第7話(1-6)クーデターはほどほどに、ね その2

決起集会とも呼べる会議から一夜明けた今日。


いつも通りに朝のタイマーが鳴り学校への登校時間がやってくる。


ここでの生活はきちっと管理されている。

起床時間にタイマーが鳴り、朝食は自動的に機械が出したものを食べて、登校時間のタイマーが鳴るまで自由時間。


登校したら学校から出ることは許されず、放課後から帰宅時間までの二時間は自由時間として与えられる。


帰宅時間の鐘までに寮についていなくてはならず、それを過ぎると減点。というかすべての設定されている時間に間に合わなければ減点。人間らしい生活を、人間でない何かにさせるような徹底した管理によって、ここでの生活は成り立っている。


そして帰宅してからは寮から出ることは出来ず、各自の部屋で過ごすか、夜の19時まで誰かの部屋に行くかの二択。これでは娯楽もなにもあったものではない。


そして、『高校生』に分類される私達は、校舎とグラウンド、寮、そしてそれら周辺にある壁やフェンスまでの空白地帯が私達に与えられた生活スペース、あまりに狭く、二年もここで暮らせば、することがなくなるのもわかる。


また、『中学校』『小学校』にはいくことは出来ない、むろん眺めるだけなら校舎の上から出来るのだが、二重のフェンスとその間の道路で区切られているので交流は一切ないのだ。


こういった環境でから脱したいと思うのは、やはり人の性なのだろう。罪を犯したわけではないというのが余計にその心に拍車をかけている。


「真面目に起きてると思ったら上の空なんだな、おい桜、聞こえてるかー?」


海道先生の声を聞いていると眠くなってしまう。睡魔に襲われてはベストなコンディションとは言えず、仕方なく私は腕を机の上で組んでそこに頭をうずめた。


「先生と視線を合わせながらすぐに寝ようとするのは大したものだが、起きろ授業中だ。」


「先生が悪いんです。眠くなったのは先生の声のせいです。」


「ああ、悪かったな、だからさっさとお、き、ろ!」


先生と会話している最中も寝る体勢を解かなかったことに対して、先生は私の頭に教科書をバサッと叩きつけた。そう、角ではなく面で、だ。


「せ、先生。角で叩くと痛いということを学習したんですね。」


『ガン!!』


「くわぁぁぁあぁ。痛すぎ、ちょ、本気だった!絶対本気だったよ!」


「先生はまだ二割しか力を出していません。」


痛すぎて目が冴えた私は、ここ最近で一番授業を聞いていた気がする。


そんなこんなで最後の授業が終わり、放課後の時間になる。


「よし、今日はこれで終わりだ。みんなしっかりと寮に帰るように。くれぐれも時間に遅れないようにするんだぞ。いいな?」


「「「はーい」」」


元気よく挨拶し、学校を後にする。

だが、いつも固まって帰っている数個の集団が、今日はその姿を見せない。

私も茜ちゃんに先に帰ると告げて、目的の場所までいつもの速度で歩いて向かう。変に走ったりすると怪しまれちゃうからね。


場所は、校舎裏。例のごとく、この時間帯は監視の目が途切れる。先生方は皆放課後を迎えたらすぐに校舎を出なければならず、職員専用出入り口から出て行くため、校舎裏には姿を現さない。

なぜか海道先生だけは校舎に残って絵を描いたり彫刻をしたりしているが、その事情だけは私にはわからない。


ともかく、目的の場所についた私は、先に集まっていた集団に合流し、そのまま自分の班へと入っていく。


「よし、全員集まった様だな、そろそろ時間だ。これから外の騒動を合図に先生方の通用口に侵入し、そのまま壁の内部に突入。俺達がここへ入った時に使った正面の門とは逆の、資材搬入路から脱出を試みる。と言ってもそのまま地上とはいかない!壁内部は重層構造となっている!一旦上を目指し、資材搬入路から外にでて、俺達を迎えにきているヘリに乗り込む!全員いいな!作戦開始までのこり30秒だ!いくぞ!!!」


各自がそれぞれ準備を始める。

天峰さんは背中から翼を生やし、更に靴を脱いで紐同士を結んで首にかける。そして足を鳥の鉤爪に変化させた。美しく広げられた翼は真っ白で、大きく空中にその翼を広げていく。


秋原君はその姿を変え角を生やし肌を朱色に染める。鬼化と呼んでいるその異能は人間大でありながら爆発的な力を発揮する。おそらく職員通用口を突き破るのは秋原君の役目だろう。


心太は下半身を地面に沈め、いつでも交戦できるように待機している。


その他の者たちも、ある者は全身に炎を纏い、ある者は透明になり、ある者は眼帯をはずし紅い目を晒し、各々の異能を発動させていく。


総勢47名が異能を一斉に発動させている様は壮観であり、更に隊列を組んでいるため機能美も備えている。





そして、作戦決行の時が、来た。





『ズドドドドドドドドドドドド』


『ズドン!!!』




響く銃声、次いでド派手な爆撃音。けたたましいサイレンとともに、戦いの火ぶたが切って落とされた。


「行くぞ!!!!進め!!!!!」


目指すは校舎正面、二階にある職員室から壁に向かって伸びる職員専用通用口。


わざわざ校舎の外から向かうのは訳がある。

それは職員室だけが特殊な鋼材で覆われており、扉も厳重なため突破が困難だからだ。


だから、あえて外から通用口を破壊する。そして心太が階段を生成し一気に流れ込むというのが作戦の第一段階だ。


「しん太、階段生成を始めてくれ。爆撃班、合図に合わせてくれ、一気に行くぞ!」


校舎裏から正面まで駆けて、走りながら指示を出す秋原君。

その指示を受けて心太は全身を地面に沈めて先に進んでいく、・・・姿が見えないから多分先に行っていると思う。


そして戦闘部隊に配属された者たちの中から数名が先行し、各々自身の異能を全開にして待機状態へと入る。


「よし、やれ!」


校舎を回り、通用口が見えた瞬間に合図が出される。


『バゴン!!ガラガラガラ!』


やはり通用口と校舎を繋ぐ通路はさほど頑丈に作られてはおらず衝撃によって崩壊を始める。

そしてそこにあらかじめ待機していた心太が階段を掛ける。即席の為つくりは荒いが全員が登っても壊れないだけの頑丈さはあるだろう、あってもらわなければ困る。


「ごめん、先行くね。」


そして私はいきなりの単独行動を秋原君に宣言し、答えを聞かずに集中状態へと入る。


階段を駆け上がり、通路に躍り出る。通用口を見れば、少数ではあるが銃を持った兵士が隊列を組んで現れたものの息の根を止めようと待ち構えていた。


銃口を向けられるというのは、放たれることがないとわかっていても寒気がするものである。ちらっと階段を見れば、素っ頓狂な顔をして横をむこうとしている秋原君、階段を作り終わり地面からまた上半身を出し始めた心太、そして秋原君の上に陣取り空を飛んでいる天峰さんが視界に入る。あとの人達は不安そうな顔を浮かべている人半分、興奮し笑顔を浮かべるもの半分といった感じか。


ともかく、このままでは銃弾の壁にぶち当たり全員仲良く即死だ。


だから私は先に来たわけで、目的を果たすため次々と兵士たちの銃を奪っていく。

あらかた回収したら、今度は兵士たちを端に寄せて、携帯していた手錠で手すりに拘束する。


よし、こんなもんでいいかな。念のため鍵は一人の兵士のポケットに纏めて入れておこう。


集中状態を解除し、念のため通用口の扉を兵士たちのIDで開けて敵がいないことを確認する。中は赤い照明で照らされ、警戒音が鳴り響いていた。


よしよし、とりあえず侵入ミッションは成功したようだね、安心安心。


確認し終えるのと同時、階段を登り切った先頭の秋原君を皮切りにどんどんと生徒達が次々と姿を表す。


「桜、頼むからあらかじめ敵を排除するって言ってくれ。先行くねじゃわからん。」


「まぁいいじゃねーか。桜が居なかったらいまごろお前はハチの巣だぞ。」


「ああ、弾倉に詰まってる弾丸。これは3メートルのコンクリートの壁も貫通する特殊装弾だ。異能狩りには必須の弾を用意しているってことはやっぱり反乱も視野に入れていたんだろう。対応が早すぎる。見ろ、寮の方に特殊部隊が向かってる。ここにいたんじゃすぐにまた新しい兵士がくるぞ、各班に分かれてそれぞれに割り振られた階層から目標まで急げ。先に着いた者から防衛線に回ってくれ。よし、それじゃ進行だ!」


最終の指示を出し、それぞれの班が戦闘要員を前に配置してそれぞれの階へ向かう。

わざわざ別れたのは全員が一度につかまることを防ぐためと、そもそも狭い領域で47人が動くことに無理があるということ理由。そのため8人チームを6個作り、あまりの7人で1チームという編成だ。


なぜ6チームを作ったかと言えば、この壁がそもそも6階層あるからであり、一つの階が4メートルあることを考えれば、壁がいかに高いかが想像つくだろう。


そんなことを考えている理由は、もっとも警備が多いであろう外界への脱出路が確保されている最上階と地上階、その二つに最も戦力が集められていることを予想し、私達にとって重要な最上階、今回の最終地点の確保を優先し最大戦力、つまり私があてがわれてしまったことが原因だ。


だって27メートルは少なくともあるわけじゃん。それを階段で移動だぜ。しかも小走り。

なんで一番疲れるところに配属されちゃうかな。しんどい。


通用口の目の前が階段だということは周知の事実だったので、そこから真っ先に私たちの隊が階段を昇って行ったまで良かったが、6階に着くころにはメンバー全員が荒い呼吸をし、疲労をその顔に浮かべていた。


極限の緊張の中で足は自然と早まる。そしてそのしわ寄せはもちろん体力にくるし、私たちは異能を持っているからと言って漫画に出てくるような全力疾走を長時間続けられる体じゃない。


「それじゃ、皆ゆっくり息を整えて。もう制圧してるから敵が来る心配はないから。」


私は、一足先に集中状態に入ってから階段を歩いて登り、最上階に待ち受ける兵士達を制圧した。

中には何故か異能力者までいたようだけど、私にかかればスタンガン(兵士から拝借したもの)で一発だ。


きちんと全員拘束してから階段まで戻り仲間の到着を待っていたのだが、さすがにこれは予想外だったのか皆唖然とした表情でこちらを向いている。あんまり見ないでほしいな、照れちゃうよ。


「よし、あんまりぼさっとしてても仕方ないから、そろそろ行こうか。」


息を整えた頃を見計らって皆に声を掛ける。そして再び私達は走り出した。


____________________________________________________________


やはりこの収容所はかなりの広さがあり、そして半円とはいえ、広大な土地をぐるっと囲う壁の中を走っているのだ、それはつまり、この収容所でもっとも長い道ということでそれなりの体力が削れてしまった。


私は途中途中で先に待ち構える兵士達を一々制圧しなければならず、自然と息が上がってしまっていた。


これは正直まずい。私の異能だってしょせん異能。一日の稼働限界のようなものだってあるし、この使用量ではおそらく今夜襲ってくるデメリットも相当なものとなるだろう。


それは覚悟の上での作戦参加。割り切ってどんどんと異能を使ったはいいが、稼働限界を迎えるとこの隊のメンバーを見捨てることになってしまいかねない。


「ごめん、そろそろみんなにも制圧を手伝ってもらうことになる、幸いゴールは近いから、最後の地点で待ち構えていると思う。そこまで一気に行って、皆に手伝ってもらう形になるから把握だけお願い。」


「わかったよ。御堂さんにも限界があるってわかってこっちも安心した。」


「なにそれ、私が化け物だと言いたいの?ほんと男子って最低ね!そう思うでしょ?緑子さん!」


「え、と、突然話を振られても!」


「まさかの女子からの裏切り!」


「「「はははは」」」


私の言葉で緊張が高まったメンバーも、今の会話ですこしはリラックスしたみたいだ。


視線を交わして無言で歩みを再開する。


程なくして目標が見えてきた。


「私が指示を出すから!みんなはなるべく一撃で気絶させることを意識して!緑子さん盾!」


「わかったわ!せい!!」


鮎川緑子さんの異能は血の生成と凝固、つまり血操術。あまり多用すると重度の貧血を起こすが盾を作り出す程度なら造作もない。そして固められた血は鍛錬によって強度が上がっていて、弾丸位なら数発防げる。


がしかし、敵の用意する玉はコンクリートの壁を容易く貫く代物。一枚の盾だけで守れるとはさすがに思っていない。


「牧野くんお願い!」


「任せて!」


緑子さんのお願いに、男の子にしてはやや高い声で反応したのは牧野陽介君。

彼の異能は複製。自身の体積分までしか複製できないが、血の盾くらいなら容易に複製できてしまう。

欠点は補強や体積を増やすことができないところ。まったく同じものを複製することしかできない。


だが現状でもっとも役に立つ能力であることに変わりはなく、即座に形成された二枚目の盾を緑子さんの盾の裏側に密着させるようにして配置。それを緑子さんが血で固めて分厚い一枚の盾とする。


そして盾が完成したところで最初の銃弾の雨が降り注ぎ、私達は停滞を強いられる。


弾かれないように私を含めた三人がかりで盾を抑え、後方ではリロードのタイミングを見計らう残りのメンバーが隠れている。


そして当たりに響く銃声が収まったところで、後方のメンバーが一気に飛び出す。


目にもとまらぬ速さで駆ける小柄な男の子、立川純君は純粋な身体強化系、それも脚力に特化した俊足、剛脚の持ち主だ。瞬く間に敵の戦線を突き破り自慢の健脚で兵士数名を吹き飛ばす。


続いて敵の戦線に食い込んだのは高身長、おっとりした顔の美少女、高崎杏さん。

頭を振るうと、長い髪が蛇のように敵に絡みつきその意識を刈り取っていく。おっとりした顔に似合わず恐怖感のある映像に私はちょっとだけ引いた。


最後に血の盾を解いた緑子さんが血の弾丸を飛ばして二人を援護し負傷者なく戦闘が終了した。

制圧が完了した後は戦闘に参加しなかったメンバーが気絶した兵士を縛り上げていく。


初めての実戦と、薬莢のお陰でみんな精神的疲労が溜まっている。もちろん異能を使ったメンバーは個人差こそあるものの、その疲労がひと際大きかった。


「よし、通路をふさいじゃおう。轟君お願いね。」


「ああ分かった。」


短く答えた男の子、強面で大柄な轟重五郎君が左右の通路を金属を操って塞いでいく。ゆっくりとした速度で曲がったり伸びたりする金属達は戦闘につかえないものの、こういった作業では大活躍だよね。


「よし、後はその階段から登ってくる味方の援護だね。一旦気を抜かない程度で休もう。」


それぞれが頷き、上がった息を整える。

大分多くの敵と戦ったが、総戦力を考えれば少ない方だろう。それだけ外の騒動が大きなものであることがわかり、秋原君の所属する組織が巨大であることが簡単に予想される。


そんなことを考えながらしばらく待っていると、銃声とともに秋原君達が上がってくる。


「桜!みんなやられちまった!」


血だらけの心太がそう叫ぶ。確かに15人しかいないこの集団に最下層から上がってきた秋原君が混じっているということは、心太の言葉を裏付けるには確かな証拠だろう。


「みんな階段にたどり着いたみたいなんだが、全員息絶えた!俺が迎えに行かなかったら源達まで死ぬところだったんだ!」


なるほど、咄嗟の判断で階下の秋原君達を助けに降りたのか。

挟撃できるからその判断には一理あるけど、作戦に従わないのはどうしたものかとは思う。まぁ、私が言えたことではないのだが。


「とりあえず早く出口へ!沙良が負傷してるんだ!」


「殿は任せて。」


「ああ、頼む桜!」


15人を先に行かせて、私は一人残る。

しばらくすると、一人の武装した男がゆっくりと上がってきた。


「桜、おとなしく投降してくれないか?」


「先生、今はさすがに無理かな。やることがあるんで。」


「はぁ、わかった。実力行使でいくことにするぞ!」


「先生とは、手合わせしたことなかったですね!」




唐突に始まった、先生との決闘。

2人とも、互いの過去を知った上での、虚しい戦いの火ぶたが切って落とされた。

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