(2-3)カチコミ決めるぞオラ! その2
ヤクザの事務所への急襲が成功し、次の行動に移ることにした私達。まずは計画通り札束を集めるだけ集めて金庫に隙間なく丁寧に詰めていく。私達の胸くらいの高さがある金庫がぎゅうぎゅうになりそれでもまだ入りきらない札束たちを見て、ただのヤクザにしてはどうもお金を持ちすぎていると感じる。考えても仕方ない、まずはこの金達を移動させなければ。
「それじゃ布羊さん、お願い。」
「あいよぉ、任せてぇ~。」
もはや眠気により言葉が伸びに伸びている布羊さんが金庫に手を着き眉間にしわを寄せて唸る。
「とりゃ~~~、浮け~~~。」
表情とは逆に気の抜ける掛け声とともに金が詰まってかなり重くなっている金庫がすっと浮いた。
「いや、ほんと場合によってはその能力は厄介極まりないね。」
「それでも戦闘向きじゃないからね、ふわぁ、ちゃんとわたしを守ってよぉ。」
「了解、それじゃ先に私達は行こうか。」
幾分か回復した異能を使い、浮いた状態の金庫を押して時が減速した街へと繰り出す。もちろん、布羊さんは背負って。このからくりは実に簡単。私が時間の流れを減速させても異能は消えない。そして布羊さんの物体にお願いを聞いてもらう能力で金庫に地面と一定の反発をし続けてもらう。それにより高速で不自由なく移動を行うことが出来るのだ。ちなみに布羊さんを背負っているのは金庫の重量があまりに重く、反発してもらうお願いによる異能の負担も大きくなり、近くに居ないと解除されてしまうからである。ほんと、布羊さんは小柄で軽くて良かった。私はか弱い女の子だからこんな肉体労働できないよ、え?なに??屈強な男女だって?聞かなかったことにしてやるよ、後で校舎裏な?
私達が事前に見つけていた空き家に金庫を運び込み、異能を解除して床下に金を放り込む。床下収納ってホント便利だね。カーペット一枚で簡単に隠せるし。ちなみに私達が金を移動している間、ヤクザの事務所では花々さんが峰内により両足を複雑骨折した男を茜ちゃんが治療し、鴻上さんが滅多打ちにして全身内出血の様相を呈している男を茜ちゃんが治療し、常人の膂力とは思えない力で茜ちゃんがぶん殴った男を、やっぱり茜ちゃんが治療した。
程なくして残りの金をヤクザが良く使っている大きめの黒い袋に詰めて運んできた茜ちゃんたちが帰宅し、ようやく長い夜が幕を閉じた。とりあえず、明日の朝もう一度ミーティングするとして、今はゆっくり寝ようじゃないか。
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「うんん、やっぱりお風呂に入りたい。肌はべとべとで汚れてるし、華の女子高生がかすんじゃってるよ。」
「水道が止まってるんだもの、仕方ないでしょ。それにあんたは最悪肌を剥がして回復すれば・・・」
「惨い!それは友達に対して言っていいことじゃないよ!私だって痛いんだからね!?」
「はいはい、でもほんとお風呂に入りたいわね。というかシャワーでも。こんだけ金があるんだからどっかのジムで適当にシャワーでも浴びればいいんじゃないかしら。」
茜ちゃんと鴻上さんが起きて早々風呂に入りたいとごねだした。二人がというより茜ちゃんがごねてそれをなだめつつ鴻上さんも不満を漏らしたって感じだけど。私も当然風呂に入って体を綺麗にしたい。が、今のままでは表すら歩けない。
「それは、ダメ。着てる制服、ヤクザ達にばれてると、思う。これじゃ、ジムなんて、いけない。」
「戦、じゃあどうすんのよ。あんたくっさいわよ。」
「臭いのは、鴻上さんも同じ。」
「あんた、生意気な口きく時だけすんなり喋れるのはなんでなの?」
「はいはい、とにかく今度は食料と水だね。それは私が何とかするからちょっと待ってて。」
空腹と疲労と不衛生からくる嫌悪感のなかでよく大きな声をだせるなと、鴻上さんに半分関心半分呆れつつも、口喧嘩を止め発言する。
ようするにお金はあることだし、金さえ払えば問題ない。つまり、私の能力さえあれば今の問題はほぼ解決できる。有言実行、即座に空き家から出て異能を発動、夜よりも格段に人通りが多くなった街中へ向かう。本当に能力の酷使による疲労はどうにかした方がいい、さすがに丸二日異能をまともに発動できないのは困る。今後の課題が一つ増え憂鬱だ。
気分を帰るため適当な店へ入る。まずは手始めに人数分の服を買おう。サイズはある程度事前に聞いてきた。動きやすさを重視しポンポン籠に入れておく。必要な分だけ集めたらすべてのタグを外し電卓で消費税を計算、商品価格と消費税を合わせたお金を出しておつりをレジから抜き取る。そして一筆。
『服は勝手ながら買わせていただきます。代金はしっかりこちらに置いておきますのでご安心ください。おつりも計算してもらっているので大丈夫です。謎の少女より』
よし、これで完璧だ。続いてスーパーに入り同じように買い物していく。ほんとお金が無限にあるって便利だ。ヤクザの事務所が見つかり次第襲っていこう、治安維持にも繋がるしね。
来た道を辿って空き家もといアジトへ戻る。一気にみんなが私に群がり、水の入ったペットボトルと食料を奪い取っていく。そんなに腹減ってたんだね、ごめん、待ちきれなくてイートインコーナーで先に食事してきちゃったよ。
「ぷはぁ、ようやく生き返った気分だわ。」
「鴻上さんはうるさいからもうしばらく死んでてもよかったのに。」
「桜、あんたそろそろあのお仕置き実行するわよ?」
「ぶり子ちゃんがぶりっ子してないとなんだか気が抜けるよ。」
「・・・やっぱり東京湾に沈めたほうがいいかしら?」
「鴻上さん、はいこれホットドック。あとで食べようと思ってたんだけどあげるよ。」
「まじ?いいのありがとうってかこれあんた無駄遣いじゃない!」
やっぱりうるさい鴻上さんを無視し、皆の食事がすむまで待機する。因みに布羊さんは腹が満たされたのか早速寝た、太るよ。
それからは互いに他愛ない話をした後、今後の動きについて皆で話し合った。
そこで決まったのがやはりというか、情報収集だった。そりゃそうだ、なにをするにも現状の把握ができていない以上しょうがない。
ということで太陽が真上を通り過ぎて少し、夕方まであと2,3時間といったところで情報収集に向かう。昼間で人通りが多いとはいえ、おそらく異能絡みのあれやこれやが起こる前はもっと活気があり人通りも比じゃなかったのだろう。道を歩く人々も速足で目的地まで一直線といった感じだし、公園だというのに遊んでいる子供はいない。ヤクザ達があれだけ大々的に暴れていたのだ、おそらく相当でかい組織となっているに違いない。そしておそらく、いや絶対に、異能力者が原因に違いない。
なんだか歩いているだけで事故にでも合いそうな雰囲気のなかもくもくと歩く。表通りを歩いてもさほど収穫がなさそうだったので、切り替えて住宅街へと足を向ける。やはり何件かは空き家となってから日数が立っているようだ。もしかしたら水道が生きているかもと思い、申し訳なく思いながらも不法侵入するが、全滅。シャワーを浴びるのはもう少し先となりそうだ。
またしばらく歩いていると、今度は集合住宅が立ち並ぶ地域へと出た。そこは予想に反して、かなり活気があって私達は驚いた。
「みんな、どことなくみすぼらしいし、ちょっと臭いけど、なんだか表通りより雰囲気はいいね。」
「スラム、って感じだね。普通もうちょっと薄暗かったりするもんだけど、集合住宅の駐車場を使ってるだけあって開放的だよね。」
ここでならすんなりと買い物できるかもしれないな。それにしてもなんでこんなに人が集まってるんだろう。その答えはすぐにわかった。
「なるほどね。」
「どうしたの桜ちゃん。」
「いや、炊き出しだよ。だからこんなに人が集まってるんだ。それにきっとここにいる人たちは職を失った人たちだよ。異能力者の出現やヤクザの台頭。きっと治安は最悪で、経済もかなり落ち込んでるはず。そしたら失業者ももちろん沢山でるだろうし、こうなるってのも納得って話じゃない?」
「ああー確かに。そういわれれば納得だけど、そんなに私達って混乱を生み出す存在なのかな?」
「それが人間の本性ってことじゃない?力があれば誰かから簡単に奪える。力が無ければ誰かから簡単に奪われる。逆に職を奪われてだけでよかったって思ってる人もいるんじゃないかな、命を取られなかかっただけましってさ。きっともう世の中はそうなっちゃったんだよ。」
「命が一番大事なのは、変わって、ないよ?」
「確かに。それに比べたら私達はかなり異質なのかもね。生きるより目的が大事。というより目的を果たすため生きているだけ。まあ花々さんや布羊さんは私が誘ったからっていうそれだけでついてきてるんだけどね。それはそれである意味異質だよ。」
「しみったれてんじゃないわよ。さっさと歩きなさい。なにか掘り出しものがあるかもしれない。通信手段を確保できれば文句なしだね。」
元気よく歩き出した鴻上さんにつられて皆が歩き出す。こういう時に先頭を歩いていける彼女の力は、異能なんかよりよほどすごいと思う。調子に乗るから絶対に本人には言わないけど。
各自出店のようなものに目を通していると、茜ちゃんがこれ見て、と大きな声で私達を呼んだ。あの、一応私達お忍びで行動しなきゃいけないんですけど?軽く頭にげんこつをくらわしてから茜ちゃんの見つけたものに目を向ける。
「あんた、やるじゃない!」
鴻上さんが今日一番の喜びの声を上げた。そこにあったのは使い捨て携帯。充電などはできないけどバッテリーが持つ限り通話などが可能で、インターネットの検索などもできるようだ。それが大量に箱に積まれている。ちょっと怪しいので販売を行っているおばちゃんに声を掛けてみることにした。
「あの、どうしてこれだけたくさんの携帯が?」
「そりゃおまえ、決まってんじゃないか。私達の仲間が帳簿をごまかして横流ししてもらってるのさ。ここの出店は至る所で違法なことして集めたものばっかり。ここで商売しようってやつらはろくなもんじゃないってことだよ。」
「なるほど、闇市ってわけですね。それじゃ、一人5台ずつ買っていきます。お金はあるので。」
「ほう、やけに身なりのいい連中だと思ったが、事情がありそうだね。その容姿から察するにあの世代かい?悪いことは言わない、さっさとここから出て行った方がいい。あんたらのことを恨んでる連中なんてそれこそ腐るほどいるからね。ほら一台分おまけしておくから。行った行った。」
「あ、ありがとうございます。その、良いんですか?」
「良いのよ。私は問題が起こる前にここから去ってほしいだけだから。それじゃあね。」
「はい、本当にありがとうございます。」
やけに物言いが厳しい割に優し気な表情をした人だったな。よし、これで互いに連絡が取れるようになった。別行動してもこれで連携が取れる、やれることが増えたおかげで私の中で作戦が組みあがってくる。
視線が確かに厳しいこともあって、私達はそそくさと闇市から出て行くことにした。そして私は頭に描いた作戦を実行に移すため、皆に指示を出す。
「通信手段を手に入れたことだし、別行動で探索範囲を広めよう。地図も買ったことだし、茜ちゃん花々さんがペア、鴻上さんと布羊さんがペアで別れて行動。茜ちゃんの方がこの皇城周辺を、鴻上さんたちが比較的安全そうな港の方をそれぞれ担当。私は私でやることがあるからそれぞれ20時くらいには空き家に戻ってくるように。それじゃ、行きましょうか。」
「唐突に決まったわね。戦力の偏りが激しいけど、確かに皇城周辺じゃ仕方ないわね。さっき聞いたけど皇城はやくざと武装組織と政府軍の三つ巴状態らしいわ。二人とも気を付けてね。」
「青葉ちゃんたちも、桜ちゃんが大丈夫だって言うからって気を付けてね。今の世の中何があるかわからないから。」
「よし、それじゃ、またあとで。」
互いに声を掛け合い、それぞれが目的の場所へ出発する。
そして私は、もともとの目当てであった学院日本総支部へと、足を向けた。
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