
「それはお断りするよ。お風呂は感謝するし、少しだけなら手伝ってあげないこともないけど、加入だけはできないかな。この地でやることやったらすぐに違う都市へ行ってしまうのがその理由。恩を仇で返すようで悪いけど、そこは譲れない。」
「そうね、桜は言葉は冷たいけど、私達にはそれぞれやりたいことがあるの。だからこればっかりは受けられないわね。」
「・・・そうか、そんな気はしていたんだ。大丈夫。いやね、今度連理会が大々的に会合を開くらしくて、きっとまた何かとんでもないことが起きるだろうから君たちを味方に付ければ百人力だろうと思っただけなんだ、だから気にしないでいいよ。気を使わせてしまって申し訳ない。」
そうか、それはいいことを聞いた。
私の中で作戦の最後のピースが組みあがる。
こうして激動の一日が終わり、ささやかな夕食を共にした後、小鳥遊君の言葉に甘えて全員が一晩とめてもらうことになった。せっかくの誘いを断ったのに、なんて優しい奴なんだ。ぶり子ちゃんでよければ存分に使ってくれて構わないのに。
そうして皆が寝静まったころ、一人ソファーに座り作戦を練っているところに、トイレにでも行っていたのだろうか、ふらっと小鳥遊君が現れた。
「寝ないのかい?何か考え事をしているようだけど、根の詰めすぎは体に毒だよ。」
「心配してくれてありがと。でも大丈夫。私がこの子たちのリーダーだから、一応だけど。だからこのくらい平気なんだ。」
「そうか、口調はあれだけど、芯は優しい人なんだね。」
「そんなつもりはないけど、やることやらないと気が済まないだけだから。」
「はは、ツンデレってやつかな、もっとも僕にはデレてないわけだけど。ところで知ってるかい?関西の方には異能力者を匿ってる秘密の場所があるんだそうだ。もしそこに寄って千寄田の出身の人がいたら僕たちを頼るように言ってくれ。手紙くらいなら届けてあげられるだろうから。」
「わかった、一応その時が来たら探してみるよ。それじゃ私もそろそろ寝るから、小鳥遊君も寝なさい。」
「ああ、それじゃ、お休み。」
「お休みなさい。」
就寝の挨拶を交わし、ソファーに寝転ぶ。
銃声が響く街、板で塞がれた窓の、ほんの隙間から洩れる月明りが私を照らす。
さて、計画は煮詰まった。あとは準備するだけだ。
復讐の足音が、私の心で鳴り響く。
決戦は二日後。獣は、牙を研ぐ。鋭く、深く傷跡を残すために。
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